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中央線「昭和グルメ」を巡る 第172回 1980年代の空気感を思い出させる喫茶店「カフェド・フー」(阿佐ヶ谷)

2023年02月28日11時00分 / 提供:マイナビニュース

いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、阿佐ヶ谷の喫茶店「カフェド・フー」をご紹介。

○家庭的な居心地が魅力の欧風喫茶店

阿佐ヶ谷駅を背に、中杉通りを自転車で走っていたある午後のこと。「神明宮入口」交差点を過ぎてしばらく進んだあたりで、左側に喫茶店を発見したのでした。

中杉通りは10代のころからなじみの深い通りであり、1980年代前半には「西瓜糖」という、壁が現代美術のギャラリーになった喫茶店にもよく通っていたのです。ああ、そういえば向かい側を少し進んだところにあった「LITTLE TOKYO」というソウル・バーにもよく通ったなー。店主のミッキーさん、いまはどうしているのかな?

などと関係ないことまで思い出してしまうほど、僕にとっては"そこにあることが当然"な道であったわけです。

にもかかわらず、「カフェド・フー」という名前のその喫茶店がそこにあったことなど、まったく気づかなかったんですよねー。だから一度は通りすぎたものの、気になって仕方がなくて引き返すことにしたのでした。

白い壁に、青みがかった緑色のドア。日除けの「カフェド・フー」という手書き風のフォントからは、「カフェ・ラ・ミル」というチェーン店の大ヒットを受けて1980年代に乱立した欧風喫茶の匂いが。ってなところからも、「長い歴史があるんだろうなぁ」と推測することができます(気づかなかったくせに)。

ともあれ、ちょっとお邪魔してみることにしましょう。

店内は比較的ゆったりとしており、左奥には厨房を囲むようにカウンターが。

壁にカップ & ソーサーがズラリと並んでいるところなど、やはり80年代によくあった喫茶店のスタイルですね。

飾られている絵や小物などからも、欧風のお店にしたかったのだろうなという思いが伝わってきます。

でもカウンターの向かい、すなわち右側の奥まったスペースに目をやったとき、ひとつ気になることがあったんですよね。そこには4人がけのテーブル席が2卓あるのですが、よく見てみればその2卓の席の間に電子レンジが置いてあるのです。つまり、その席に座った人は電子レンジと並ぶことになるわけで、なぜそんなところに?

よく見れば、突き当たりの壁には家庭用の大きな冷蔵庫が鎮座していたりもするし、微妙に家庭的といいますか、どこかのお宅のリビングっぽい部屋に招かれたかのような気分にもなってくるわけです。

さて、お客さんもいなかったのでドア脇の窓際の席に座ると、ママさんがメニューを持ってきてくださいました。

見る限り、コーヒーと紅茶、ケーキとラインナップはシンプル。でも、コーヒーに力を入れておられるようなので、基本のブレンドをオーダー。厨房に戻ったママさんが、手際よく作業を開始します。

待っている間、読みかけの本に集中していると、やがてブレンドコーヒーが運ばれてきました。見た目もきわめてオーソドックスなコーヒーは、ほどよく苦味が効いていて、とても飲みやすいですね。

午後のゆったりとした時間にはちょうどいいなと思いつつ、コーヒーと読書を楽しんだ……のですけれど、すごく気になっちゃったことがもうひとつあったんですよ。つまりその……BGMがかかっておらず「無音」なのです。

ですから、しーんとした空間の向こうとこっちにママさんと僕がいる状態。ママさんが気にもしていなさそうなのは、おそらくそれが"日常"だからなのでしょう。でも、唯一の客である僕にとってそれはちょっと気まずくもあり、気がつけば「ここはいつからあるんですか?」とお声がけしていたのでした。

いきなり話しかけられたからか、ママさんは最初、鳩が豆鉄砲を食らったような表情に。でも、すぐに打ち解けていろいろ話を聞かせてくださったのでした。

聞けば予想どおり、開店から40年近く経つのだとか。

「昔はこの通りにも、たくさん喫茶店があったんですけどね。ちょっと駅寄りのところにギャラリーみたいなお店があったりとか」

あ、それってさっき書いた「西瓜糖」のことですね。要するに、あの時代にはすでにここで営業をしていたということなんだな。

なんでもその当時は、休憩に立ち寄るタクシーの運転手さんで賑わっていたそう。なるほど、それが当たり前だったのだとしたら、いまやチェーン店ばかりになってしまった街で営業を続けていくのは、少し寂しいものかもしれませんね。

●カフェド・フー
住所: 東京都杉並区阿佐谷北1-31-12
営業時間: 8:00~17:00

印南敦史 作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちPHP研究所より文庫化)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)、『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)、『音楽の記憶 僕をつくったポップ・ミュージックの話』(自由国民社)、『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)ほか著書多数。最新刊は『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)。 この著者の記事一覧はこちら

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