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何度でも立ち上がれる社会に――『スタンドUPスタート』が放つ「人は資産」に込められた願い

2023年02月22日06時00分 / 提供:マイナビニュース

●「面白いほうを取りたい」受け継がれるフジテレビ精神
俳優の竜星涼演じる三星大陽が、「“資産は人なり”。資産を手放す投資家はいない!」の理念のもと、様々な事情を抱えた人々と出会い、「スタートアップ(起業)しよう!」と声をかけ、生きる希望を取り戻させていく人間再生ドラマ『スタンドUPスタート』(フジテレビ系、毎週水曜22:00~)。企画を担当するのは、人気バラエティ番組『全力!脱力タイムズ』(同23:00~)なども手がけるフジテレビの狩野雄太氏だ。

このテレビ不況の時代、「コア層を狙って固定ファンが多いキャストを入れれば見逃し配信の再生数が回るといった技術的なことはありますが、『全力!脱力タイムズ』は解説員が高齢者でも回っている。つまり、人気コンテンツの要因はコアキャストのキャスティングだけではないのではないか」と見ている狩野氏。『スタンドUPスタート』でこだわっていること、竜星涼の魅力、そしてテレビマンの苦悩など、赤裸々に語ってもらった――。

○■『ちむどんどん』要素を入れてみようかなと(笑)

このドラマの企画は、「ちょうど1年前、政府からも新しい働き方や起業などの話が出ていました。“起業”をテーマにしたドラマはそのトレンドに入ると考えましたし、原作を読むとドラマとしての多様性、人間ドラマもしっかり描かれている。また水10枠は“ニューヒーロー”というくくりがあるため、この三星大陽というキャラクターは新しい時代の働く世代に刺さるのではないか」(狩野氏、以下同)という考えから決定。

昨今は、人件費が“コスト”として計算される世の中だが、「人は資産」という大陽の言葉は、そこへの強烈なアンチテーゼとなっている。

「僕自身、原作を読んでハッとしたのは、人はダメの烙印を押されても、見方や切り口、ちょっとしたタイミングや誰かとの出会いで人生が180度大きく変わるということです。要らない人間なんていない。皆、何かしら持っている。今、この国は失敗した人をつるし上げて容赦なくその人の人生を破壊する側面もある。僕は、原作が言う通り何度でも立ち上がれる、そういう国や社会であってほしいと共感しました」

そんな今作の企画が立ち上がった頃、朝ドラ『ちむどんどん』(NHK)がスタート。キャスティングを考えていた狩野氏は、そこでニーニーを演じている竜星涼に目をつけ、「目がキラキラ、ワクワクしているのを見て、大陽役にピッタリだと思ったんです」とオファーした。

原作はコミック。それを生身の人間がやると浮いてしまうこともあるが、「コミックだと成立するようなセリフ、例えば『四十、五十は洟垂れ小僧』など読み物だから成立しているようなセリフを、実写で通用するように演技で表現をしてくれています。その卓越した演技力もさることながら、竜星さんのスタイルが良すぎてどこか浮世離れしていながらも、ビシっとスーツも着こなしていて、『まさに新しい時代のニューヒ―ローだ!』と、スタッフ一同“ちむどんどん”しています」と、ワクワクしながら制作に臨んでいるそうだ。

また、「第1話に『ニーニー容赦なさすぎ』というセリフがありますが、あれは僕が毎日『ちむどんどん』を見ていたので、ちょっと間は空きましたが、『ちむどんどん』要素を入れてみようかなと(笑)。ちょうど林田さん(小手伸也)が泡盛をオーダーしたので、理屈も立っているかなと(笑)」と、“遊び”も取り入れた。

フジテレビは、昔から局をまたいで何かをすることが多く、他局のものだからということは“あまり気にしない”おおらかな社風で、それよりも「面白いほうを取りたいんです」という局。そんな意味でも同ドラマは、フジテレビ精神が受け継がれている。

●原作サイドとスクラムを組んで脚本開発
今作は、原作者の福田秀氏、ドラマ監修の上野豪氏の意見やアイデアを取り入れつつ、最後は脚本家とプロデューサーと徹底的に議論してストーリーが作られている。

「どんなに細かな疑問点なども、福田先生と上野さんが丁寧に回答してくださったり、『ここはこうしたほうがいいのでは?』など面白いアイデアをたくさん頂いたりと、ここまで密に、原作サイドとスクラムを組んで脚本開発させてもらえるのは少ないのではと思います。『スタンドUPスタート』というチームとして作っている感じがしました。個人的にはドラマもバラエティも1人で作っているわけではないので、一緒に仕事をしている皆の意見を聞きたいし、皆がやりたいこと、表現したいことを僕は信用しています。そうやって出来上がったものが、自分の想像を超えるものになったりするので、とても楽しいです」

三星大陽のオフィスを作るにあたっては、福田秀氏に相談。イメージは、「『アイアンマン』のトニー・スタークの秘密基地を目指している」という言葉を得て、遊び心いっぱいのオフィスが誕生した。

そこにあるアーケードゲームは実際に遊べるほか、声だけが登場する大陽の専属秘書・M(雨宮天)の湾曲したモニターなど工夫を凝らした。バーカウンターやソファーも設置したことで、皆が集まってくるシーンが撮影できるため、ドラマオリジナルの場面も数多く生まれた。

ちなみに、このオフィスで繰り広げられた、音野奈緒(安達祐実)のパンチでグローブを持った林田利光(小手)が吹っ飛んでいく“破壊神”のシーンは脚本上になく、現場を指揮する演出の瑠東東一郎氏のアイデアから生まれた。音野のパンチ力を表現する数字の「38%」「42%」というセリフもアドリブだという。

「なぜ、38、42という数字に安達さんがしたのか分からないですが、今後も現場で生まれたアイデアは拾っていきたい。いつ100%になるのでしょうね(笑)」

第1話の冒頭のパルクールシーンも、瑠東氏から「やりたい!」と出てきたアイデア。これも台本にはなく、やってみた結果、「絶対、普通に走った方が速いよね(笑)」ってツッコミながらも、ここのシーンで流れた劇盤の感じがジャズ調で、『ルパン三世』や『濱マイク』っぽい感じもあいまって、なんだかカッコ良いシーンになったと思います」と手応えを語り、「このドラマの劇盤担当の瀬川英史さんが最高の楽曲を制作してくださったと思います」と感謝した。

●視聴者の感情をどう動かしたいのか

『スタンドUPスタート』や『世にも奇妙な物語』といったドラマに加え、『全力!脱力タイムズ』も手がける狩野氏。この番組は、とあるドラマを手がけたことがきっかけで企画を考案した。

「『全力!脱力タイムズ』は以前に僕が関わったあるドラマでの番宣がきっかけでした。バラエティ番組などに出る際、俳優さんの中にはプライベートが見えるようなことは避けたい方がいらっしゃったり、素の姿をさらけ出すのに抵抗がある方もいたのですが、だったら逆にセリフを覚えて演じるのは大丈夫なのでは? ある意味演じていただく形ならば可能性はあるのでは? という理屈で最初に考えました。シットコムなので起承転結もあってドラマに似た構成があったりもします。ドラマもバラエティも両方携われることができたから、たまたまこの番組ができたのかなって思います」

最後に、昨今のテレビ業界事情についても聞いた。

「今はいろいろなメディアが変遷する過渡期。様々な批評があり、メディアがあり、誰も正解が見えない。例えば、配信を回すためにファンが多い人をキャスティングしたとしても、『全力!脱力タイムズ』は解説員が皆高齢者でも見てもらえてますし、結局面白ければ見てもらえるというところに着地する気がします。あとは視聴者の皆さんが人に勧めたくなる作り。『silent』も最初からファンは多かったのですが、勧めたさがあったのかなって思います。その要因は何か。それはきっと、作り手がとにかく泣かせたいか、とにかく笑わせたいか、視聴者の感情をどう動かしたいのかをハッキリすることだと思うんです」

一方で、「おそらく、昔も視聴率20%をとるドラマの作り方の正解なんてみんな分からなかったですからね。いつの時代も難しいものは難しい」と頭をかく狩野氏。それでも、「『見て良かった』と思ってもらうために頑張るしかないと思う。そういう作品が、勧められていくのだろう、広まっていくのだろうと信じてこれからも制作していきます」と前を見据えた。

衣輪晋一 きぬわ しんいち メディア研究家。インドネシアでボランティア後帰国。雑誌「TVガイド」「メンズナックル」など。「マイナビニュース」「ORICON NEWS」「週刊女性PRIME」など。カンテレ公式HP。メルマガ「JEN」。書籍「見てしまった人の怖い話」「さすがといわせる東京選抜グルメ2014」「アジアのいかしたTシャツ」(ネタ提供)、制作会社でのドラマ企画アドバイザーなど幅広く活動中。 この著者の記事一覧はこちら

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