2023年01月26日19時04分 / 提供:マイナビニュース
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産業技術総合研究所(産総研)は1月25日、スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)として知られる高機能熱可塑性ポリマーの「ポリエーテルエーテルケトン」(PEEK)をモノマー単位へと分解できる解重合法を開発したと発表した。
同成果は、産総研 触媒化学融合研究センター ケイ素化学チームの南安規主任研究員らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の化学全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Communications Chemistry」に掲載された。
PEEKなどの高機能熱可塑性樹脂はスーパーエンプラと呼ばれ、耐熱性と力学的な強度を有し、種類によっては耐薬品性などの性能を有しており、安全性が求められる製品において広く利活用されている。その生産量は、プラスチック全体の生産量の中で割合としては少ないものの、産業社会において不可欠な材料であるため、今後も増加していくことが予測されている。
しかしスーパーエンプラは、ケミカルリサイクルを試みる場合、その優れた高い安定性があだとなり極めて困難とされている。ケミカルリサイクルができないことで、環境負荷以外にも、リサイクル不能のプラスチックが使用禁止になった時に対応できなくなることや、高価格製品であるために廃棄は経済的に大きな損失となるなどの課題も抱えており、新たなリサイクル技術が望まれているという。
研究チームはこれまでの研究で、パラジウム錯体触媒を用いてスーパーエンプラの一種である「ポリフェニレンスルフィド」のベンゼンへの分解に成功していた。そこで今回は、ケミカルリサイクルの前例がないPEEKのケミカルリサイクルに成功すれば、ほかのスーパーエンプラ、および安定樹脂材料のケミカルリサイクルの実現に向けた突破口になると考え、PEEKの主鎖結合の選択的な切断による原料モノマーと、その類縁体を与える新たな解重合技術の開発に取り組むことにしたとする。
硫黄官能基は脱離基として取り扱えることから、高い反応性を持つ硫黄求核剤を用いてPEEKを分解できれば、脱離基として硫黄官能基を有するモノマー生成物が得られることになる。この着想のもと、硫黄求核剤と高沸点溶媒の「N,N-ジメチルアセトアミド」が適切な比率で混合された後、粉末状のPEEKが加えられ、副反応が進行しない150℃でかき混ぜられた。これは、通常のプラスチックの熱分解温度の600~1500℃よりも低い温度だという。
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反応開始3時間後にPEEKが完全分解され、19時間後には解重合中間体である「ベンゾフェノンジチオラート」と「ベンゼンビスオラート」が生成された。ここに「ヨウ化メチル」が添加され、ベンゾフェノンジチオラートのみが反応。最終的に。「4,4’-ジメチルチオベンゾフェノン」とPEEKのモノマーの1つである「ヒドロキノン」の回収に成功したという。4,4’-ジメチルチオベンゾフェノンは重合可能なモノマーに再生でき、実際にPEEKと類似した構造の交互共重合体の合成が達成されたという。
また、ヨウ化メチルの替わりに、「2-ブロモエタノール」と「塩化メタクリロイル」が順次加えられたところ、高屈折率樹脂の原料として利用できる「機能化ジチオベンゾフェノン」が得られたという。
このように、今回の解重合法は単にモノマー再生にとどまらず、さまざまな機能性分子を合成できることから、PEEKのアップサイクリング法にもなり得ると研究チームでは指摘している。また、粉末状だけでなく、ペレット状やフィルム状のPEEKにも適用できるので、素材に対して汎用性があるともしている。
さらに今回の解重合法は、純粋なPEEK素材だけでなく、炭素繊維やガラス繊維で強化されたPEEK材料にも利用可能だという。炭素繊維を30wt%含む強化PEEK素材を細かく粉砕し、適量の硫黄求核剤とアミド系溶媒を用いて解重合し、ヨウ化メチルで処理すると、PEEKのモノマー単位まで分解した4,4’-ジメチルチオベンゾフェノンとヒドロキノンを含む解重合混合物が得られるとする。ガラス繊維強化PEEKを用いて同じ解重合を適用しても、同様の生成物が得られるという。
それに加え、純粋なPEEK素材の解重合にポリプロピレンやポリスチレン、ポリアミドを共存させても、PEEKの解重合が問題なく進行することも確認された。今回の解重合法は、複合PEEK材料やほかのポリマーの共存下でも適用できるとしている。
研究チームは今後、今回の研究成果をもとに、すべてのプラスチックをリサイクルする社会の実現に向けてPEEK以外のさまざまなスーパーエンプラ、スーパーエンプラ以外の安定プラスチックの解重合を実施するとした。また、新たな解重合触媒を開発することで、より効率的な解重合技術を開発し、社会実装を目指すとしている。