2023年03月06日16時39分 / 提供:マイナビニュース
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名古屋大学(名大)は3月3日、クフ王のピラミッドの北側にある石組みの切妻構造「シェブロン」の背後にあり、2016年に研究チームが発見した南北に延びる通路状の未知の空間「ScanPyramids North Face Corridor」(NFC)の位置と形状を、素粒子ミューオンを用いた多地点宇宙線イメージング技術により、数cmの高精度で詳細に特定したことを発表した。
同成果は、名大大学院 理学研究科の森島邦博准教授、同・大学 未来材料・システム研究所の北川暢子特任助教に加え、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、エジプト・カイロ大学、仏・CEAなどの研究者も参加した国際共同研究チーム「スキャンピラミッド」によるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
スキャンピラミッドでは2015年より、最先端科学技術を用いてエジプトのピラミッド群の調査を行ってきた。名大が行っているのは、宇宙線が大気圏内に飛び込むことで生じる二次宇宙線の一種であるミューオンの高い物質透過能力を利用した、巨大構造物や自然地形などに対する非破壊内部可視化技術だという。
宇宙線イメージングによるピラミッドに関する発見は2016年のNFCだけでなく、翌2017年の大回廊上部の「ScanPyramids Big Void」(SPBV)も知られている。両空間ともにピラミッド外部からつながる通路は確認されておらず、ピラミッドを透視することで初めて発見できたといえるものであるため、両空間ともに今もなお4500年前の建造当時の構造が保たれていると推測されている。
ミューオンの検出は、画像フィルム型の「原子核乾板」検出器を用いて行われる。同検出器は電源不要、軽量、コンパクトという特徴を持つことから、従来は不可能だった場所にも設置することが可能という特徴がある。そして2019年、その特長を活かし、下降通路の4か所(NFCの真下)に6器、アルマムーンの通路の3か所(NFCを見上げるような配置)に4器が設置され、多地点からの同時観測が行われた。
下降通路はアルマムーンの通路と比べてNFCに近いため、そこに設置された検出器からは、より高い解像度でNFCを画像化でき、その断面形状を高精度で決定できるという。一方、アルマムーンの通路の検出器からは、NFCを側面から画像化できるために、高精度でNFCの傾きや長さを決定できるという。
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宇宙線イメージングの解析用として、ピラミッド内外の詳細な3Dモデルがカイロ大学によって構築された検出器の位置を5cm以下の精度で特定したモデルを用いて、NFCが存在しない場合に、各検出器から期待される宇宙線イメージのシミュレーションが実施された。その結果をもとに、各検出器から得られたデータとの比較が行われた。もし一致しない領域が存在すれば、NFCの存在が示されたことになるのである。解析の結果、下降通路およびアルマムーンの通路の全検出器においてNFCが確認されたとする。
下降通路の解析にて、4か所のデータで確認されたNFCの存在領域からおおよその位置と全長が推定され、その結果をもとに、NFCの形状を直方体と仮定した上で、シェブロンの特徴点を原点とした3Dモデル中でその位置や形を変更しつつ、データとシミュレーション結果が最も良く一致する各種パラメータの推定が行われた。その結果、NFCは、シェブロンの表面から80cm背後におよそ2m×2mの断面を持つ長さ約9mの空間であることが判明。位置と形を決定するパラメータの精度は、数cm程度であり、宇宙線イメージングとしては、極めて高い精度が得られたという。
また、アルマムーンの通路の検出器からのデータ解析では、NFCの傾きが評価された。全検出器から得られた結果を下降通路の中心を通る垂直な面に投影し、投影された位置分布の解析が実施されたところ、NFCは水平であることが判明したほか、アルマムーンからの観測結果と下降通路からの観測結果は、良く一致したとする。
さらに、CEAの研究チームがガス検出器を用いた計測を独立して実施。下降通路とその周辺3か所から得られたデータの解析が行われ、NFCの形状が推定されたところ、原子核乾板とガス検出器の2つの完全に独立な解析により得られたNFCのパラメータ推定値は、それぞれ誤差の範囲内で一致したという。
今回のNFCに関する成果について研究チームでは、シェブロンの役割にとって決定的なものになる可能性があるとしているほか、今回の成果により、NFCとSPBVとの関係や、シェブロンやNFCの役割についての考古学的考察など、異分野にまたがる融合研究へと発展し、クフ王のピラミッドの謎の解明につながることが期待されるとしている。