旬のトピック、最新ニュースのマピオンニュース。地図の確認も。

準惑星「クワオアー」に環を発見 - 観測を成し遂げた技術と環に秘められた謎

2023年02月22日18時19分 / 提供:マイナビニュース

●系外惑星を探索する宇宙望遠鏡「CHEOPS」が観測したクワオアー
土星といえば大きな輪っか。そんな輪っかが、太陽系の端を孤独に回る小さな天体にもあることがわかった。それも、ある宇宙望遠鏡の”予想外”の活躍によって。

欧州宇宙機関(ESA)は2023年2月8日、宇宙望遠鏡「CHEOPS」などの観測によって、太陽系外縁天体「クワオアー」に環があることがわかったと発表した。

CHEOPSは、太陽系外にある惑星を観測することを目的として開発された宇宙望遠鏡で、それが太陽系内の小さな天体の環の発見にも使えたことは、科学者たちに予想外の喜びをもたらした。

それと同時に、クワオアーの環は、従来の考えでは存在するはずがなく、なぜ環が存在できるのかという新たな謎も浮かび上がった。

この研究をまとめた論文は、2月8日付けで『nature』に掲載された。

クワオアーを系外惑星望遠鏡で観測

クワオアー(Quaoar、小惑星番号50000)は、2002年に発見された太陽系外縁天体で、準惑星の候補、つまり将来的に準惑星と分類される可能性がある天体である。

太陽系外惑星天体、英語でTrans-Neptunian Objects(TNO)は、太陽系の外側、海王星の公転軌道を超えたところにある天体の総称である。クワオアーは太陽と地球の距離のほぼ44倍の距離で太陽を回っており、「ウェイウォット」と呼ばれる半径約160kmの小さな月(衛星)をもっている。

この太陽系外縁天体の中で最も大きな天体は冥王星とエリスで、直径およそ1100kmのクワオアーはこの中で7番目に大きいと考えられており、冥王星(直径およそ2400 km)と比較すると小さいものの、これまでの研究から、その表面は水やアンモニア、メタンなどの氷で覆われていることがわかっている。さらに、その氷の一部は、最近になって表面に供給された可能性があり、クワオアーには氷の火山などの活動が存在することが示唆されている。一方で、大気はほとんど存在しないことがわかっている。

このクワオアーに環があることを発見した「CHEOPS(ケオプス、キーオプス)」は、ESAなどが2019年に打ち上げた宇宙望遠鏡で、他の宇宙望遠鏡などによって発見された系外惑星を詳しく観測し、その惑星のサイズを正確かつ精密に求めることを目的としている。

CHEOPSの観測結果と、すでにわかっている質量などのデータを組み合わせることで、その惑星の密度を求めることができ、そこから惑星の構造や組成なども特定できる。これにより、観測した系外惑星が木星のようなガス惑星なのか、地球のような岩石惑星なのか、また大気に包まれているのか、海に覆われているかといったことを調べ、系外惑星の形成と進化を研究することを目指している。

CHEOPSは、「トランジット法」という観測方法を使って系外惑星を調べる。トランジット法は、望遠鏡から見て、恒星の手前を系外惑星が横切る際に、恒星の明るさがわずかに変化する様子を捉えることで系外惑星を観測するというもので、従来の方法では難しかった小さな系外惑星でも発見できるばかりか、系外惑星の大きさや質量、密度をより正確に求めることもできる。また、背景にある恒星の光が、系外惑星の大気によって変化する様子を分析することで、その大気の組成などもわかる。

このトランジット法はその原理上、系外惑星と恒星、そして望遠鏡の間の位置合わせがきわめて正確でなければ観測が成立しない。かつてはそれだけの精度を出すことが難しく、最近まではいつ、どこで、ある系外惑星がある恒星の前を通過するのかを正確に予測することは困難だった。だが、ESAの位置天文学用の宇宙望遠鏡「ガイア」の活躍により、恒星の位置をきわめて正確にマッピングできたことから、トランジット法による観測がしやすくなりつつある。
CHEOPSによる太陽系外縁天体の観測

こうした中、系外惑星の観測にも使えるのなら、太陽系外縁天体の観測にもトランジット法が使えるのではというアイディアが生まれた。太陽系外縁天体はサイズが小さく、地球からの距離がきわめて離れているため、系外惑星と同じく地球からの観測が難しい。そこで欧州研究会議による「ラッキー・スター(Lucky Star)」プロジェクトが立ち上がり、2018年からトランジット法による太陽系外縁天体の観測の試みが始まった。

当初は地上の望遠鏡を使って観測を行っていたものの、2019年にCHEOPSが打ち上げられたことを受け、観測に利用する案が浮上した。

CHEOPSとラッキー・スター・プロジェクトの両方に関わるIsabella Pagano氏は「最初はCHEOPSが観測に使えるかどうか少し懐疑的でしたが、実現可能性を調査しました」と語る。

Pagano氏らによると、実現にあたっていちばんの課題となったのは、地球の大気の影響によるCHEOPSの軌道の変化だった。CHEOPSのような地球のまわりを回る衛星は、地球の大気の上部にあるごくわずかな大気の抵抗により、軌道がわずかに変わる。大気は太陽活動によって膨らんだり縮んだりするため、軌道がいつ、どれくらい変化するのかを予測することは難しい。そしてトランジット法の原理上、衛星の位置がわずかでもずれると、観測が成立しなくなってしまうのである。実際、チームが初めての試みで冥王星を観測した際には、軌道の予想がやや外れ、観測が成立しなかった。

だが、2回目の試みでクワオアーを観測した際には予測が的中し、史上初となる宇宙からのトランジット法による太陽系外縁天体の観測が成功。その後も2021年まで観測が続けられた。

●クワオアーにあるはずのない環
クワオアーに環を発見

Pagano氏は「得られたCHEOPSのデータは驚くべきS/N比でした」と語る。S/N比とは、検出された信号(Signal)が、ノイズ(Noise、雑音)に対してどれくらい強く現れているかという尺度で、CHEOPSのデータはクワオアーの信号を、ノイズよりもはるかに高く検出できていた。これはCHEOPSが宇宙空間にあり、地球の大気によって発生するノイズが存在しないからだという。

そしてCHEOPSは、クワオアーそのものがトランジットを起こす前後に、わずかに光が変化することを検出。それはクワオアーの周囲を回る軌道に、なんらかの物質が存在すること、すなわち環が存在することを示していた。

これが地球の望遠鏡であれば、環が存在することを示唆する信号が見つかっても、それが本当に環なのか、それとも大気のノイズなのかを判別することは難しい。だが、CHEOPSの信号の明快さが、クワオアーの環を克明に映し出すことに役立ったのである。

もっとも、地上の望遠鏡が役に立たなかったというわけではない。それまでに集められた地上からクワオアーを観測したデータもとても重要なもので、それとCHEOPSのデータを組み合わせることで、初めて天文学者は、クワオアーにたしかに環があるということを自信を持って言うことができたのである。

研究を主導した、ブラジルのリオデジャネイロ連邦大学のBruno Morgado氏は「CHEOPSのデータを、世界中の天文台やアマチュア天文家からのデータと組み合わせました。これらのデータは、過去数年間にわたり、クワオアーがさまざまな恒星の前を通過していることが記録されています。それらをまとめると、クワオアーのまわりの軌道に物質が存在することを示す明るさの低下が見受けられました」と語る。

「私はそれを見たとき、思わず『オッケー、クワオアーのまわりに環があるようだ』と言ったのを覚えています」。
あるはずのない環

もっとも、天体に環があることはそれほど珍しいことではない。有名な土星にとどまらず、木星や天王星、海王星にもあり、さらに土星と天王星の間にある小惑星カリクロー、太陽系外縁天体の準惑星ハウメアなどといった小さな天体にもあることがわかっている。

だが、クワオアーの環がこれらと大きく異なるのは、天体からの距離である。この環はクワオアーの半径の約7.5倍も離れた距離にあり、天文学者たちは「なぜ、この環の物質が合体して小さな月(衛星)にならないのか」という疑問に頭を悩ませている。

大きな重力場をもつ天体には、接近してくる天体が引き裂かれる、ある限界の距離がある。これを「ロシュ限界」という。土星やカリクロー、ハウメアといった天体にある環は、それぞれの天体のロシュ限界内に存在すると予想されている。つまり環を構成している物質が集まって月になろうとしても、重力場によって引き裂かれてしまうため、破片が散らばった環として存在し続けることができる。

ところが、クワオアーの環の場合、クワオアーのロシュ限界よりもはるかに離れたところに存在している。従来の考えでは、ロシュ限界の外にある環は、わずか数十年という時間で合体し月になるとされており、クワオアーの環の存在はそれと真っ向から矛盾しているのである。

観測に参加したカタニア天体物理観測所の天文学者Giovanni Brunoは「私たちの観測の結果、密集した環は天体のロシュ限界内でのみ存続しうるという古くからの考えは、完全に修正する必要があります」と語る。

天文学者たちは現時点で、クワオアーの極寒の温度が、氷の粒子が合体するのを防ぐ役割を果たしているため月にならないのではと考えているが、結論を出すにはさらなる観測や研究が必要だとしている。

研究チームがクワオアーの環の謎に挑む一方、ラッキー・スター・プロジェクトはクワオアーや他の太陽系外縁天体のさらなる観測を進めるとしている。チームは「他にも環をもつ天体はたくさんあるかもしれません」と語る。

一方、環の発見と新たな謎をもたらしたCHEOPSは、系外惑星を観測するという本来のミッションを続けている。これまでに、恒星にきわめて近い軌道を回る木星型惑星、通称ホット・ジュピターのひとつWASP-189bの詳細な観測のほか、恒星TOI-178に6つの惑星があり、そのうち5つは共鳴軌道でダンスをするように回っていることを発見するなどの成果を残している。観測データの収集、分析はこれからも続き、さらに素晴らしい成果がもたらされることになろう。

○参考文献

・ESA - ESA’s Cheops finds an unexpected ring around dwarf planet Quaoar
・A dense ring of the trans-Neptunian object Quaoar outside its Roche limit | Nature
・Home - Lucky Star

鳥嶋真也 とりしましんや

著者プロフィール 宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。 宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 この著者の記事一覧はこちら

続きを読む ]

このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

ネタ・コラムカテゴリのその他の記事

地図を探す

今すぐ地図を見る

地図サービス

コンテンツ

電話帳

マピオンニュース ページ上部へ戻る