2023年01月26日19時48分 / 提供:マイナビニュース
●
大阪大学(阪大)は1月25日、強いレーザー光で中性子を生成する実験を行い、生成される中性子の数はレーザーの集光強度の4乗に比例して増加するという法則性があることを発見し、1011(1000億)個という高い強度の中性子数をレーザーの1ショットで生成できることを確認したと発表した。
同成果は、阪大 レーザー科学研究所(ILE)の余語覚文教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する物理学および応用物理学とその学際的な分野を扱うオープンアクセスジャーナル「Physical Review X」に1月31日付で掲載される予定だという。
大強度レーザーを物質に集光させることで、陽子などの粒子を加速でき、さらにそれを特定の物質に照射すると、核反応が発生して中性子を生成することが可能であるため、従来のように原子炉や加速器、放射性同位体などを必要とせずに中性子を生成できるようになる。
レーザーの集光強度を上げるほどより高温のプラズマを生成でき、その結果、中性子数を増やすことが可能とされているが、これまで集光強度と発生中性子数の具体的な関係式は知られていなかったという。そこで研究チームは今回、ILEが運用する世界屈指の大強度レーザー「LFEX(エルフェックス)」を用いて、同じ照射条件で集光強度を変えつつ、発生した中性子数を計測することにしたとする。
1ピコ秒の極短時間に、レーザーを数10μmという小さい領域に集中させると、物質は電子が剥ぎ取られてイオン(=プラズマ)と化す。今回は、この高温・高密度のプラズマから発生した高エネルギーのイオンを中性子生成ターゲットに照射することで、非常に短い時間幅で中性子を連続して発生させることに成功したという。その結果、レーザーの集光強度の4乗に比例して、中性子数が増加することが判明したほか、同現象を説明できる理論モデルの構築にも成功したとする。
このように、集光高度を上げると1ショットでより多くの中性子を生成できることから、さまざまな利用が可能になると研究チームでは説明しており、1000億個の中性子という高輝度中性子パルスに、中性子などの粒子の運動エネルギー(速さ)を計測するための手法の1つである「飛行時間計測法」を組み合わせ、中性子共鳴吸収による物質の非破壊分析法に関する試験も実施したという。
●
共鳴吸収は、物質が特定のエネルギーにおいて中性子を吸収する性質のことであり、そのエネルギーは物質の種類に依存することから、共鳴吸収が起きたエネルギーがわかれば物質の種類を同定することが可能とされるほか、共鳴の強さから、試料中に含まれるその物質量を知ることもできる。
レーザー中性子源の長所の1つは、従来と比較して中性子パルスの時間幅が短いという点にあり、パルス幅が短い場合、飛行時間計測法において時間分解能が高くなり、計測に必要な距離を短くできることから、検出器の設置距離は、従来なら最低でも10mは必要だったところが、今回の研究では1.8mで済んだという。
実験では、中性子の飛行経路上に、タンタル、銀、インジウムの板が設置され、透過中性子のエネルギーが計測され、3種類の金属それぞれに対応するエネルギーの中性子吸収が確認されたという。これは、レーザー中性子源が、未知の素材の元素識別とその量を測定可能であることを示す成果だという。
こうした成果について研究チームでは、レーザープラズマから中性子生成までのメカニズムの理解に寄与するだけでなく、レーザー中性子の強度を上げるための指針を与えるとしており、将来的には、レーザー中性子源が研究室や工場などに設置されることが期待されるとするほか、レーザー中性子源の特徴である短パルス性を活かして、飛行時間測定装置の飛行経路長を1.8m以下に短くできることが示されたことから、システム全体の小型化につながることが期待されるともしている。
また、加速器による従来の分析では、数時間の計測時間が必要であったほか、数時間における平均情報しか得られなかったが、今回の手法なら約1000万分の1秒で計測できるため、短時間で発生したり変化したりする現象も把握できるとしている。例えば、中性子共鳴吸収の信号構造から測定対象の温度を評価できるため、動作中の工業製品の異常な温度上昇を捉えるなど、これまで不可能だった計測も実現できるという。
さらに、今回計測されたインジウムなど、動作中の機器で利用されている元素のその部分だけを選択的に計測することも可能になるとしているほか、電気自動車などに使用される充電池の異常昇温の検知もできるようになることから、今後、現代文明に欠かせない多種多様な機器の性能向上や信頼性向上に役立つことが期待されるとしている。