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北大、実用化可能な全固体電気化学熱トランジスタの作製に成功

2023年02月24日21時19分 / 提供:マイナビニュース


北海道大学(北大)は2月23日、熱の伝わり方を電気スイッチで切り替える「全固体電気化学熱トランジスタ」の開発に成功したことを発表した。

同成果は、北大 電子科学研究所の太田裕道教授らの研究チームによるもの。詳細は、ナノテクノロジーを含む材料科学に関する学際的な分野を扱う学術誌「Advanced Functional Materials」に掲載された。

電流のon/offを切替えられる半導体トランジスタのように、「熱流」のon/offを切替えられる「熱トランジスタ」を実現することができれば、電子機器から放出される微小廃熱の有効再利用につなげることが期待できるようになる。また、半導体集積回路の熱制御デバイスや、熱のシャッター、熱ディスプレイなど、これまでに無かった装置として応用するなど、熱管理用の次世代デバイスになる可能性も秘めているという。

こうした背景から、これまでにもいくつか熱トランジスタが提案されてきたが、いずれも実用上の課題を抱えていたという。たとえば、二酸化バナジウムの絶縁体-金属間の転移に伴う熱伝導率変化を利用するというアイデアでは、熱伝導率の変化が起こらなかったという。また、電解液などの液体を利用した電気化学的な遷移金属酸化物の酸化還元反応を利用する電気化学熱トランジスタは、液漏れの危険性の問題があったという。

これらの課題を踏まえ研究チームは今回、液体を一切使用しない全固体型の電気化学熱トランジスタ(全固体熱トランジスタ)の開発に取り組むことにしたという。

全固体熱トランジスタの活性層には、結晶中の酸化物イオンの出し入れが可能な「コバルト酸ストロンチウム」(SrCoOx、2≦x≦3)が用いられた。また、固体電解質としては酸化物イオン伝導性固体電解質であり、単結晶基板が入手可能な「イットリア安定化ジルコニア」(Y2O3安定化ZrO2、YSZ)が選択された。

パルスレーザー堆積法とスパッタリング法を用いて、実際に全固体熱トランジスタを作製。具体的には、上部電極のプラチナ薄膜(膜厚60nm)、活性層のSrCoOx薄膜(膜厚60nm)、固体電解質のYSZ単結晶基板(厚さ0.5mm)、下部電極のPt薄膜(膜厚40nm)という多層構造が採用されたほか、SrCoOx薄膜とYSZの化学反応を防ぐ目的で、膜厚10nmの「ガドリニウムドープ酸化セリウム」(GDC)薄膜がSrCoOx/YSZ界面に挿入されたとする。


この全固体熱トランジスタを空気中で280℃に加熱して電気化学的酸化・還元処理が施され、SrCoOxの熱伝導率を変化させる実験が繰り返し行われ、酸化・還元を繰り返すことによるSrCoOx薄膜の結晶格子変化が調べられたところ、酸化・還元前のSrCoO2.5薄膜の格子長は0.1976nmであったものが、酸化後のSrCoO3薄膜では0.1898nmとなり、還元後のSrCoO2薄膜は0.1853nmであることが確認されたという。研究チームでは、電気化学的に酸化・還元を繰り返してもSrCoOx結晶は崩れず、安定であるといえるとしている。

また、繰り返しの酸化または還元が行われた後に、熱伝導率の計測が実施された(熱伝導率の繰り返しサイクル依存性)ところ、完全に酸化されたペロブスカイト構造のSrCoO3は、~3.8W/mK(平均)と高い熱伝導率を示すことが判明したとする。それに対し、完全に酸素が欠損した欠陥ペロブスカイト構造のSrCoO2は、~0.95W/mK(平均)と低い熱伝導率を示すことが判明したとする。

さらに、熱伝導率のon/off比は4であり、これは電解液やイオン液体などの液体を用いた熱トランジスタと比較して遜色の無い値だとしており、これらの結果、液体を一切使用しない全固体熱トランジスタの開発に成功したと研究チームでは説明している。

なお、研究チームは現在も、今回開発に成功した全固体型熱トランジスタの特性を改善するための取り組みを続けているとしている。

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