2023年01月30日20時06分 / 提供:マイナビニュース
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東北大学、近畿大学(近大)、高輝度光科学研究センター(JASRI)の3者は1月27日、二酸化炭素(CO2)の吸脱着で磁化のOn/Offが可能な多孔性材料の開発に成功し、その磁気相変換の機構が層状磁石の層間構造変化によることを明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、東北大 金属材料研究所の高坂亘准教授、同・宮坂等教授、近大 理工学部の杉本邦久教授、JASRIの河口彰吾主幹研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会の機関学術誌「Chemical Science」に掲載された。
近年進められる磁石の開発においては、その性能向上だけでなく、従来の磁性体では実現不可能だった機能性の発現や、磁石機能との協奏などが求められている。同研究チームは、このような「多機能性磁石」を設計するには分子の持つ柔軟性が利用できるとし、金属イオンと有機配位子の複合化によって合成される金属錯体を基にした多次元格子「金属・有機複合骨格」(MOF)と呼ばれる分子性多孔性材料に着目することにしたとする。
MOFは、構成する金属イオンや有機物における付加的要素の高設計性、格子と空間の両特性を利用可能であることなどの利点を持つ。そして、MOFの特徴である空間の概念を付加して磁石を作ると、「多孔性分子磁石」(MOF磁石)となる。MOF磁石は、合成時に使用された有機溶媒や水などの「小分子」をその空孔内部に含む(吸着状態)が、その小分子をMOFの基本骨格を維持したまま脱離させることが可能であり(脱離状態)、その過程が可逆であることが多孔性の理由となっている。
研究チームはこれまでに、このMOF磁石を用いて、酸素やCO2の吸脱着による磁石のOn/Off制御に成功している。なおCO2の吸脱着では、吸着による格子内での電子状態変化が磁気相変換の鍵となっていた。しかし、このようなガス吸着による磁石のOn/Offをより広範な物質で実現するには、より単純なスイッチング機構の確立が望まれるという。そこで同研究チームは今回、ガス吸着に伴う構造変化のみに基づく磁気相変換の実現可能性に着目したとする。
研究チームはこれまで、電子供与性分子として振る舞う「カルボン酸架橋水車型ルテニウム二核(II,II)錯体」と、電子受容性分子として振る舞う「TCNQ誘導体」からなる層状分子磁石を開発しており、今回の化合物も同様の層状分子磁石として考えることができるとする。
同化合物は、CO2吸着前の「ドライ状態」では反強磁性体であり、磁化-温度曲線において、反強磁性状態への相転移を示すピークが75Kに観測される。そこにCO2を導入していくと、導入量が少ないうち(10kPa以下)は反強磁性状態のままだが、導入量が多くなるとフェリ磁性状態へと変化することが確認された。また、真空下での加熱処理により、吸着したCO2を脱離させると、化合物は元の反強磁性体へと戻ることもわかった。
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研究チームはこのメカニズムの詳細を調べるため、JASRIが運用する大型放射光施設「SPring-8」において、吸着状態および脱離状態の結晶構造などを精査。その結果、CO2導入圧が10~20kPaである付近を境に、高圧側で磁石層間の距離が大きく伸長していることが判明した。
これまでの研究から、層間距離が磁気秩序の決定に重要な役割を果たしていることは理解されていたという。そして、これまで扱ってきた物質系において、10.6Å(オングストローム)を境界として、これより短ければ反強磁性体、長ければフェリ磁性体となる傾向にある(10.6Åを境に層間の磁気相互作用が反転する)ことがわかっていたとする。
そして今回観測された磁気秩序の変化と層間距離の伸長は、まさにこれまでの経験則に合致する結果だったとのこと。つまり、今回の物質系における磁気相変化が、CO2吸着に伴う構造変化、特に層間距離の変化に起因することが解明されたのである。なお、今回の化合物は窒素や酸素などCO2以外のガスも吸着したが、磁気相変化が起こるに足る構造変化を誘起できたのはCO2のみだったとした。
研究チームはMOF磁石について、電場や磁場などの物理的な刺激とは異なり、分子吸脱着という化学的な刺激により駆動する材料であり、化学物質の性質を磁化という物理量に換える、「化学-物理変換」を可能にする材料ともいえるとする。