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複数の病気を抱える患者の「治療負担」を可視化する⽇本版尺度を開発

2025年07月22日11時01分 / 提供:Digital PR Platform

〜治療の⼤変さを定量化、診療や研究での活⽤に期待〜

東京慈恵会医科⼤学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部の⻘⽊拓也准教授らの研究グループは、英国ブリストル⼤学、鉄蕉会 ⻲⽥ファミリークリニック館⼭、筑波⼤
学、南砺市⺠病院と共同で、⽇本初となる「治療負担」を測定する尺度 Multimorbidity Treatment Burden Questionnaire (MTBQ)⽇本版を開発しました。
MTBQ ⽇本版は、多疾患併存(複数の慢性疾患を抱える状態)の患者が⽇常的に感じる
「治療の⼤変さ(治療負担)」多剤服⽤、複数の医療機関への受診、経済的負担などを数値化するために、海外の既存指標をもとに⽇本向けに調整して開発した尺度です。これにより、患者⼀⼈ひとりの負担の⼤きさを把握し、それぞれに適した⽀援のあり⽅を検討できるようになります。今後は、臨床現場での活⽤に加え、研究や地域における健康づくりの場⾯でも広く活⽤されることが期待されます。
本研究の成果は、2025 年 7 ⽉ 18 ⽇付で Scientific Reports 誌に掲載されました。
【研究成果のポイント】
• 複数の慢性疾患を抱える患者の治療負担について、10 項⽬で測定する尺度「MTBQ ⽇本版」を開発しました。
• 患者へのインタビューと全国規模の調査研究データを⽤いて、尺度の信頼性・妥当性を確認しました。
• 383 名の患者を対象に調査したところ、慢性疾患の数や処⽅薬の種類が多いほど治療負担が増⼤傾向にあり、治療負担が⼤きい患者ほど健康関連 QOL や主観的健康感が低下していることが明らかになりました。

今後 MTBQ ⽇本版の活⽤によって、臨床⾯では、個々の患者の治療負担の可視化とそのレベルに応じた個別化アプローチが可能になり、多疾患併存の診療の質向上が期待できます。また研究⾯では、治療負担と関連する患者要因、医療提供要因、社会的要因の特定や、多疾患併存に対する介⼊研究のアウトカムとしても活⽤できるなど、本領域の研究の推進が期待できます。

【論⽂情報】
Aoki T, Okada T, Masumoto S, Takahashi R, Kanakubo Y, Oura M, Matsushima M, Duncan
P. Development and validation of a Japanese version of the multimorbidity treatment burden questionnaire. Sci Rep. 2025:15;25991. doi: 10.1038/s41598-025-11986-9

1.背景
多疾患併存(複数の慢性疾患が⼀個⼈に併存している状態)患者は、⾼齢化に伴い、我が国を含めて国際的に増加傾向です。⽇本で⾏われた全国的な調査では、65 歳以上の住⺠の約 6 割が多疾患併存を有していると報告されています。「治療負担」とは、多疾患併存 患者が⾃⾝の健康状態を管理するために必要な努⼒と、それが患者のウェルビーイングに及ぼす影響を指します。これには、ポリファーマシー、服薬回数の増加、受診・検査頻度の増加、ライフスタイルの変化の要求などが含まれます。治療負担の増⼤は、服薬アドヒアランスの低下や健康状態の悪化などを招くことが、先⾏研究で指摘されています。そのため、海外の多疾患併存の診療ガイドラインでは、患者中⼼のアプローチの⼀環として、治療負担の評価と対応が推奨されています。
しかし、これまで⽇本で利⽤できる治療負担測定尺度は存在しませんでした。そこで本研究は、複数の国々で活⽤されている Multimorbidity Treatment Burden Questionnaire (MTBQ)の⽇本版を開発し、我が国における信頼性と妥当性を検証することを⽬的に実施されました。

2.⼿法
本研究は、質的研究と量的研究の 2 段階で構成される尺度開発・検証研究です。
まず患者報告アウトカム尺度の翻訳ガイドラインに準拠し、MTBQ ⽇本版の開発を⾏いました。次いで、多疾患併存患者を対象に認知的インタビュー(質的研究)を実施し、 MTBQ ⽇本版の内容的妥当性(関連性、包括性、分かりやすさ)を評価しました。
さらに、全国規模の調査研究である National Usual Source of Care Survey (NUCS)のデータを⽤いて、MTBQ ⽇本版の信頼性と妥当性を評価しました(量的研究)。NUCS は、代表性の⾼い⽇本⼈⼀般住⺠を対象とした郵送法による調査研究です。⺠間調査会社が保有する約 7 万⼈の⼀般住⺠集団パネルから、年齢、性別、居住地域による層化無作為抽出法を⽤いて、20〜79 歳の住⺠を選定しました。そのうち、本研究の対象者は、2 つ以上の慢性疾患を持つ者としました。妥当性を評価する際には、MTBQ の各項⽬の記述的分析、尺度の構造を評価する因⼦分析、MTBQ スコアと健康関連 QOL、主観的健康感、慢性疾患の数、受診医療機関の数、処⽅薬の種類との関連を検証する分析を実施しました。

3.成果
開発した MTBQ ⽇本版は 10 項⽬からなり、スコアは 0〜100 点の範囲をとります。スコアが⾼いほど、治療負担が⼤きいことを意味します。
認知的インタビューでは、MTBQ ⽇本版の項⽬が我が国のセッティングにおいても妥当であることが確認されました。インタビューの結果をもとに、尺度の表現を⼀部改良しました。
383 名の多疾患併存患者を対象とした調査研究では、MTBQ スコアが⾼い患者ほど、健康関連 QOL や主観的健康感が低下していました。また、慢性疾患の数や処⽅薬の種類が多いほど、MTBQ スコアが⾼い傾向にあることが確認されました。これらを含む複数の分析の結果から、MTBQ ⽇本版は、我が国において⼗分な信頼性と妥当性を備えていることが検証されました。なお、国際的に頻⽤されるMTBQ スコアのカットオフ値を使⽤した場合、本研究の対象患者の 38%が⾼治療負担群に分類されました。

4.今後の応⽤、展開
今後 MTBQ ⽇本版の活⽤によって、臨床⾯では、個々の患者の治療負担の可視化とそのレベルに応じた個別化アプローチが可能になり、多疾患併存の診療の質向上が期待できます。また研究⾯では、治療負担と関連する患者要因、医療提供要因、社会的要因の特定や、多疾患併存に対する介⼊研究のアウトカムとしても活⽤できるなど、本領域の研究の推進が期待できます。

【メンバー】
東京慈恵会医科⼤学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部 准教授 ⻘⽊拓也鉄蕉会 ⻲⽥ファミリークリニック館⼭ 院⻑ 岡⽥唯男
筑波⼤学医学医療系地域総合診療医学講座 講師 ⾇本祥⼀鉄蕉会 ⻲⽥ファミリークリニック館⼭ 医師 ⾼橋亮太
東京慈恵会医科⼤学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部 博⼠研究員 ⾦久保祐介
南砺市⺠病院 総合診療科 内科副部⻑ ⼤浦誠
東京慈恵会医科⼤学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部 教授 松島雅⼈ Centre for Academic Primary, Care, Bristol Medical School, University of Bristol Polly Duncan

本件に関するお問合わせ先
学校法人慈恵大学 広報課
メール:koho@jikei.ac.jp
電話:03-5400-1280

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