2023年02月17日18時12分 / 提供:マイナビニュース
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産業技術総合研究所(産総研)は2月16日、青色顔料のプルシアンブルーを改良し、メタノールを回収・濃縮できる新しい吸着材を開発したことを発表した。
同成果は、産総研 ナノ材料研究部門 ナノ粒子機能設計グループの首藤雄大研究員、同・川本徹首席研究員、同・髙橋顕主任研究員らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学学会が刊行する材料と界面プロセスを扱う学術誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に掲載された。
塗装や化学産業などで必要不可欠な有機溶媒は、大気中に放出されると揮発性有機化合物として光化学スモッグやPM2.5の原因となってしまう。そのため、工場の廃ガス中から回収することができれば資源として利用可能だが、現状では燃やしてCO2へと分解されており、廃ガスに含まれる有機溶媒を分離回収し、再資源化する技術が求められていた。
しかし、廃ガスにも水蒸気が含まれている場合が多く、そのような状況下でメタノールを再資源化するためには、メタノールを高濃度に回収する必要があった。ところが、活性炭やゼオライトなどの吸着材では、水蒸気を含むガスから、メタノールのような親水性の有機溶媒を高濃度に吸着することが困難だったという。
そこで研究チームは、これまで産総研がアンモニアや放射性セシウムなど、有用物質または有害物質の吸着材料として開発してきた、プルシアンブルー類似体に着目することにしたとする。同類似体は多孔性配位高分子であり、金属イオンとシアノ基(CN)がジャングルジムのような構造を形成し、その内部空間にイオンや分子を吸着できることを特徴とする。今回の研究では、プルシアンブルーの結晶構造を最適化させることで、水蒸気が共存する条件下でもメタノールを吸着し、高濃度な液体として回収する吸着材の開発を目指すことにしたという。
そして、プルシアンブルー類似体のうち、マンガン(Mn)とコバルト(Co)がシアノ基で架橋された「Mn[Co(CN)6]2/3」(Mn-Coプルシアンブルー)が、水蒸気を含む大気中の希薄な気体のメタノールを吸着することを発見したとする。
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ほかの成分の影響を排除するため、純メタノールの希薄な蒸気によるMn-Coプルシアンブルーの吸着量が測定された。その結果、活性炭では大半が吸着できないほどわずかな濃度である500ppmv相当のメタノール蒸気でも、25℃で1kgあたり約300gを吸着することができたという。
続いて、水蒸気が共存するガスからの吸着性能に関して、Mn-Coプルシアンブルーと活性炭とで比較が行われたところ、水蒸気も同時に吸着するためメタノール吸着量が減るものの、Mn-Coプルシアンブルーは1kgあたり154g吸着し、活性炭の5倍以上であったとするほか、カラムを150℃に加熱することで、吸着したメタノールを脱離回収することもできたとする。
さらに、水蒸気とメタノールの両方を吸着した場合の、両者の脱離が調べられたところ、脱離温度が両者で大きく異なることが判明。70℃と150℃の二段階での脱離が試みられたところ、水蒸気の大半が70℃で脱離することから、150℃においてメタノールを選択的に脱離させることに成功したとするほか、、脱離した気体を室温に冷ましたところ、95wt%の液体として回収できたとしており、回収されたメタノールは、高濃度なので直接燃焼が可能なだけでなく、燃料電池の燃料として発電にも利用できることが確認されたとしている。
加えて、Mn-Coプルシアンブルーの比熱と脱離エネルギーなどから、今回の回収・濃縮プロセスの消費エネルギーが試算されたところ、95wt%のメタノールを得るために必要なエネルギーはメタノール1kgあたり18.9MJで、メタノール1kgあたりの燃焼エネルギーの23MJやメタノールを天然ガスから製造するエネルギーの約31MJよりも低いことが確かめられたとのことで、低エネルギーで回収できることが示されたことから、今回の成果は有機溶媒の資源循環への貢献が期待できると研究チームでは説明している。
実際に、Mn-Coプルシアンブルーに対して吸着と脱離の繰り返し試験が10回行われたところ、回収できるメタノール量に変化は見られず、繰り返し使用しても劣化しない安定な吸着材であることも確かめられたとしている。
なお、研究チームでは、今回の吸着材を用いることで、メタノールを含む廃ガス・廃水を処理している化学工場やパルプ工場、製紙工場などから、資源としてメタノールを回収することが期待できるとしており、今後、吸着と脱離の繰り返し回数を増やすことにより、Mn-Coプルシアンブルーの使用可能回数を評価すると同時に、さらなるメタノールの高純度化を目指すとしている。また連携企業を募り、共同研究を通じて実用化につなげることを考えているともしている。