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生命の痕跡入ってる? NASAの火星探査車が地球へ送る火星の石の発送準備を完了

2023年02月06日18時41分 / 提供:マイナビニュース

●「パーサヴィアランス」が臨んだ、地球で火星の石を分析するための準備
先ごろ最接近を迎え、いまなお夜空に赤く輝く火星。その赤茶けて荒涼とした世界は、かつては水を蓄え、そして生命もいたかもしれないと考えられている。その痕跡を探す、史上初の試みの第一歩が刻まれた。

米国航空宇宙局(NASA)は2023年1月31日、火星探査車「パーサヴィアランス」が採取した火星の岩石の試料(サンプル)が入ったチューブを、火星の地表に設置することに成功したと発表した。

このチューブは、将来打ち上げ予定の「マーズ・サンプル・リターン」探査機によって回収され、早ければ2033年にも地球に持ち帰ることが計画されている。

いつか地球で火星の石を分析するために

パーサヴィアランス(Perseverance)」はNASAが運用する火星探査車で、2020年7月に打ち上げられ、2021年2月に火星の「イェゼロ・クレーター」への着陸に成功。以来、探査活動を続けている。

パーサヴィアランスの目的は、過去の火星にいたかもしれない生命の痕跡や証拠を見つけ出すことにある。

現在の火星は生命にとって過酷な荒涼とした世界だが、いまからおよそ35億年前には温暖な気候で、海や湖、川もあり、生命の居住が可能な環境だったと考えられている。イェゼロ・クレーターも、35億年前には湖だったと考えられており、とくにパーサヴィアランスが着陸した場所の付近は、その湖に流れ込む川が作り出したデルタ地帯でもあったと考えられている。そのため、この場所を探査することで、生命の痕跡が見つかるのではと期待されているのである。

そのために探査車には7つの科学機器と、史上最多となる19台のカメラが搭載されており、イェゼロ・クレーターを走り回り、手がかりの発見に勤しんでいる。

しかし、いかにパーサヴィアランスが最新の探査車とはいっても、車体に搭載できる科学機器の大きさや性能には限りがある。その場ですぐに分析ができるという利点はあるものの、探査機に搭載できる大きさや性能の機器では、あまり多くのことはわからない。

そこでNASAは、火星で岩石やレゴリス(土壌)を採取し、そして地球に持ち帰る計画を進めている。地球にある最新・高性能の装置で分析すれば、探査車で調べるよりも多くのことがわかる。また、そのサンプルを保管しておけば、将来さらに性能が向上した装置で分析し、より多くの発見がもたらされる可能性もある。実際、アポロ計画などで回収された月の石は、現在もその多くが保存されており、新しい装置で分析することで以前はわからなかった新しい発見があったり、新しい理論やモデルが生み出された際にその石を使って検証したりといったことが行われている。

そしてパーサヴィアランスはその準備として、火星のサンプルを採取するというミッションも担っているのである。

火星でサンプルを採取するのは史上初であり、その実現のためパーサヴィアランスにはドリル付きのロボット・アームが装備されている。このドリルの内側にはチューブが内蔵されており、削った岩石のサンプルがそのままチューブの中に入るようになっている。このチューブは丈夫なチタン製で、さらに完全に密閉され、余計なものが入り込まないような仕組みにもなっている。

採取したサンプルを詰め込んだチューブは、ロボット・アームによって探査車の本体側へと運ばれ、そこでリボルバーの回転式弾倉のような装置に入れられる。そして、この装置が回転することで、チューブは探査車の下部へと移動。そこで別のロボット・アームで捕まえられ、最終的にチューブを保管するコンテナ部分に入れられる。

システム全体の部品数は3000以上にもおよび、「宇宙に打ち上げられた史上最も複雑な機構」の異名を取る。

最初のサンプル採取の試みは2021年8月に行われたが、うまく採取できなかった。科学者たちは岩石が想定以上に脆く、粉や小さな欠片になってしまった結果、探査車に収容する前にこぼれ落ちてしまったと推定した。9月にはドリルによる掘削に耐えられそうな硬い岩を探し、あらためて採取に挑み、見事成功。本格的な採集活動に移った。

火星からのサンプル・リターンの準備

パーサヴィアランスはこれまでの探査活動のなかで、科学者たちが科学的に重要と判断した岩石やレゴリスからサンプルを採取し、チューブに詰め込んだ。この岩石などは火成岩と堆積岩からなり、約40億年前にイェゼロ・クレーターが形成された直後に起きた地質学的プロセスを物語る、素晴らしい標本であると考えられている。

また、火星の大気のサンプルも採取したほか、採取したサンプルが探査車自身に付着している地球の物質で汚染されるリスクに備え、サンプル採取システムの清浄度を記録するための「証明チューブ」も作成した。

そしてパーサヴィアランスは、ジグザグを描くように走行しつつ、ときおり停車し、計10個のチューブを地面に設置していった。この場所は太古の昔、川が湖に流れ込んだときに形成された、隆起した扇形の古代の川の三角州にあり、平らな地形になっている。

また、将来安全に回収するため、各チューブはそれぞれ5~15mほど離して設置。さらに、回収までの間に砂ぼこりで覆われてしまっても見つけられるよう、設置した位置を正確に記録する作業も行われた。

設置作業は昨年末から始まり、そして約6週間が経った日本時間1月30日10時(太平洋標準時29日17時)、最後となる10本目のチューブが、無事火星の地表に設置されたことが確認された。

なお、今回火星の地表に設置したサンプルは、あくまで「バックアップ用」と位置づけられている。メインのサンプルはパーサヴィアランス自身が保持したまま、地球に持ち帰るための回収用探査機がやってくるのを待ち、自ら受け渡すことになっている。ただ、それまでにパーサヴィアランスが故障し、受け渡せないことも考えられる。そこで、その場合には回収用探査機でサンプルを回収できるよう、火星の地表にも設置したのである。

ちなみに、パーサヴィアランスはサンプルを採取した際、同じサンプルを2本のチューブに分けて収めることでペアを作成している。つまり、パーサヴィアランスが持ち続けているサンプルと、地面に設置したサンプルは基本的に同じものであり、どちらを回収しても同じ成果が得られるようになっているのである。


サンプル・リターン・ミッションの打ち上げは2027年にも

遠く離れた火星で、ロボットの探査機が活躍を続ける一方、地球の科学者と技術者は、これらのサンプルを回収し、地球に持ち帰るための「マーズ・サンプル・リターン」ミッションの計画を進めている。

この計画はNASAと欧州宇宙機関(ESA)が協力して進めており、NASAは火星に着陸してサンプルを回収する着陸機(ランダー)を、ESAはそのサンプルを火星から地球まで持ち帰る周回機(オービター)を開発する。

まず2027年にESAが開発するオービターを打ち上げ、続いて2028年にはNASAのランダーを打ち上げる。オービターは火星を回る軌道に入り、ランダーは火星のイェゼロ・クレーターに着陸する。ここでパーサヴィアランスがまだ正常に稼働していれば、ランダーにサンプルの入ったチューブを受け渡し、そしてランダーに搭載された小型ロケットに載せ、火星を回る軌道へ打ち上げる。そして、軌道上で待ち構えていたオービターがそれを捕まえ、チューブを受け取ったのち、火星軌道を離脱。2033年ごろ、地球に帰還する予定となっている。

もし、ランダーが着陸した時点でパーサヴィアランスが故障するなどしていた場合には、ランダーに搭載された2機の小型ヘリコプターが発進。今回パーサヴィアランスが地上に設置したチューブを回収し、ランダーまで運び、そのあとは同じように地球へ送り届けられることになる。

この火星ヘリコプターは、パーサヴィアランスに搭載されて火星へ送られた「インジェニュイティ」の設計をもとに開発される。インジェニュイティは2021年4月に火星で初飛行を行い、その後も飛行距離を伸ばしたり、姿勢を変化させながら飛んだりといった飛行試験を繰り返し、41回飛んだいまなお健在である。

じつは、当初のマーズ・サンプル・リターン計画の検討では、ヘリコプターではなく探査車を送り込むことが考えられていた。しかし、パーサヴィアランスの姉妹にあたる探査車「キュリオシティ」が2012年の着陸から10年以上にわたって正常に稼動していることに加え、インジェニュイティが期待以上の活躍を見せたこともあり、現在の計画に変更されたという経緯がある。

パーサヴィアランスが集めたサンプルは、掘り起こされる日を待ちながらしばし眠り続ける。まるで卒業式の日に埋めるタイムカプセルのようだが、決して比喩ではなく、まぎれもなくそれは太古の火星の記憶をもったタイムカプセルなのである。

パーサヴィアランスは新たな科学ミッションへ

チューブの設置という大事なミッションを終えたパーサヴィアランスは、新たなミッションに臨む。

これからパーサヴィアランスは、チューブを設置した場所を離れ、以前に探査した「ホークスビル・ギャップ」と呼ばれる場所を登り、「ロッキー・トップ」と呼ばれる高い場所を通過。そしてこれまで訪れたことのないデルタ地帯を目指す。

パーサヴィアランスのプロジェクト・サイエンティストを務めるケン・ファーレイ(Ken Farley)氏は「デルタ地帯の底部からロッキー・トップの場所までにある岩石は、湖の中の環境で堆積したように見えます。また、ロッキー・トップのすぐ上の岩石は、湖に流れ込んでいた火星の川の中か端の部分で生成されたようです」と語っている。

「そしてデルタ地帯を川のあったほうへ向かって進むと、砂から大きな岩まで、より大きな粒子で構成された岩石がみられるようになると予想しています。これらの物質は、おそらくもともとはイェゼロ・クレーターのある場所の外側に由来し、侵食された結果、クレーターに流れ込んだのでしょう」。

このあとパーサヴィアランスが最初に立ち寄るのは、科学者チームが「カーヴィリニア・ユニット(Curvilinear Unit)」と呼んでいる場所である。ここは火星の“砂州”とみられる場所で、イェゼロ・クレーターへ流れ込んでいた川のひとつの、湾曲した部分に堆積した堆積物でできていると考えられている。科学者たちは砂岩や泥岩の露頭を探し、分析することで、イェゼロ・クレーターの壁の向こう側の地質学的プロセスを調べたいと語っている。

○参考文献

・NASA JPLさんはTwitterを使っています: 「Someone understood the assignment. It's official: @NASAPersevere has dropped the final tube for the #MarsSampleReturn depot! Ten samples have been deposited on the Martian surface and could be returned to Earth for in-depth analysis in the future. / Twitter
・NASA’s Perseverance Rover Completes Mars Sample Depot
・Mars Sample Return - NASA Mars
・Mars 2020 Perseverance Rover - NASA Mars
・Mars Rock Samples - NASA Mars Exploration

鳥嶋真也 とりしましんや

著者プロフィール 宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。 宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 この著者の記事一覧はこちら

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