2023年02月02日06時35分 / 提供:マイナビニュース
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東北大学は1月31日、2011年からスタートした国際共同実験プロジェクト「カムランド禅(KamLAND-Zen)」による「ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊探索」の最新結果として、「マヨラナニュートリノ」が存在することで見える信号の崩壊半減期を90%の信頼度で2.3×1026年以上と、これまでより2倍以上の精度で予測し、その結果から同ニュートリノの質量が、36~156meVよりも小さいことが明らかになったと発表した。
同成果は、東北大 ニュートリノ科学研究センターの井上邦雄教授らを中心とする国際共同実験プロジェクト「KamLAND-Zen」によるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。
正確な値は計測できていないが、ニュートリノには極めてわずかだが質量があることがわかっている。そのため、ニュートリノが反ニュートリノと区別がつかない「マヨラナ粒子」であるという可能性が検討されている。
マヨラナニュートリノとは、我々の宇宙では反物質が圧倒的に少ない物質優勢の宇宙であることの謎を解くための鍵だという。宇宙の誕生時に、粒子と反粒子は同じ数だけ生成されたと考えられているが、誕生からわずか1秒が経つまでのどこかの時点で、粒子と反粒子の数の均衡が破られる一大イベントが発生し、現在の圧倒的に物質が優勢の宇宙となった。その均衡を破った存在が、粒子・反粒子の区別がないマヨラナニュートリノだと考えられているのである。
ニュートリノがマヨラナ粒子かどうか唯一検証できる方法が、カムランド禅実験でも採用されている「ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊探索」だという。二重ベータ崩壊は、1つの原子核中で2つのベータ崩壊が同時に起こる現象のことで、通常は同現象が起こると、2つの電子と2つの反ニュートリノが放出される。しかし、もしニュートリノがマヨラナ粒子なのであれば、ごく希に2つの電子のみが放出される崩壊モードも起きるという。その信号を検出できれば、ニュートリノがマヨラナ粒子だと証明することができるが、その信号は極めて希である。
そのため、反ニュートリノ検出器カムランドでは、ノイズ源の放射性物質を1/10以下にまで減らすなど、ノイズ除去のためのさまざまな工夫が施されている。さらに現在では、新しい解析ソフトウェアや、二重ベータ崩壊とノイズを識別するための機械学習による手法なども導入済みだとする。
そして今回、2019年から2021年の夏頃までの約2年(合計約1トン・年)分のデータが解析された。
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その結果、ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊の崩壊数は、最高感度のデータ中に8事象未満であることが判明(崩壊が発見されたというわけではない)。この数字から崩壊までの寿命(半減期)を導き出すことができ、マヨラナニュートリノが存在することで見える信号の半減期は、90%の信頼度で2.3×1026年以上という制限が得られたとする。
またその半減期の制限から、マヨラナニュートリノの質量が、36~156meVよりも小さい値しか許されないことが示されたという。ニュートリノには電子型、ミュー型、タウ型の3世代があり、どれも質量は不明だが、それぞれ値は異なるとされる。さらに、3つの質量の順番も、標準階層なのか逆階層なのかわかっていない。マヨラナニュートリノの質量は、これらニュートリノの質量の大きさや順番によって変わってくるため、非常に重要だとされている。
そしてマヨラナニュートリノの質量が15~50meVの範囲の場合は、世界中の実験が完全探索を目標としている逆階層領域となる。この領域は、仮にノイズ事象のまったくない検出器であれば、1~数トン程度の二重ベータ崩壊原子核を用いることで到達可能なレベルだという。
2015年までのカムランドは、二重ベータ崩壊核の同位体「キセノン136」を約380kg使用していたが、現在はほぼ倍増されて約750kgとなっている。1トンに近くなったことから、世界で初めて逆階層領域での探索を行えるようになったのである。なお、この領域に関しては少なくとも3つの理論予測値があるなど、理論モデルの検証も行えるとした。
カムランド禅では今後、探索と並行して、さらにノイズを減らすための高分解能化やさらなる大型化を実現するため、さまざまな実証実験や革新的な技術開発を進めていくとしているほか、次期計画の「カムランド2禅(KamLAND2-Zen)」が実現すれば、世界の競合実験より先に逆階層を探索し尽くすことも可能になるという。マヨラナニュートリノの発見を、より確実的なものにすることが期待できるとしている。