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『ブラッシュアップライフ』リアル感を支える圧倒的な取材量 セオリーにとらわれないバカリズム脚本の裏側

2023年02月12日06時00分 / 提供:マイナビニュース

●全部出切った後の残りカスみたいな部分を台本に
安藤サクラ演じる平凡な女性が人生をやり直していく日本テレビ系ドラマ『ブラッシュアップライフ』(毎週日曜22:30~)。“地元系タイムリープ・ヒューマン・コメディー”というキャッチコピーが表すように、心を大きく揺さぶるようなドラマチックな出来事は起きないが、バカリズムの独特な視点がふんだんに盛り込まれた脚本が絶妙なリアル感を描き出し、毎話放送されるたびにTwitterでトレンド入りするなど、反響が集まっている。

『生田家の朝』『住住』『ノンレムの窓』といったドラマでバカリズムとタッグを組んできた日本テレビの小田玲奈プロデューサーに話を聞くと、今作が成立した背景には、GP帯ドラマのセオリーにとらわれない姿勢や、“あるある”を引き出す圧倒的な取材量、実在する名称を惜しみなく出すための作業、そして出演者発信のアイデアなど、様々な手間や工夫があった――。

○■あえてドラマで描かない日常こそ面白くなる

第1話から、あーちん(麻美=安藤)、なっち(夏希=夏帆)、みーぽん(美穂=木南晴夏)という幼なじみの仲良し3人女子のおしゃべりを20分ぶっ通しで放送するなど、従来のテレビドラマの常識を打ち破っている今作。

それだけに、「1話は女子トークがずっと続くと離脱されちゃうんじゃないか、2話はシール帳のくだりをその世代じゃない人が見たら『何を見せられてるんだ』って思われるんじゃないか、3話は1周目で死んだあの日が来て、1話とほぼ同じやり取りをもう1回することが一体どう受け取られるのか……毎回不安だったんです」(小田プロデューサー、以下同)というが、「そんなことは全然気にしなくて良かったんだと思えるくらい楽しんでもらえていて、安心しています」と胸をなでおろした。

バカリズムも、GP帯での放送を考慮して、ドラマチックな作品する必要があるのではないかと、気にしていた時期があったのだそう。

それでも、「私が升野さん(=バカリズム)とご一緒した『生田家の朝』という朝ドラマでは、“納豆のからしが余ってどうしよう”というそれだけの話を7分間の会話劇にしていて、誰もが一度は思ったり経験したことはあるけど、あえてドラマで描かない日常的な部分こそ面白くなるという手応えがあったんです。それで今回、升野さんから『壮大なスケールだけど、日常的な会話をメインとして描くのはどうですかね?』と相談されて、『それは面白いですね!』とお伝えしたら、数日後に今あるような1話が来ました」と、方向性が決まって進み出すことになった。

これを象徴するシーンは、脚本作りで最初の段階に決まっていた。第1話で、3人がパスタを食べてお腹いっぱいの後にカラオケボックスに来たら、アルバイト店員の同級生・福ちゃん(染谷将太)に山盛りのフライドポテトをサービスされてしまったが、第3話では、事前にお腹いっぱいをアピールすることで、サービスをドリンクに変えることに成功した場面だ。

「普通のタイムリープものだったら、誰かの命を救うとか、大きな失敗を取り返すくらいのモチベーションがないと成立しないと思うんですけど、このドラマはやり直すことにさほど意味がない(笑)。一方で、同級生が歌手になっても売れないから止めたほうがいいんじゃないかと思うんだけど、結局は止めないとか、普通のドラマだったら変えるべきところを変えず、変えないところを変えるという方向性も、去年の夏に話したときから決まっていました」

○■普通のドラマが削ぐ部分を削がない

ドラマチックで大きなエピソードが起きないストーリーを成立させるために、リアル感に徹底してこだわっている。これを支えるのが、圧倒的な取材量だ。

まず、1周目の麻美が勤めていた市役所職員を取材したが、通常の取材では仕事内容や職場環境を聞いて終わるところを、「小さな不満やなんか変なぁだと思ってることはないですか?」と突っ込んでいく。その話題まで行き着くまでには3~4時間程度話し、そこでようやく「シャーペン1本買うのに、何人もの決裁を取ってから業者に発注するので、1か月近くかかる」という“あるある”が出てきたのだという。

「このドラマは、もう話題がカラカラに枯れ果てて、全部出切った後の残りカスみたいな部分を台本にするから、今まで聞いたことのないような話が出てくるのだと思います。麻美のドラマプロデューサー編では、私も取材対象者になりましたし(笑)、他のテレビ業界の人もカラカラになるまで取材して、“こんなのドラマでわざわざ言うことじゃないんですよ!”と私たちが恥ずかしがるような部分をたくさん描いてくれちゃっています」

ただ、「テレビ業界では本当にいろんな人を取材しているので、ここに登場するドラマプロデューサーは、決して私を投影した人物ではありません。これは声を大にしてお伝えしたいです(笑)」と強調した。

取材は職業以外に、麻美と同い年の1989年生まれ・33歳の人にも大量に行った。こちらも何時間も話を聞いて、「シール帳の交換が流行ってた」といったネタを引き出すことができたが、決め手は話しているうちに“テンションが上がる”こと。

「私はちょっと世代が違うので、そこで一緒に共感できないんですけど、この世代の人がみんな『そうそう!』って盛り上がるワードがあるんです。タイルシールとかフェルトシールとか…そうやって出てきた具体的なワードを升野さんにお伝えして、脚本に入れてもらっているという感じですね」

劇中に登場するあだ名も、本名「美佐(みさ)」が「みさごん」になり、「ごんみさ」→「ごんちゃん」→「ちゃんごん」と原型がなくなっていく様が、実にリアル。また、主人公が「麻美」や「あーちん」など、相手によって呼ばれ方が変わるのも特徴的で、「地元に帰るとこう呼ばれる、さらに地元の中でも呼び方が違う人がいる。そういうのは普通のドラマだと分かりやすくするために削いでいくのですが、この作品は削がないようにしているんです」と意識している。

●“没・個性”からこん身の幼少期キャスティング

“没・個性”な登場人物たちという点でも、ドラマのセオリーに反している今作。普通のドラマではそれぞれの役に違うキャラクターを付けるが、幼なじみ3人は、「最初に台本を読んだときは、セリフを入れ替えてもどれが誰なのか気づかないくらいでした」というほど。「よく考えると、実際に周りにいる友達って、やっぱり同じ空気感の人が仲良くなるから、似たような3人で一緒になるんですよね」と、やはりリアルを追求している。

だが、ここで制作陣にとって大きな課題となったのが、子役の選定。通常だと多少見た目が違っても、キャラクターを出すことで同じ人物の成長前と認識することができるが、“没・個性”の役にそれは通用しないため、求められる“面影レベル”が一気に上った。

「これはもう升野さんからの挑戦状だと思って、大人の世代をキャスティングした後に、サクラさん、夏帆さん、木南さんに似ているんじゃないかという子役の書類を集めて、実際に会って…というのを、1カ月かけて毎週末、朝から晩までオーディションしました。幼少期のキャストたちは1,200人の中から選んだ、こん身のキャスティングなんです」

その中でも、保育園時代の麻美を演じる永尾柚乃ちゃんは、子どもなのに本当に大人の心を持っているかのような何とも言えない表情を見せ、実に秀逸だった。彼女の決め手は、「あの子だけ、いい意味でキラキラしていなくて、ちょっと哀愁があったんです。本当にすごかったですね」と絶賛した。

○■ライバル企業のお菓子が並ぶ…実名のこだわり

リアル感を作り出すもう1つの大きな要素が、実名。許可取りに手間がかかるものの、「ROUND1」「夢庵」といった実在する施設や店の名前が当たり前のように登場するのは、「そういうのが出てくるだけで、私たちとすごく地続きな感じがすると思うんです」という狙いから。もちろん、麻美が3周目で就職した「日本テレビ」もその1つだ。

昨年10月クールにヒットした『silent』(フジテレビ)でも、実在のスポットが登場したことで話題となったが、「升野さんが別作品でもこだわっているところなので、そこは私たちも大事にしたいと思ってやっています」と解説。

圧巻は、麻美の家に夏希と美穂がお菓子を持ち込んでくるシーンで、「こんなに実際のお菓子を出していいんだっけ?って思うくらい出てきます。いろんな会社のものが出てくるので、1個1個『他社さんのお菓子と並ぶのですが…』と許可を取りました」。

麻美の地元である「北熊谷市」も、架空の自治体でありながら実在する埼玉県熊谷市近辺であることを想起させる名称。ロケ地には、東京から車で1時間半くらいの雰囲気、かつ30年前から街並みがあまり変わっていなそうなエリアを選んだ。

●安藤サクラ発のアイデア、バカリズムの“匠の技”

安藤ら出演者たちも、リアル感を出すために様々な工夫を現場で行っている。1周目で死ぬときは、パピコを食べて手が汚れてしまったため、コンビニのおしぼりを使おうと開いた袋の切れ端が道路に飛んでしまい、それを拾おうとして車にひかれてしまうという亡くなり方だったが、実は台本上にはそこまで詳細に書かれていなかった。

「何かを落とすというのは結構難しい動きだという話に現場でなり、ちょうどパピコを触った後だから、おしぼりを出そうというアイデアが出てきました。こういう細かい動きは、夏帆さんや木南さんからも、携帯を見ながらしゃべるとか、ハンドクリーム塗りながらしゃべるとか、リアルに見せるためにやってくださっています」

安藤はモノローグ(心の声のナレーション)も多いが、幼少期や青春期で役者が違うときは、安藤が自宅でその部分をスマホで録音したものを現場でスタッフに渡し、その仮で録ったモノローグに乗せて演技している。さらに、編集したものを見たバカリズムが「ここ、こんなふうに言った方がもっと面白いかな」とセリフを変えて、本番の録音をすることもあるそうで、小田プロデューサーは「アフレコ大喜利みたいで、升野さんならではの匠の技だなと思います」と感服した。

○■経験が生きるテレビ局編、クランクアップシーンに感動も

麻美は3周目の人生で日テレのドラマプロデューサーになったが、これは小田プロデューサーが今作と別にバカリズムと考えていた「実名でテレビドラマの舞台裏を描くドラマ」という企画が発端で、「テレビドラマを作ることの面白さを伝えたいという思いとかは全くなくて、市役所、薬局と来て、少し毛色の違う仕事にしようとなったのがテレビ局だったんです。実在するものにこだわってきた以上、日本テレビでやるしかないだろうということで、こういう形になりました」と説明。

だが、小田プロデューサーは自身と重なる部分が多いだけに、感慨深い気持ちにもなったという。

「私は『ズームイン!!SUPER』という情報番組をやった後にバラエティに異動して、今ドラマにいるんですけど、過去の番組映像を使用するにあたって、情報番組時代やバラエティ時代の人とやり取りをすることが多くて、これまでのテレビ局人生で培った人間関係が生かされたことをうれしく思います。しかも、その映像が出てくると、当時の関係者からたくさん連絡が来たりして。このたび思わぬ形で、自分が入社20年でやってきたことを振り返ることになりました(笑)。4話で麻美が『肉体的には今までの仕事の中でも一番ハードだったけど、その分の達成感があった』と言うセリフ(モノローグ)があって、台本を読んだときはそんなにグッと来なかったのに、編集したときに、そのモノローグにかかる画が、クランクアップのときに撮影現場でみんなと一緒に拍手してる麻美なんですけど、サクラさんの表情がすごく良くて、なんだか感動しちゃいましたね」

そんな小田プロデューサーに、もう1周自分の人生を歩めるとしたら、またテレビ局に入ってドラマ制作をしたいかと聞くと、「ぶっちゃけ思わないかも(笑)」と回答。

それでも、「ドラマ班に異動して8年、念願だったドラマの現場にもすっかり慣れてきてしまっていた中、このドラマはものすごく刺激的なんです。今までやったことないようなことをたくさんして、そのこだわった部分がちゃんと面白いものとして届いているという実感があるので、とても良い気持ちで仕事をしています」と、充実の表情で語った。

今後の展開については、「これから4周、5周としていくんだろうと予測する人もいると思うのですが、テレビ局編の後に、皆さんの想像をはるかに超えることが待っているということを言っておきます。だんだん『えっ? そんなことに!?』となって、また1話を見返すと、『あれが壮大な前フリだったのか…』となるので、覚悟しておいてください(笑)」と自信を持って予告。

その上で、「途中から入ってきて、その話だけ見てもクスリと笑える、不思議な日常を描いたコメディーになっています」とアピールした。

●小田玲奈1980年生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部卒業後、03年に日本テレビ放送網入社。『ズームイン!!SUPER』『メレンゲの気持ち』『アナザースカイ』『有吉ゼミ』など情報番組・バラエティ番組を担当した後、『家売るオンナ』(16年)で連続ドラマを初プロデュース。その後、『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』『知らなくていいコト』『恋です! ~ヤンキー君と白杖ガール~』『悪女(わる)』『名探偵ステイホームズ』などを制作。バカリズム脚本のドラマは『ブラッシュアップライフ』のほか、『生田家の朝』『住住』『ノンレムの窓』を手がける。

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