2025年10月09日10時00分 / 提供:@Press
株式会社ジーンクエスト(注1)(以下、ジーンクエスト)と富士通株式会社(注2)(以下、富士通)は、富士通のAIサービス「Fujitsu Kozuchi」のコア技術である因果AIを活用し、遺伝子とライフスタイルの関係性に新たな知見を得ること(以下、本研究)に成功しました。
因果AIは、高速因果探索機能、信頼性強化機能と施策提案機能から構成されます。高速因果探索機能は、富士通独自の高速因果探索手法(注3)により、データ項目間の因果関係を従来技術より約1,000倍高速に推定します。信頼性強化機能は、手持ちのデータが少ない場合でも、既に確立された信頼性の高い因果関係(例:専門家の知見や過去の実験結果)を組み込むことで、より確かな因果関係を導き出せる技術です。さらに、施策提案機能は、従来の分析による因果関係の見える化に加えて、推定された因果関係に基づき最適な施策の提案までを行うことが可能です。
因果AIの活用により、個別の関連性だけでなく、甘味嗜好やコーヒー・アルコール摂取頻度とこれらの関連遺伝的特性との関連性、遺伝的要因が体格指数(以下、BMI)に与える影響について、多角的な因果関係の構造を導き出しました。また、国立大学法人京都大学(注4)(以下、京都大学)、国立大学法人弘前大学(注5)(以下、弘前大学)が弘前大学COI-NEXTの岩木健康増進プロジェクトとの連携で開発した「弘前健診因果ネットワーク」(注6)を転用し、信頼性強化機能に活用することで、生活習慣や健康、背景因子が関わる事象間のより精緻な因果関係を示唆することができました。
この弘前健診因果ネットワークの活用は、京都大学と富士通の産学共同講座「大規模医学AI講座(富士通リサーチラボ)」(注7)の成果を活用したものです。
今後、これらの推定した因果関係をもとに、施策提案機能により、個人の食嗜好・ライフスタイル習慣・体格、遺伝的特性に応じた、より個別に最適化された健康施策提案が可能になることが期待されます。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/549467/LL_img_549467_1.png
研究の概要
■実施の背景
ゲノム科学の進展により、遺伝子と体質・行動の相関は多く報告されています。しかし、何が原因で何が結果なのか、どのようなメカニズムで影響が生じているのかという因果関係を深掘りすることは、相関とは異なり多因子間の影響を考慮する必要があるため困難でした。特に、食嗜好、ライフスタイル習慣、体格といった複雑な要素が絡み合う領域では、精密なデータ分析が不可欠です。
本研究では、ジーンクエストが有する大規模な遺伝子・アンケートデータと、富士通の因果AIを組み合わせ、富士通の高速因果探索機能を用いることで、これらの複雑な因果メカニズムをより深く分析しました。これにより、複雑な関係性の中にある隠れた要因や、様々な因子間の相互作用を精緻に分析し、新たな価値創出に貢献できることを実証しました。
■得られた成果の詳細
本研究では、同意が得られた約4,000名の遺伝子データとアンケートデータを使い、富士通の因果AIが提供する信頼性強化機能と施策提案機能を活用し、主に以下の2領域で因果分析を行いました。
1. アルコール代謝に関連する遺伝的特性と食習慣の関連性
アルコール分解能力に関連する遺伝的特性は飲酒頻度と強く関連し、ジーンクエストによる先行研究でも甘味の嗜好性やコーヒーの摂取頻度など様々な食習慣との関連が示されています。甘味への嗜好性やコーヒー摂取頻度については、これまで遺伝的要因の影響が示唆されていました。因果AIを用いた分析の結果、甘味への嗜好性には遺伝的なアルコールの強さも一部関連するものの、その関連は主に飲酒頻度を介したものである可能性が示されました。また、コーヒー摂取頻度に関しては飲酒頻度との関連は見られず、遺伝的なアルコールの強さが影響している可能性が示唆されました。これは、特定の遺伝的特性が個人の飲料選択に影響を及ぼす可能性を示しています。
2. 体格に関連する遺伝的特性と食習慣・BMIの関連性
ダイエットやBMIに関連する多数の遺伝的要因を統合した指標であるポリジェニックスコア(注8)を用いて、遺伝的な太りやすさと食習慣、BMIとの因果的関連性を分析しました。解析の結果、遺伝的な太りやすさとBMIとの間に直接的な関連性が示唆され、その統計的な影響度は性別や年齢と同程度である可能性が示されました。また、脂っこい味や甘い味といった食嗜好との間にもわずかな関連性が見られました。
特に、信頼性強化機能を活用して「弘前健診因果ネットワーク」を転用した分析では、より精緻な結果が得られ、これまでの分析でポリジェニックスコアに次ぐBMI変化の主要因と示唆されてきた食事量の影響が相対的に低下し、脂っこい味やうま味への嗜好性がより影響力の高い要因として示唆されました。さらに、親族の病歴(がん、高血圧症、心臓病など)や調査対象者の身長、雇用形態など、これまで分析対象外であった因子が、変数間の隠れた共通原因となっている可能性も示唆されました。
加えて、因果AIの施策提案機能により、個人の特性を考慮した目標(例:BMIの低下、特定の食習慣の改善)達成のための具体的なアクションを、因果関係に基づいて提示できることが示唆されました。
■今後の展望
ジーンクエストは、本研究で得られた因果AIの知見をもとに、今後はアンケート、健康診断、医療情報などを組み合わせ、より多角的な研究を進め、個別化された健康増進や疾患予防アプローチの探索に貢献していきます。
また、富士通の因果AIは、医療・遺伝子分野に留まらず、広範な領域において複雑なデータから新たな知見を抽出し、意思決定を支援する強力なツールとなり得ることを示しました。今後富士通は、製造業での品質向上やマーケティング戦略の最適化など、様々な産業における課題解決と新たな価値創出に向けた取り組みを加速していきます。
京都大学大学院医学研究科 教授 奥野 恭史様のコメント
病気の発症には、遺伝子の働きと生活環境が深く関わっています。しかし、これら遺伝要因と環境要因は複雑に絡み合っており、病気との関係が未解明な点が多い現状があります。この取り組みは、データに基づいた客観的な発症原因の解明を進め、病気の発症に対する理解を深める重要な一歩です。個別化された予防対策や効果的なアプローチの実現に寄与すると考え、大いに期待しています。
弘前大学副学長・教授/グローバルWell-being総合研究所副所長/健康未来イノベーション研究機構長
村下 公一様のコメント
弘前大学COI-NEXTでは、岩木健康増進プロジェクト健診で蓄積した超多項目健康ビッグデータ(3,000項目)をコアとして包括的リアルワールドデータプラットフォームが持つ研究的価値、社会的価値を更に強化し、真の社会イノベーションの創出に取り組んでいます。この度、当拠点のビッグデータを活用した研究成果が最先端技術と融合し、新たな知見創出につながったことを大変うれしく思います。今回の成果が予防医学の発展とともに、世界のWell-being向上にも貢献することを大いに期待しております。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
注釈
注1 株式会社ジーンクエスト:
本社 東京都港区、代表取締役 岩田 修
注2 富士通株式会社:
本店 神奈川県川崎市、代表取締役社長 時田 隆仁
注3 富士通独自の高速因果探索手法:
H. Suzuki, LayeredLiNGAM:A Practical and Fast Method for Learning a Linear Non-gaussian Structural Equation Model(ECML PKDD 2024)
https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-3-031-70365-2_13
注4 国立大学法人京都大学:
所在地 京都府京都市、総長 湊 長博
注5 国立大学法人弘前大学:
所在地 青森県弘前市、大学長 福田 眞作
注6 弘前健診因果ネットワーク:
弘前大学COI-NEXTが岩木健康増進プロジェクト健診で取得した超多項目健康ビッグデータに対して、京都大学の研究グループが独自のベイジアンネットワーク技術を適用して構築した、信頼性の高い因果ネットワーク。
https://pr.fujitsu.com/jp/news/updatesfj/2025/03/6.html
注7 京都大学と富士通の産学共同講座「大規模医学AI講座(富士通リサーチラボ)」:
健康医療の分野の課題を解決する新たなAI技術の研究開発を行う。これは、国内外の大学の中に研究拠点を設け、富士通の研究員が大学内に常駐または長期的に滞在しながら産学連携の活動を行う「富士通スモールリサーチラボ」の取り組みの一つ。
https://www.fujitsu.com/jp/about/research/srl/kyoto-u/index.html
注8 ポリジェニックスコア:
発症リスクに複数の遺伝子が関わる疾患や体質において、数十から数万の遺伝子の違いに様々な重みづけを行い総合したスコア。特に疾患に対するポリジェニックスコアについてはポリジェニックリスクスコアとも呼ばれている。アルコールに対する強さなど数個程度の遺伝子が関わる疾患や体質ではなく、生活習慣病など多くの遺伝子が関与する疾患や体質においてはポリジェニックスコアを使用した方がより精度よく評価できることが近年の研究により示されて、各疾患に対してのポリジェニックスコアの予測モデルが開発されてきている。
関連リンク
・Fujitsu Kozuchi
https://www.fujitsu.com/jp/services/kozuchi/
・複数データを統合することで、少量データでも高精度に因果関係を導出するAI技術を開発(2025年3月6日 Updates from FUJITSU)
https://pr.fujitsu.com/jp/news/updatesfj/2025/03/6.html
・日本人集団において甘味の嗜好性に強く関与する遺伝子領域を発見(2020年6月22日 ジーンクエストニュースリリース)
https://genequest.jp/topics/news/0/420
・日本人集団におけるコーヒーの摂取頻度に関与する遺伝子領域を発見(2019年8月6日 ジーンクエストニュースリリース)
https://genequest.jp/topics/news/0/366
【株式会社ジーンクエストについて】
2014年に国内で初めて大規模遺伝子解析サービスを一般消費者向けに展開。生活習慣病など疾患のリスクや体質の特徴など350項目以上におよぶ遺伝子を調べ、病気や形質に関係する遺伝子をチェックできるサービスを提供しています。遺伝子の研究を推進し、正しい使い方を広め、人々の生活を豊かにすることをビジョンに掲げ、蓄積されたゲノムデータを活用し研究活動を積極的に行っています。
企業サイト: https://genequest.jp/
【富士通株式会社について】
富士通のパーパスは、イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくことです。世界中のお客様に選ばれるデジタル・トランスフォーメーション(DX)パートナーとして、約11万3,000人の富士通グループ社員が、世界が直面する様々な課題の解決に取り組んでいます。富士通が注力する5つの重点技術領域である、AI、コンピューティング、ネットワーク、データ&セキュリティ、およびコンバージングテクノロジーを駆使した幅広いサービスとソリューションを組み合わせ、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を実現します。
富士通(東証:6702)の2025年3月期の連結売上高は3兆6,000億円(230億米ドル)で、国内ITサービス市場におけるベンダー売上でトップシェアを維持しています。詳しくは、富士通の公式ウェブサイトをご覧ください。 https://global.fujitsu/ja-jp
■本件に関するお問い合わせ
株式会社ジーンクエスト
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