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東大など、カゴメ格子物質にて不純物に強い新タイプの非従来型超伝導を確認

2023年02月15日18時36分 / 提供:マイナビニュース


東京大学(東大)と東北大学は2月14日、セシウム・バナジウム・アンチモンからなり、二次元カゴメ格子構造を持つ新規超伝導体「CsV3Sb5」において、超伝導の標準理論であるBCS理論の枠組みに収まらない上に、これまで確認されている非従来型の超伝導とも異なる、“不純物に強い非従来型超伝導”が実現していることを明らかにしたと発表した。

同成果は、東大大学院 新領域創成科学研究科の六本木雅生大学院生、同・石原滉大助教、同・水上雄太助教(現・東北大大学院 理学研究科准教授)、同・橋本顕一郎准教授、同・芝内孝禎教授、東大 物性研究所の上床美也教授に加え、仏・エコール・ポリテクニーク、米・カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

近年、物質が持つ結晶構造の対称性が注目されており、その1つにカゴメ格子がある。同格子の構造は、結晶を構成する原子が三角形と六角形のパターンからなることが特徴とされている。同格子を持つ物質では、幾何学的な性質によって、非従来型超伝導やトポロジカル物性などのさまざまな新規物性が期待されているという。

そうした中、カゴメ格子構造を持つ物質の1つであるCsV3Sb5において、2020年に超伝導が発見され、注目を集めることとなった。同物質では、超伝導転移温度より高温において、電子の飛び移りやすさがある特定のパターンを持つ「ボンド秩序」と呼ばれる状態が発現し、また圧力を加えると超伝導転移温度が増強されるなどの特異な性質が数多く報告されていた。しかし、この物質の超伝導発現機構およびボンド秩序との関連性は、明らかにされていなかったことから、研究チームは今回、同物質の超伝導発現機構を解明するため、不純物が超伝導状態に与える影響(不純物効果)に注目することにしたという。

超伝導の標準理論であるBCS理論の枠組みでは、超伝導は2つの電子が格子との相互作用(格子揺らぎ)によりペアを形成することによって発現すると考えられている。この場合、超伝導体に非磁性の不純物を導入しても、超伝導転移温度や超伝導ギャップ構造は大きく変化しないことがわかっていた。

それに対し、BCS理論の枠組みには収まらない、銅酸化物高温超伝導や重い電子系超伝導などの非従来型の超伝導体では、非磁性不純物によって超伝導が大きく抑制されることが確認されていた。CsV3Sb5では、BCS理論で期待される超伝導転移温度よりもはるかに高い転移温度を示すため、何らかの非従来型機構により超伝導が実現していると考えられていたという。

そこで今回の研究では、不純物効果がCsV3Sb5の超伝導転移温度や超伝導発現機構と密接な関係にある超伝導ギャップ構造にどのような影響を与えるかを系統的に調べることにしたとする。


具体的には、物質中への非磁性不純物の導入には、高エネルギーの電子線を試料に照射することで不純物量を制御できる電子線照射が用いられた。

同手法により、不純物量が制御されたCsV3Sb5単結晶試料に対し、常圧および高圧下での電気抵抗測定から超伝導転移温度の変化が調べられたほか、超伝導ギャップ構造を反映する物理量「磁場侵入長」の温度依存性の測定も行われ、不純物が超伝導ギャップ構造に与える影響が調べられた。

その結果、CsV3Sb5の超伝導転移温度は不純物量が少ない領域で大きく抑制される一方で、その後は不純物量を増やしても転移温度がほとんど抑制されないことが判明。このような不純物応答は、従来型のBCS超伝導体だけでなく、非従来型の銅酸化物高温超伝導体で見られる応答とも異なっていると研究チームでは説明する。

さらに磁場侵入長測定の結果から、超伝導ギャップが異方的な構造を有していることも判明。これらの結果は、格子揺らぎではなく、ボンド揺らぎによる超伝導において理論的に期待される振る舞いとよく一致しているという。CsV3Sb5では非従来型であるにも関わらず、不純物に強い超伝導状態が実現していることが示されたことから、研究チームでは今回の研究成果について、カゴメ格子物質で期待される特異な電子状態や超伝導状態を理解する上で重要な知見となることが期待されるとしている。

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