2023年02月20日13時43分 / 提供:マイナビニュース
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中部大学と慶應義塾大学(慶大)の両者は2月17日、北海道から本州、四国、九州に広く分布し、湿地や田んぼの水路などに見られる、日本の里山を代表するホタル「ヘイケボタル」のオスが、ミリ秒レベルの「瞬き(またたき)」を伴った点滅発光でコミュニケーションをとっていることを明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、中部大学 応用生物学部の高津英夫研究員、同・大場裕一教授、慶大 理工学部の南美穂子教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
ホタルの成虫は、光を使ってオスとメスがコミュニケーションを行っており、種や雌雄の違いなどを見分けるのに用いられている。そうした中、ヘイケボタルのオスもメスも行うミリ秒レベルの瞬きを伴う点滅発光については、詳しくわかっていなかった。そこで研究チームは今回、その瞬きの意味の解明を試みたとする。
まず、愛知県知多郡東浦町の水田地域において、野生のヘイケボタルのビデオ撮影を実施し、その動画を用いた分析が行われた。その結果、草に止まっているホタルには「オス」「未交尾のメス」「交尾済みのメス」の3タイプがいて、それぞれが異なる発光パターンを示すことが明らかになったという。
オスのヘイケボタルは、ミリ秒レベルの速い瞬きを伴う点滅を繰り返しながら、未交尾のメスに近づいていく。この時の未交尾のメスの点滅には瞬きがなく、1回の発光時間も非常に短くなっていることがわかったとする。一方、草に止まっている交尾済みのメスの点滅には、オスのもののような瞬きがあり、1回の発光時間はやや長くなっていた。つまりオスは、瞬きをせず1回の発光時間が短い発光パターンを交尾相手として見分けている可能性があるとした。
次に研究チームは、ヘイケボタルと同じ黄緑色に光る小型LEDランプを用いて、プログラミングにより1回の発光時間とその時の瞬きの強弱を変えられる「e-firefly」(通常「電子ボタル」)を開発した。この電子ボタルを野外に設置し、その観察データを統計解析した結果、草の上にいたヘイケボタルのオスは、「瞬きが小さく、発光時間が短い光」により強く誘引されることが確認されたという。これは、オスは瞬きがなく1回の発光時間が短い発光パターンを交尾相手として見分けているという、野外観察から推測された仮説を支持する結果だった。
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ホタルの発光コミュニケーションについてのこれまでの理解では、シンプルな時間的要素(発光時間や応答遅れ時間など)が関わっていることまでは理解されていた。今回の研究成果により、瞬きというミリ秒レベルの振幅要素も情報として使われていることが初めて明らかにされた。なお、ヘイケボタルのような瞬きを伴った点滅をするホタルは、世界のほかの場所にも棲息しているといい、それらのホタルも瞬きを使ったコミュニケーションをしていることが考えられるという。
また今回の研究では、飛んでいる時のヘイケボタルのオスの発光には瞬きがないのに、地上に降りるとなぜ瞬きを伴った発光を始めるのか、その理由も考察された。研究チームは、未交尾のメスがオスの光に応答している様子は観察されないことから、メスに対するアピールではないとする。そのことから、飛翔しているほかのオスに対し、「俺が見つけたメスだからお前は来るな」という牽制アピールの可能性があるとした。
さらに、交尾を終えたヘイケボタルのメスが、まるでオスのような瞬きを伴った発光をするようになるのかという点についても考察。交尾後のメスには、今度は産卵という重要な役割が待っていることから、交尾後のメスはオスになりすますことで、ほかのオスからのアプローチにより産卵の邪魔をされるのを防いでいることが考えられるとする。
研究チームは今回の研究成果から、メスが発光で自分の居場所をオスに知らせているだけ、という従来のような単純な見方では、ホタルの発光を説明し尽くしたことにはならないだろうとしている。また、こうしたホタルの求愛システムの理解が進めば、農薬散布や水田周辺の環境変化に伴って、全国的に減少しつつあるヘイケボタルの保全活動においても、重要なヒントを得られることが期待されるとした。