2023年02月07日16時40分 / 提供:マイナビニュース
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東京農工大学(農工大)は2月6日、半導体微細化技術によって小型化したグラフェンセンサと自作のポータブル検出器を利用して、有害物質として知られる重金属「カドミウム」の化合物を溶液中で検出することに成功したと発表した。
同成果は、農工大大学院 工学府物理システム工学専攻の吉井智哉大学院生、農工大 工学部生体医用システム工学科の西胤ふう香学部生、同・木川田和希学部生、農工大 工学研究院 先端物理工学部門の前橋兼三教授、同・生田昂助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、センサに関する全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Sensors」に掲載された。
重金属化合物は、太陽電池や光センサなどのさまざまな分野で利用されており、産業上有用だ。しかし、重金属の一種であるカドミウム化合物がイタイイタイ病を引き起こしたことがよく知られているように、重金属は高い生体毒性が大きな懸念材料となっている。重金属による被害を出さないためにも、事故や災害などで漏出した際に早急に検出できる技術の確立が求められている。
従来、カドミウムのような重金属を検出するためには、高価で大型の分析装置を利用しなければならなかった。そのため、そうした分析装置を有する専門機関にすぐに持ち込むことが難しい事故や災害現場、離島などでは、早期の重金属検出が難しいという課題を抱えていた。
そこで研究チームは今回、これまでの研究で開発してきたグラフェンセンサを社会実装する上で重要な「小型マルチチャネル電流検出器」を自作し、持ち運び可能なセンサ系を利用して、溶液中でのカドミウム化合物の検出を目指すことにしたという。
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まず、グラフェンセンサの小型マルチチャネル電流検出器が作製された。従来は、プローバーや半導体パラメータアナライザなど、それぞれ数百万円以上するような数kg程度の比較的大型な装置を利用して、2チャネル(ch)程度の計測が行われていた。そこで今回は、マルチチャネル電流計部分をプリント基板上に作製することにより、100g程度までの計測器の小型化、および24chのマルチ測定を5万円以下で行う低価格化を実現したとする。
次に、カドミウム化合物の検出に当たり、グラフェン電界効果トランジスタ(FET)が作製された。そして同FET上にカドミウム化合物を捕捉可能なキレート剤(テルピリジン)を修飾し、グラフェンを利用したカドミウムセンサを作製したという。同センサは50μM以上の塩化カドミウム溶液の導入に対して鋭敏な応答が見られ、5分以内での塩化カドミウムの検出に成功したという。
さらに、複数のキレート剤を修飾したグラフェンセンサアレイを作製し、3種類のカドミウム化合物の同定試験を行ったところ、それぞれに対するセンサ応答の違いも観察された。研究チームはこれにより、今回作製されたセンサアレイを用いて、水中のカドミウム化合物の同定が可能であると考えられるとした。
今回の研究結果は、事故などで水中に漏出したカドミウム化合物の早期検出への有用なツールになりえることを示すという。さらに、水中でのカドミウム化合物の同定が可能であることから、漏出したカドミウム化合物の種類をいち早く評価できるなセンサの開発も可能になると考察した。また、ほかのキレート剤を用いることにより、ほかの重金属化合物へも検出対象を広げ、水中の重金属汚染の早期発見が可能なセンサデバイスが実現できるとしている。
研究チームは今後、重金属の検出や、グラフェンセンサのマルチチャネル計測を実現したい企業や研究者との共同研究関係を構築し、社会実装に向けて研究を推進していきたいとしている。