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東大など、フラーレン1分子の電子放出位置を1nm以下で制御することに成功

2023年03月02日17時27分 / 提供:マイナビニュース


東京大学(東大)と科学技術振興機構(JST)の両者は3月1日、大きさが1nm程度のフラーレンを固体上に配置し、そこに電子を通過させる際に光を照射することで、同分子から放出される電子の位置を1nm以下のスケールで制御することに成功したと共同で発表した。

同成果は、東大 物性研究所(物性研)の柳澤啓史特任研究員(研究当時は独・ルートヴィヒ・マクシミリアン大学 DFGプロジェクトリーダー)らの研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」にて3月6日に掲載される。

光を固体に照射すると、光電効果により電子を飛び出させることができ、それはフェムト秒やアト秒などの極めて短い時間スケールで動作するスイッチへと応用できる可能性がある。これにより、コンピュータの処理速度が現在の1000倍~100万倍にまで高速化することが期待されている。

電子が飛び出す位置は、古典電磁気学的効果を用いることで10nm程度の精度で制御でき、それにより超高速スイッチを固体内に集積することができるという。ただし、さらなる集積化のためには、より極小領域で電子の放出位置を制御する必要があるが、10nmを切る領域での操作は技術的に困難だったとする。

そうした中で研究チームは、その困難を克服するため、大きさが1nm程度のフラーレンを1個固体上に配置し、同分子を電子に通過させることで量子的な効果が働き、1nm以下のスケールで電子の飛び出す位置を変化させられるのではないかと考察したという。そこで同実験を実現するため、固体上に配置したフラーレン1分子から電子が放出される構造(「1分子電子源」)を用いることにしたとする。

一方で、1分子電子源からどのようなメカニズムで電子が放出されるのかは、約70年もの間未解明だったという。そのため、今回その謎の解明も試みたとする。

研究チームはまず、電子源に光を照射し、その際にどのように電子の放出パターンが変化するのか、電界電子放出顕微鏡(FE顕微鏡)を用いた観測を行った。その結果、光を照射した場合と照射しない場合で、電子の放出位置が大きく変化することが観測されたという。研究チームはこの結果について、電子の分岐器が1分子で作製されたことを示すとした。

さらに、量子的な計算モデルが構築され、実験との比較が行われた。するとこのような大きな変化は、フラーレン1分子に広がる電子の特異な広がり方に起因していることが示されたとする。これにより、約70年来の謎が解明されたのである。


今回の研究成果であるフラーレン1分子による電子の分岐器は、光のパラメータを変えることにより、さらに分岐の機能を増やすことが理論上可能だ。分岐を増やすことは、超高速スイッチを1分子に集積させることを意味する。この技術を用いれば、いくらスイッチを集積化しても1分子のサイズは変わらないため、画期的な技術につながることが期待されるという。

また、今回の研究は、スイッチ集積化という技術開発の側面だけでなく、顕微鏡法開発の側面もあるとする。光により固体から出された電子は顕微鏡に用いられ、ナノスケールに潜むフェムト秒やアト秒といった極短時間における現象を、実空間で観測することが可能だ。だがその一方で、このような顕微鏡の空間分解能は10nm程度だった。今回の研究では、FE顕微鏡を用いるとこの分解能を30倍以上の0.3nm程度まで改善させることが可能であることも示されたとする。

現在、さらにFE顕微鏡の分解能を改善させるプロジェクトがさきがけ研究において行われており、まだ誰も達成できていない1生体分子の原子分解能観察を目指しているとのこと。今回解明されたメカニズムにより、原子を観測するための方法は1つではなく、いくつかあることが見えてきたといい、今後それらのアイディアを検証し、世界初の顕微鏡法を開発するとしている。

さらに今回解明された電子の1分子通過メカニズムは、FE顕微鏡が1分子内に潜む特異な電子の広がりを観測するための手法であることも示されているとする。1分子内に潜む電子の特異な広がりにはさまざまなパターンがあり、たとえば2つ葉や、4つ葉、リング構造といったものが見られ、まるで花畑のような世界が広がっているという。これらの構造は、電子が原子レベルの領域に閉じ込められた時に現れ、量子的な効果により引き起こされるものである。つまり、FE顕微鏡は量子という極小の世界を観測できるツールとなり得るとした。

FE顕微鏡は、その動作原理がほかの電子顕微鏡に比べて非常に簡便であるため、少し高価なパソコンの購入価格程度で作製できる可能性があるという。研究チームは今後、1分子に潜む量子の世界を観測できるFE顕微鏡を手に入れやすい価格で作製し、小中学校などの教育機関で使用してもらうことも検討しているとした。

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