旬のトピック、最新ニュースのマピオンニュース。地図の確認も。

量研機構など、てんかん向けの新規オンデマンド治療法を動物実験で実証成功

2023年03月02日16時50分 / 提供:マイナビニュース


量子科学技術研究開発機構(量研機構)、新潟大学(新大)、京都大学(京大)の3者は3月1日、量研機構が開発した新技術「化学遺伝学」を利用して、「てんかん」の症状が発生した時にのみ神経活動を抑制するオンデマンド治療法を開発し、サルを用いた動物実験において、その有効性を実証することに成功したと共同で発表した。

同成果は、量研機構 量子生命・医学部門量子医科学研究所 脳機能イメージング研究部の宮川尚久客員研究員、同・南本敬史グループリーダー、新大 川嵜圭祐准教授、京大 ヒト行動進化研究センターの高田昌彦特任教授、同・井上謙一助教、東京都立神経病院の松尾健医長、情報通信研究機構の鈴木隆文室長らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

てんかんは、局所の神経細胞の異常興奮が脳の広い範囲に伝わり、けいれんや意識消失などを引き起こす深刻な症状が特徴で、100人に1人がかかるともいわれる患者数の多い疾患だ。患者の約6~7割は服薬で症状をコントロールできるが、薬が効かない難治性てんかんもあり、そうした場合は、周辺部位を多少含んでも病巣部を切除する外科治療が行われるという。

しかし、病巣部近辺に運動・言語などの重要な機能がある場合は、病巣部の切除による機能喪失が生じる危険性がある。そのため、こうした難治性てんかんに対する効果的な代替治療法の開発が求められていた。そこで研究チームは今回、量研機構が初めて霊長類への応用に成功した新技術の化学遺伝学を応用し、てんかん症状が出た時にだけ、病巣部の異常な神経活動のみをピンポイントに抑制するオンデマンド治療法の開発を目指すことにしたという。

化学遺伝学とは、特定の人工薬の作用点となる人工受容体を、遺伝学的な手法を用いて標的神経細胞に導入する技術である。その結果、人工薬を全身投与するごとに、その細胞の活動だけをピンポイントで数時間コントロールすることが可能となるという。

今回、前頭葉てんかんの動物モデルとしてはカニクイザルが用いられ、その運動機能を司る一次運動野をてんかんの仮想病巣部位に設定。同部位に人工受容体が導入された。そして、人工薬剤投与により、異常活動やてんかん発作を素早く、確実に、そして安全に抑えられるかが検証された。


同実験ではまず、2頭のサルの左脳にある一次運動野(手支配領域)に対し、抑制性の人工受容体を発現するウイルスベクターが注入された。そして6週間後に、狙い通り一次運動野に人工受容体が発現していることが、PET画像により確認された。

次に、皮質脳波を計測するアレイ電極が埋め込まれ、てんかんを誘発する薬剤である「ビククリン」が運動野に微量注入された。すると間もなく、注入場所付近において、てんかん型脳波「棘波」が生じると同時に、左脳の運動野が支配する右手が勝手に動く症状(不随意運動)も確認された。また数分後には、その発作は大脳皮質全般に広がり、全身性のけいれんが見られたという。

そして、これらの症状が確認された後に、人工受容体の作動薬であるDCZを極微量、筋肉注射で投与したとのこと。すると、わずか数分でてんかん脳波とてんかん発作様の症状が減弱したとする。

この実験では、2頭のサルで合計6回のてんかん誘発とDCZ投与による治療効果が検討された。そのいずれにおいても、てんかん脳波およびてんかん発作様の異常行動の頻度が減弱・減少することが確かめられ、統計学的にも有意な効果であることが判明したとする。さらに、その効果が発揮されるまで、投与からわずか3分以内という即効性があることも明らかにされた。

併せて、DCZの投与自体では運動や覚醒状態に影響はないこと、また、一次運動野への人工受容体の遺伝子導入とDCZ投与による活性化に伴う脳へのダメージ(神経細胞死や免疫応答)は確認されず、安全性が十分保たれていることも確認できたとする。

今回の成果は、これまでマウスなど、小動物でしか示されていなかった化学遺伝学による発作抑制を、同じ霊長類であり脳の大きさや複雑さがヒトに近いサルを用いて概念実証に成功したものであり、臨床治療への応用に向け大きく前進したといえるという。実際には、遺伝子導入技術の安全性、DCZの長期的投与の安全性など、臨床試験に移行する前にさらなる取り組みが求められるが、PETによる遺伝子導入の確認と発現レベルの画像化技術は、原理的にはヒトにも適用可能であり、その点においても、応用可能性が示されたと考えられるとする。研究チームは、今後は国内外の研究機関などと共同で、10年以内の臨床治療応用を見据えて研究を進めていく予定としている。

続きを読む ]

このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

ネタ・コラムカテゴリのその他の記事

地図を探す

今すぐ地図を見る

地図サービス

コンテンツ

電話帳

マピオンニュース ページ上部へ戻る