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津波予測には海洋短波レーダー観測のデータ同化手法が有効、JAMSTECが確認

2023年02月02日17時32分 / 提供:マイナビニュース


海洋研究開発機構(JAMSTEC)は2月1日、海洋短波(HF)レーダー観測を利用した津波のデータ同化手法を開発するとともに、2022年1月15日に発生したトンガの大規模火山噴火による津波を事例として、今回の手法が沿岸の津波予測に有効であることを実証したと発表した。

同成果は、JAMSTEC 海域地震火山部門 地震津波予測研究開発センターの王宇晨Young Research Fellowらの研究チームによるもの。詳細は、地球科学に関する幅広い分野を扱う学術誌「Journal of Geophysical Research: Solid Earth」に掲載された。

データ同化を利用した津波予測技術は、沖合の観測から得られる津波の振る舞いの観測値(流向、流速、波高等)を直接利用して数値シミュレーションと組み合わせることにより、観測網近傍の津波そのものの精緻な状況を推定し、それを新しい初期条件としてモデルにフィードバックしながらさらにシミュレーションを行うという手法で、地震観測に基づいた津波予測方法と異なり、波源情報を必要としない点が特徴とされている。

同手法に関する研究は、これまでDONETやS-netなどのリアルタイム沖合海底圧力観測網(沖合観測網)の利用を前提とした津波振幅に関する検討にとどまっていた。しかし、面的に得られるシグナル情報ならば、たとえば表面流速などのほかの観測値でも応用が可能だとされてきた。しかも、HFレーダーは沿岸から沖合までの表面流速を面的に観測することが可能なことから、観測値のデータ同化による津波予測への活用が期待されていた。そこで研究チームは今回、トンガの大規模火山噴火により発生した津波を対象として、その応用を試みることにしたという。

具体的には、HFレーダーの有効性の確認のため、日本時間2022年1月15日18~24時の間で、沖合観測網(S-net)とHFレーダーのそれぞれの観測値がデータ同化に利用された。24時以降は、それぞれから得られた波動場を初期条件とした津波シミュレーションによる予測が行われ、下北および函館における験潮所の観測値が精度検証に利用された。


検証内容としては、沖合観測網を用いた同化結果を初期条件とした場合、下北における波形を正確に予測できたが、津軽海峡対岸の函館での波形は過小評価されたとする。それに対し、HFレーダーを用いた同化結果を初期条件とした場合、若干のノイズが見られたが、下北の津波振幅や津軽海峡で揺れ動く津波の様子が再現されており、観測結果とよく一致することが確認されたとする。

また、予測から2時間後と6時間後の最大振幅についての精度検証が行われたところ、2時間後の2観測点平均の最大津波振幅再現率は沖合観測網では47%、HFレーダーでは63%、6時間後の再現率はそれぞれ46%と70%となり、研究チームでは再現率に差が生じたことについて、HFレーダーが津軽海峡沿岸部の複雑な地形による津波の実流況を詳細に捉えているためと考えられるとしている。

今回の研究から、HFレーダーによるデータ同化を利用した津波予測の有効性が実証されたほか、沖合観測網は津波早期検知には有効だが、沖合観測網を用いた津波のデータ同化予測は、湾地形の沿岸においてやや不利になることが判明したことから、研究チームでは、沿岸から沖合までを面的に観測可能であり、沿岸の複雑な地形による津波の流況を捉えられるHFレーダーと組み合わせることで、より効果的な早期津波予測が実現できるようになると説明している。

また、沖合観測網は数秒かそれより短い観測時間間隔になるが、海洋環境観測向けにチューニングされたHFレーダーの観測時間間隔は数分以上となり、津波周期は10~30分程度であるため、本来なら数分程度の時間間隔が適切としながらも、HFレーダーは観測の時間間隔を短く設定すると面的広がりや観測値精度の低下を招いてしまうことが課題ともしている。今回のトンガ噴火の津波を捉えた時のHFレーダー観測の時間間隔は30分であり、津波周期を踏まえると充分な時間間隔ではなかったという。

なお、今後については、津波観測に備えたシステム検討を行い、津波のデータ同化に最適なHFレーダー観測設定(観測時間間隔、空間分解能や観測値精度)、観測条件や設置コストを考慮した最適な観測環境設定の検討が必要だとしているほか、沖合観測網とHFレーダー観測網を相互利用した津波データ同化手法の開発が重要な課題になるとしている。

HFレーダーは日本列島沿岸地域にいくつも設置されており、今後発生が懸念されている南海トラフ地震に対し、沖合観測網DONETと組み合わせることで、より効果的な津波早期検知と沿岸津波高の高精度な予測を行える可能性があるという。また、インドネシアやチリなど、海外の津波発生地域でも活用できることが期待されるともしている。

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