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都立大など、ハイエントロピー超伝導体の高圧下特性の起源に迫る成果を発表

2023年03月03日19時55分 / 提供:マイナビニュース


東京都立大学(都立大)、島根大学、東京大学(東大)、北海道大学(北大)、広島大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)の6者は3月2日、超伝導体や熱電材料として注目されている「ハイエントロピー型金属テルライド」の局所構造乱れ、原子振動特性、電子状態を解明したことを共同で発表した。

同成果は、都立大大学院 理学研究科の水口佳一准教授、同・栗田玲教授、島根大 総合理工学部の臼井秀知助教、東大 生産技術研究所の高江恭平特任講師、北大大学院 工学研究院の三浦章准教授、広島大 先進理工系科学研究科の森吉千佳子教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、材料の物理学を扱う学術誌「Materials Today Physics」に掲載された。

ハイエントロピー合金とは、5元素以上が固溶した合金のうち、それぞれの元素の占有率が5~35%を占めるもののことをいう。金属テルライドは常圧下ではNaCl型構造を取るが、高圧印加によってCsCl型構造に変化し、超伝導転移温度(Tc)が上昇する。この高圧領域において、PbTeや(Sn,Pb)Teなどは加圧によるTcの低下を示すが、ハイエントロピー組成(Ag,In,Sn,Pb,Bi)TeではTcが変化しないため、高い圧力領域でのTcは(Ag,In,Sn,Pb,Bi)TeがPbTeを大きく上回る。

この圧力下Tc不変現象は、より複雑なハイエントロピー金属テルライドで観測されているため、高い配置エントロピー(ΔSmix)によって生じた局所構造乱れや、それに起因した特異な原子振動特性や電子状態が影響している可能性が想定されていた。しかし、局所乱れの評価や原子振動特性、電子状態に関する研究は進んでおらず、圧力下Tc不変現象の起源は不明だったという。

また、ハイエントロピー金属テルライドは、超伝導のみならず熱電材料としても高性能を示すことが報告されており、局所乱れの評価と原子振動特性および電子状態の解明は、重要な課題となっていた。そこで今回の研究では、NaCl型構造を持つ金属テルライドMTeにおいて、MサイトをAg、In、Sn、Pb、Biで固溶した合金を対象とすることにしたという。

元素固溶によってΔSmixは上昇するため、ハイエントロピー合金は一般的にΔSmix>1.5R(Rは気体定数)を持つ。今回の研究ではΔSmixが0~1.6Rとなる試料が多数設計され、結晶構造および局所乱れの大きさが評価された。すると、ΔSmixの上昇により局所的に構造乱れが導入されていることが見出されたとする。


MTeは高圧の印加でNaCl型からCsCl型構造に相転移し、CsCl型構造において高いTcが発現する。そこで電気抵抗を測定したところ、Tcの圧力依存性が観測された。続けて圧力に対するTcの変化率の評価を行ったところ、ΔSmixが0.5R~1.0R近傍でdTc/dPが小さくなり、Tc不変現象が発現することがわかった。この急激な変化率の変化が生じるΔSmixは、Mサイト元素を2から3元素に増加することで生じることが判明。つまりTc不変現象は、Mサイトが3元素以上を含む場合に発現していたのである。

次に、同現象の起源を探るため、分子動力学シュミレーションにより原子振動特性が評価された。通常の結晶であれば、対応する振動数にピーク構造を持つが、Mサイトが3元素以上のMTeにおいてはピークが消失し、ブロードな構造のみが観測される。このことから、MサイトのΔSmix上昇によって導入された局所構造乱れが、原子振動特性を大きく変調することが判明したという。また、観測されたブロードな構造はガラスなどで観測される状態密度と似ているとした。

次に、第一原理計算によって、Tc不変現象が発現するCsCl型構造での電子状態が評価された。PbTeと、Mサイトを3元素および5元素で固溶した場合の結果を比較すると、バンドがぼやけていることが明らかとなった。このことは、Mサイトの多元素固溶が電子バンドを大きく変調することが示されているという。一方、Teサイトは固溶していないため、Te原子の軌道に起因するバンドの変調は少ないこともわかった。以上のことから、Mサイトを3元素以上で多元素固溶することで、原子振動特性や電子状態が大きな変調を受け、ガラスのような状態になることが見出されたとする。

高圧下で観測されるTc不変現象は、従来型超伝導機構では単純に理解できないという。そのため、通常の結晶では現れない特異な原子振動と電子状態が、同現象を生じさせている可能性があるとする。研究チームは今後、単結晶試料を用いた測定や、超伝導機構に関する理論研究が進むことで、同現象のさらなる解明が期待されるとした。

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