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【ミヨシ油脂】広島大学と北海道大学との共同研究論文を発表、油を0.5%で固める単結晶を特定

2025年06月25日11時45分 / 提供:PR TIMES

~新技術で安定な油のゲルの作製へ~

ミヨシ油脂株式会社(本社:東京都墨田区、代表取締役社長兼CEO:三木逸郎)は、広島大学と北海道大学との共同研究論文を発表しましたのでお知らせします。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/86923/114/86923-114-1776d5b0ed973143f5968f174c27e608-1280x202.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]

◆本研究成果のポイント
・植物油をゲル状(ゼリー状)に固める際にできる細長い繊維状の結晶が、「脂質ウィスカー結晶」(※1)という強度の高い結晶であることを世界で初めて特定しました。
・脂質ウィスカー結晶を含むと、わずか0.5 wt%(質量パーセント)という非常に低いゲル化剤濃度でも油をゲル化でき、高い強度と安定性を示すことを実証しました。さらに、温度制御を行うことでも、こうした特性が向上することが分かりました。
・本技術を植物性代替肉に応用することにより、従来技術と比べ風味や口どけが改善されたよりおいしい植物性代替肉の開発に貢献できる可能性があります。

◆概要
ミヨシ油脂の大石憲孝、津田信治、広島大学大学院統合生命科学研究科 中野郁也 氏(博士課程前期)、小泉晴比古 准教授、上野聡 教授、北海道大学低温科学研究所 木村勇気 教授、山崎智也 准教授の共同研究グループは、植物性油脂をゲル化したオレオゲル(※2)に含まれる結晶が「脂質ウィスカー結晶」と呼ばれる単結晶であること、そしてこれがオレオゲルの高い強度と安定性に大きく貢献することを実証しました。
先行研究において我々は、特定の油脂(トリアシルグリセロール(※3))を低濃度(0.5 wt%)で添加することで、油がゲル化し、一般的なものとは異なるユニークな繊維状結晶が形成されることを見出していました。(Oishi et al., Food Structure (2023).)
今回の研究では、この繊維状結晶が、材料科学分野で機械的特性(※4)に優れることで知られる「ウィスカー結晶」という単結晶であることを、透過型電子顕微鏡(TEM)観察(※5)と電子回折パターン解析(※6)により世界で初めて特定しました。さらに、脂質ウィスカー結晶の存在により、オレオゲルが非常に低い濃度でも高い機械的強度と優れた安定性(4ヶ月間油漏れなし)を示すことを実験的に確認しました。
本研究成果はFood Research Internationalのオンライン版に2025年5月13日付で掲載されました。

◆背景
世界人口の増加に伴い食料供給のリスクが高まっており、持続可能な食料供給の手段として、大豆などの植物由来原料から作られる植物性食品が注目されています。特に植物性代替肉はハンバーガーやソーセージなどの形で既に流通していますが、多くは「ジューシーさ」に欠けるという課題を抱えています。これは、油の小さな粒「油滴」が植物性タンパク質のネットワークにうまく閉じ込められないためです。この課題を解決する方法として、油をゲル状に固める「オレオゲル」が有望視されており、いくつかの先行研究があります(Mahmud et al., Gels (2024), Liu et al., Food Sci. Nutr. (2024).)。オレオゲルとは、室温で固体となる、少量の植物性ワックス(ゲル化剤)で大量の液体油を保持する構造を有した油のゲルのことです。オレオゲルはもともとマーガリンの代替品として考案され、トランス脂肪酸(※7)を含まず、飽和脂肪酸(※8)を削減できる点から健康面でも注目されてきました。しかし、植物性ワックスから作られる従来のオレオゲルはネットワーク構造が脆く、実用化の妨げとなっていました。また、強度を高めるにはゲル化剤の濃度を上げる必要があり、風味に悪影響を与えるという問題もありました。
研究グループは、ゲル化温度を制御することで、低濃度のトリアシルグリセロールを用いたオレオゲルの作製に成功しました。トリアシルグリセロールは、食品に広く使われており、植物性ワックスよりも食品に利用しやすいという利点があります。特に、トリアシルグリセロールから構成されているFHHPMF(※9)(主要成分PSP※10)をわずか0.5 wt%添加するだけでゲル化すること、そしてこの際に一般的な針状結晶ではなく、細長い繊維状結晶が観察されることを見出していました。材料科学において、このような細長い繊維状結晶は「ウィスカー結晶」と呼ばれ、原子が規則正しく整列した「単結晶」であり、内部にずれや乱れ(結晶欠陥)がないため、非常に高い強度や耐久性といった機械的特性を発揮することが知られています。しかし、オレオゲル中で観察されたこの繊維状結晶が本当にウィスカー結晶であるかは、実験的に証明されていませんでした。

◆研究成果の内容
本研究では、0.5 wt%のPSPを含むオレオゲルについて、TEMを用いた詳細な観察を行いました。その結果、顕微鏡下で確認されていた細長い繊維状結晶は、幅約450 nm(ナノメートル)の真っ直ぐな晶出物であることが分かりました。晶出物とは、溶液や融液中から固体(結晶)が分離して取り出された物質のことを指します。本研究では、脂質ウィスカー結晶がこれに該当します。規則的な点状の像が現れる電子回折パターンが確認され、これは単結晶特有の特徴であることから、本晶出物が単結晶であることが明らかになりました。(図1)この特徴は、材料科学で知られるウィスカー結晶そのものです。電子回折パターンを解析した結果、この脂質ウィスカー結晶は(011)面という特定の結晶面に沿って伸びて成長していることも分かりました。(図2)またオレオゲルのマクロな物性を評価するため、粘弾性測定を行ったところ、温度制御(テンパリング)を行ったサンプルは、行わないサンプルに比べて、ゲルの硬さの指標となる貯蔵弾性率(※11)が約7倍と大きく、また、安定性の指標となるゲルからゾルへ変化するのに必要な歪みも約6.5倍大きくなることが判明しました。これらの結果は、脂質ウィスカー結晶を含むオレオゲルが高い機械的強度を持つことを示しています。温度制御(テンパリング)によって晶出した脂質ウィスカー結晶が単結晶として強固な骨格を形成することで、高い機械的強度と安定性がもたらされたのです。なお、温度制御を行うことで強度と安定性の高いオレオゲルが得られることは、これまでの先行研究でも示されており、本結果はそれを裏付けるものです。
特に、わずか0.5 wt%という低濃度のオレオゲルでも、4ヶ月間20℃で保管しても油漏れが全く観察されませんでした。これは、一般的な植物性ワックスを用いた低濃度オレオゲルでは油漏れが深刻な問題となることが多い点を踏まえると、驚くべき安定性です。植物性ワックスで作製されたオレオゲルの場合、1ヶ月ほどで液漏れが起こります。これらの高い機械的強度と安定性は、脂質ウィスカー結晶がオレオゲルのゲル化剤として存在し、強固なネットワークを形成していることによるものです。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/86923/114/86923-114-c84d4f62a22cbc73db7314ca0ade9146-3288x1115.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1:オレオゲル中の脂質ウィスカー結晶

[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/86923/114/86923-114-12a91cf24ee7243c3fe4a348c153ac34-1409x940.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2:011方向から見た脂質ウィスカー結晶

◆今後の展開
植物性代替肉に脂質ウィスカー結晶という単結晶から構成されたオレオゲルを使用することにより、従来技術と比べ風味や口どけが改善されたよりおいしい植物性代替肉の開発に貢献できる可能性があります。今後は、この技術を食品産業だけでなく、さまざまな分野での活用を目指します。

◆論文情報
タイトル:“Creation of Lipid Whisker Crystals for Stable Oleogel Preparation”
著者名:Haruhiko Koizumi1※, Fumiya Nakano1, Noritaka Oishi2, Tomoya Yamazaki3, Yuki Kimura3, Shinji Tsuda2, Satoru Ueno1
著者所属:広島大学 大学院統合生命科学研究科1,ミヨシ油脂2,北海道大学 低温科学研究所3
責任著者※
掲載誌:Food Research International
掲載日:2025年5月13日
DOI:10.1016/j.foodres.2025.116451

なお、本研究は、JSPS科研費 JP24K01362の支援により行われました。
また、広島大学から論文掲載料の助成を受けました。

◆用語解説
※1 脂質ウィスカー結晶
トリアシルグリセロールが形成する、細長く真っ直ぐな単結晶。結晶欠陥が少ないため、優れた機械的特性を持つ。

※2 オレオゲル
油をゼリーやプリンのように固めた物質を指す。名前は「油」を意味する「オレオ」と、液体と固体の中間状態である「ゲル」から来ている。

※3 トリアシルグリセロール
植物油や動物性脂肪の主成分で、一般的に「中性脂肪」と呼ばれる脂質。グリセリンに3つの脂肪酸が結びついた構造をしており、食品や体内のエネルギー源として知られている。

※4 機械的特性
物や材料が力を受けたときにどれだけ耐えられるかを示す性質のこと。強度、硬さ、弾性などが含まれる。

※5 透過型電子顕微鏡(TEM)観察
電子を使って物質を透かして観察する顕微鏡で、100万分の1ミリ単位の細かい構造まで見ることができる。

※6 電子回折パターン解析
電子ビームを結晶にあて、その散乱の様子(回折パターン)を観察する技術。

※7 トランス脂肪酸
加工食品などに含まれ、過剰に摂ると心臓病のリスクが高まるとされる脂肪の一種。

※8 飽和脂肪酸
肉や乳製品に多く含まれ、摂りすぎると血液中の悪玉コレステロールが増える原因となる。

※9 FHHPMF
ハードPMF極度硬化油の略称であり、パーム油を最大限に水素添加して固形化した油脂。

※10 PSP
3価のアルコールであるグリセリンに、飽和脂肪酸である炭素数16個のパルミチン酸が2つ、炭素数18個のステアリン酸が1つ結合したトリアシルグリセロール。

※11 貯蔵弾性率
物質が元の形に戻ろうとする力の強さを表す指標で、数値が高いほど硬く、弾力があることを意味する。

【問い合わせ先】
<研究に関すること>
広島大学 大学院統合生命科学研究科 准教授 小泉 晴比古(こいずみ はるひこ)
Tel:082-424-7935
E-mail:h-koizumi@hiroshima-u.ac.jp

北海道大学 低温科学研究所 教授 木村 勇気(きむら ゆうき)
Tel: 011-706-7666
E-mail:ykimura@lowtem.hokudai.ac.jp

ミヨシ油脂株式会社 戦略企画本部 技術研究部 大石 憲孝(おおいし のりたか)
※研究につきましては、経営企画部 コーポレート・コミュニケーション課へお問い合わせください。

<広報・報道に関すること>
広島大学 広報室
TEL:082-424-6762
E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

北海道大学 社会共創部広報課
Tel:011-706-2610
E-mail:jp-press@general.hokudai.ac.jp

◆ミヨシ油脂株式会社(本社:東京都墨田区、代表取締役社長兼CEO:三木逸郎)
「油脂の力」で暮らしをニッコリ。それが私たちの仕事です。
「あ、このパンおいしい」「このティシュー、肌触りがいいね」など。ミヨシ油脂がつくる製品は、世の中で販売されているさまざまな商品の中に入って、おいしさや使用感、機能性を高めることに役立っています。一人ひとりの心に満足をひろげるものづくり。私たちは高い技術に基づくすぐれた製品の提供を通して、暮らしのすみずみに幸せをお届けしたいと願っています。
https://www.miyoshi-yushi.co.jp/

また、研究・商品開発に役立つ情報を発信するWebサイト「ミヨシ未来プラットフォーム」を展開しています。ミヨシ油脂の製品情報や技術情報を知りたい方、商品開発にお悩みの方はこちらをご覧ください。
https://mmp.miyoshi-yushi.co.jp/

[画像4: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/86923/114/86923-114-30ec677a126d1fc7959117f4d121db74-1444x315.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]

【本研究ならびにお客様・報道関係者からのお問い合わせ先】
ミヨシ油脂株式会社 経営企画部 コーポレート・コミュニケーション課
担当:堀越
e-mail:info@miyoshi-yushi.co.jp

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