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リュウグウ試料中の黒い有機物はイブナ型隕石などと類似 JAXAなどが解明

2023年02月27日18時12分 / 提供:マイナビニュース


宇宙航空研究開発機構(JAXA)、広島大学、横浜国立大学、高エネルギー加速器研究機構、九州大学、北海道大学、東北大学、京都大学、東京大学の9者は2月24日、小惑星リュウグウの試料をさまざまな顕微分光法でなどで詳細に分析した結果、試料中の有機物を構成する化学結合の種類と割合は、最も始源的な「イブナ型炭素質コンドライト隕石(CIグループ)」や、始原的な「ミゲイ型炭素質コンドライト隕石(CMグループ)」と似ていることが明らかになったと共同で発表した。

同成果は、広島大 先進理工系科学研究科の薮田ひかる教授が率いる、国内外130名の研究者が参加した「固体有機物分析チーム」(はやぶさ2初期分析チーム6チームのうちの1つ)によるもの。詳細は、米科学雑誌「Science」に掲載された。

今回の研究では、炭素質(C型)小惑星リュウグウの有機物がどのような過程で生成、進化したのかを詳細に調べるため、同天体試料中の固体有機物の化学構造、官能基組成、形態、元素・同位体組成が総合的に分析された。

純度の高い固体有機物を分析するため、試料の非破壊測定と、試料を塩酸・フッ酸の混合溶液で化学処理した酸不溶性残渣(黒色を呈した固体状の有機物)の分析が行われた。その結果、どちらの分析もほとんど一致したことから、試料中の有機物の主要な割合を黒い固体有機物が占めていると結論づけることができるとした。

研究チームによると、酸不溶性残渣の測定と、非破壊測定した有機物の測定との間で見出されたわずかな違いは、以下の4点などを反映していることが考えられるという。

組成の不均一性
非破壊測定の結果には、固体有機物だけでなく鉱物や可溶性有機物の組成も含まれている可能性があること
酸処理によって層状ケイ酸塩が分解したことにより、層状ケイ酸塩と相互作用していた有機物の化学形態が変化した可能性があること
酸処理によって固体有機物の一部が加水分解した可能性があること

さらには、酸不溶性残渣中の化学的・同位体的不均一性も解明できたとしている。


次に、試料中に含まれる有機物の化学構造および官能基組成が、顕微分光分析法で測定された。その結果、芳香族炭素、脂肪族炭素、ケトン基、カルボキシル基が無秩序に結合した芳香族性の高分子構造からなることが判明。このような分光学的特徴は、イブナ型やミゲイ型隕石に似ているという。

一方で、グラファイトのような秩序だった構造が見られなかったことから、試料中の有機物は母天体内部や天体衝突により200℃を超える高温に加熱されなかったことを意味するとした。

また、試料中の炭素に富む領域の水素同位体比(δD)、窒素同位体比(δ15N)を測定した結果、それらの全岩組成はCIコンドライトと、CIコンドライトの酸処理により分離精製した固体有機物の中間の値が示されたという。

これらのことから、試料中の有機物は、化学的・同位体的に、始源的な炭素質隕石に似ていることが明らかにされた。この結果は、これまでの試料の元素組成、鉱物組成、希ガス同位体組成から導かれた結論と調和的だとする。

さらに研究チームは、試料の超薄切片を作製し、詳細な観察を行った。その結果、nmサイズの球状有機物「ナノグロビュール」や薄く広がった不定形の有機物が、層状ケイ酸塩や炭酸塩に隣接、あるいは混じり合った状態が見出された。またナノグロビュール有機物は、芳香族炭素またはカルボニル炭素に富んでいたという。

一方、薄く広がった有機物には、始原的な炭素質隕石に含まれる酸不溶性有機物に化学組成が似ていることに加え、「モレキュラーカーボネート」を含むものが観察されたとする。なお同物質は、結晶性の炭酸塩鉱物ではない、分子状の炭酸塩前駆物質、あるいは炭酸エステルと推測される化合物だ。炭素質隕石中からもナノグロビュールと薄く広がった有機物の存在が報告されているが、リュウグウの方が隕石に比べて化学的、形態的に多様性があることが確認された。

ちなみに試料中の層状ケイ酸塩や炭酸塩は、母天体中で生じた二次鉱物である。つまり、これらの鉱物と共存する有機物もまた、リュウグウ母天体で液体の水と反応して生じたことが示されているという。さらに、試料中に見出された有機物の化学組成と形態の組み合わせから、母天体では液体の水との反応の進行に伴い、次の3点のような有機物の化学進化が起こっていると考えられるとした。

初生の固体有機物の加水分解、または、可溶性有機分子の層状ケイ酸塩への吸着が起こり、薄く広がった有機物が増える
固体有機物の芳香族化および酸化が進み、芳香族炭素やカルボニル炭素に富んだナノ有機物が増える
1、2の結果、有機物の組成が多様化する

なお、不溶性残渣と非処理試料の観察結果はほぼ一致したが、残渣からはモレキュラーカーボネートは観察されなかったという。このことから、同物質を含む薄く広がった有機物は酸で変化しやすいか、酸に溶ける性質を持った有機物である可能性が推測されるとした。


さらにリュウグウ試料の二次イオン質量分析計による測定では、非処理試料と不溶性残渣のどちらからも、D(重水素)および/または15Nに非常に富む領域と、非常に乏しい領域が検出された。Dおよび/または15Nに富む同位体組成は、-200℃以下の低温環境でのみ生じることから、今回の有機物は確かに地球外起源であること、同時に少なくともその一部は星間分子雲や原始惑星系円盤外側などの極低温環境で形成されたことが明らかとなった。

続いて、リュウグウの固体有機物の特徴と、炭素質(D型)小惑星由来とされる未分類のC2コンドライト「タギッシュレイク隕石」など、ほかの太陽系小天体の有機物との比較が行われた。その結果、原始惑星系円盤の初期段階で生成された、すべての始原小天体に共通の前駆物質が、C型やD型の小惑星で起こったような水との不均一な化学反応を母天体で経験し、化学的・同位体的に変化した結果、リュウグウの有機物が生じたことが考えられるとした。

また、試料の不溶性有機物を構成する炭素に対する窒素の原子比(N/C)はCIまたはCMコンドライトと似ていたが、タギッシュレイク隕石のN/Cの方がやや高く、81P/ウィルド2彗星塵、惑星間塵、南極微隕石のN/Cはさらに高いという相違が確認された。N/Cは母天体水質変成によって変化しにくいことが示されており、この違いは星間分子雲や原始惑星系円盤の段階で生じたものと考えられるという。

研究チームは、このような、C型のリュウグウ、D型小惑星、彗星との間で見出される有機物の化学組成、同位体組成、形態上の共通点と相違点は、原始惑星系円盤における前駆物質の連続性を示唆するものである可能性を考えているとする。

さらに、生命の構成成分とは一見無関係のように見える有機物が、微量なアミノ酸などと共に初期地球に大量に降り注ぎ、その後、さまざまな環境でさらなる化学進化を経て、生命材料として利用できる分子に変化していったことも考えられるとする。

実際に、CMコンドライト中の酸不溶性有機物を水と共に加熱した室内実験では、固体有機物の一部が熱水で分解され、多種の有機分子(可溶性有機分子)や揮発性分子が生成されることが報告済みだ。つまり、炭素質小惑星の固体有機物が種々の分子を生み出すリザーバーとしての役割を担い、ハビタブルな天体環境の形成に寄与した新たな可能性を導くものとした。

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