2023年02月10日07時30分 / 提供:マイナビニュース
昨年6月・東京ドーム『THE MATCH 2022』で武尊との頂上対決を制し、キックボクシング無敗のままプロボクサーに転向した“神童”那須川天心。2月9日には後楽園ホールでプロテスト(B級ライセンス)を受験、周囲が目を見張る動きを披露し順当に合格している。
キックボクシングでは無敵を誇った那須川天心は、ボクシングでどこまで強くなるのか? 世界のベルトを腰に巻けるのか? そして気になるデビュー戦の相手は?
○■「新たな熱狂を生みたい」
「最初はボクシングシューズを履いて動くことに、違和感しかなかった。でも、いまは逆に裸足が違和感。もう裸足では動けません、蹴り方も忘れちゃいました。
(ボクシングでの)目標は敢えて立てていません。道なき道に挑む感じで、これから世界を驚かせる旅に出ます。期待してください。オレはやります!」(那須川天心)
2月9日に行われた那須川天心のボクシングプロテストは、異例尽くめだった。
多くのライセンス志願者が集う定例のプロテストではない。受験者は那須川天心のみで、スパーリング相手には日本スーパーバンタム級1位の南出仁(セレス)が用意された。
プロテスト決行の発表は前日で、約100人の報道陣が見守る中で行われている。私は35年以上にわたりボクシングを取材してきたが、こんなにも盛大なプロテストを見たのは初めてだ。
“神童”と呼ばれてきた男への期待の大きさが、ヒシヒシと感じられた。
合格して当然のプロテストだが、これだけ騒がれれば那須川も緊張したのだろう。マウスピース持参を忘れ、陣営が慌てて買いに走る一幕もあった。
スパーリングでも最初のラウンドは動きが硬かった。相手との距離感が上手く測れないのか、被弾しまいと意識し過ぎたのか、なかなかパンチを繰り出せない。それでも緊張がほぐれた2、3ラウンドでは、フットワークを駆使し右ジャブを果敢に突き、左でカウンターを合わせるなど軽快な動きを披露、観る者を唸らせた。
テスト項目は筆記、3分×3ラウンドのスパーリング、シャドーボクシングの3つ。
合格は、テスト終了から間を置かずに告げられる。
その後、報道陣に囲まれた那須川は質問に答える中で、こう口にした。
「キックボクシングよりボクシングが凄いとは思っていない。ボクシング転向を決めたのは、どの競技にも対応して極められるところを(ファンに)見せたいと思ったから。ボクシング界に新たな熱狂を生みたい」
世界的に、キックボクシングよりもボクシングの方がメジャー競技だ。トップファイターの知名度、ファイトマネーも大きく異なる。そんな輝かしい舞台で自分を試したいとの想いも強くあるのだろう。
那須川の表情は、希望に満ちていた。
○■1年以内に日本王座獲得を目指す
さて、キックボクシングでは無敵を誇った那須川天心は、ボクシングにおいてどれほど強いのか? いや、正確に言えば、どこまで強くなれるのか?
スパーリングパートナーを務めた南出が所属するジムの会長であり、日本プロボクシング協会長の小林昭司(元WBA世界スーパーフライ級王者・セレス小林)氏は言った。
「速い、それにパンチの反応が素晴らしい。キックボクシングから転向してくる選手はスタンスや重心移動などの適応が難しいが、それにも短期間で対応している。センスの塊だと感じた」
そして、こう続ける。
「キックボクシングのスター選手がボクシングに来てくれるのは嬉しい。彼には華があり、これからのボクシング界を背負っていく逸材だと思う。慣れてきたら、もっともっとパフォーマンスも上がる。世界王者になるチャンスも十分。楽しみでしかない」
確かに那須川の適応能力の高さは感じられた。まだ24歳と若く伸びしろも十分にあり期待値は高い。あとは、試合本番で力を発揮できるかどうかだけだ。
デビュー戦は、4月になる模様、アマゾンプライム・ビデオで生配信されることが決まっている。だが、日にちと会場は未定。
4月といえば、寺地拳四朗(BMB)vs.ジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)のWBAスーパー、WBC、WBO3団体統一世界ライトフライ級タイトルマッチが日本で行われることが内定している。このイベントに組み込まれることになるのか、それとも単独イベントでのデビューとなるのか─。
そして気になる対戦相手は?
バンタム級で闘うのか、スーパーバンタム級なのかも明確になっていない状態で予想するのは難しい。ただ6回戦からのスタートになることを考えれば、まずは国内ランカー、もしくは海外の当事国ランカーとの対戦となるのではないか。
帝拳プロモーション本田明彦会長は言った。
「デビュー戦の結果次第で次は8回戦を用意する。1年以内に日本タイトル挑戦をさせたい」
おそらくは4月のデビュー戦、夏の2戦目で日本ランキング入り。秋の3戦目を挟んで12月か2024年初頭に日本、もしくは東洋太平洋、WBOアジアパシフィック王座のいずれかを獲得、同年後半以降に世界挑戦…そんな青写真が描かれているのだろう。
今後の那須川の成長を楽しみに見守りたい。
井上尚弥はまだまだ遠い存在だが、彼が世界を目指す過程で元K-1王者・武居由樹(大橋)との対峙があれば、さらに面白いように思う。
文/近藤隆夫
近藤隆夫 こんどうたかお 1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等でコメンテイターとしても活躍中。『プロレスが死んだ日。~ヒクソン・グレイシーvs.高田延彦20年目の真実~』(集英社インターナショナル)『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文藝春秋)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『柔道の父、体育の父 嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。
『伝説のオリンピックランナー〝いだてん〟金栗四三』(汐文社)
『プロレスが死んだ日 ヒクソン・グレイシーVS髙田延彦 20年目の真実』(集英社インターナショナル) この著者の記事一覧はこちら