2023年01月24日15時51分 / 提供:マイナビニュース
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東京大学(東大)は1月23日、独自開発の鉄化合物を触媒とすることで、常温下で定量的に水素生成が可能かつ、1気圧の水素圧下・0℃の条件下で逆反応である水素貯蔵も可能という省エネルギーな、「ゲルマニウム水素化物」を水素キャリアとした化学的水素生成・貯蔵・運搬技術を開発することに成功したと発表した。
同成果は、東大 生産技術研究所(東大生研)の砂田祐輔教授、東大大学院 工学系研究科 応用化学専攻の小林由尚大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会の機関学術誌「Chemical Science」に掲載された。
水素社会を実現するためには、水素をエネルギーとして活用する技術の開発に加えて、水素を安価かつ安全に、そして可能な限り省エネルギーで高効率的に生成・貯蔵・運搬を行うための技術開発が重要となる。特に貯蔵と運搬に関しては、水素は常温・常圧下では気体であるため、水素を取り込むことで、液体や固体の形にできる水素キャリアの研究開発が進められている。
しかし、現状はどの水素キャリアも何らかの課題を抱えているという。たとえば、効率的な水素生成法に、金属水素化物や錯体水素化物などを水素キャリアとする技術が開発済みだが、水素生成後の残渣から水素キャリアを再生するには高エネルギーが必要とされる。
一方、メチルシクロヘキサン(MCH)などの液体有機水素キャリアを用いる手法が、安全かつ貯蔵・運搬性に優れるとして注目を集めているが、液体有機水素キャリアも作動に高エネルギーが必要とされるのに加え、貴金属触媒が必要であるという課題を抱えていたという。
このような背景の下、これまでケイ素やゲルマニウム、スズなどの14族元素化合物を活用した触媒反応の開発を行ってきたのが研究チームであり、今回の研究では、14族元素水素化物の水素キャリアとしての活用に注目し、ゲルマニウム水素化物を水素キャリアとして用いることにしたという。
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具体的には、水素キャリアとしてゲルマニウム水素化物の一種である「Ph2GeH2(Ph=C6H5)」を使った水素発生反応を、貴金属フリーで達成すべく触媒開発が行われた。その結果、N-ヘテロ環カルベンの一種である「iPrIMMe」の共存下、鉄化合物として「[Fe(mesityl)2]2(mesityl=2,4,6-Me3-C6H2)」を触媒として活用することで、常温下においてPh2GeH2からの水素ガス生成が可能となることが見出されたという。
また、同反応では定量的に水素ガス発生が進行しており、反応後には水素キャリアであるPh2GeH2は、環状化合物である「(GePh2)5」に定量的に変換されていることが明らかにされたほか、ほかのゲルマニウム水素化物や、ケイ素もしくはスズ水素化物からの水素発生も、同様の鉄触媒により温和な条件下で可能だったとする。
さらに、(GePh2)5に対する水素付加反応の開発が行われたところ、水素発生時と同様に「[Fe(mesityl)2]2/iPrIMMe」を触媒として用いることで、1気圧の水素圧下において0℃で水素付加が進行し、Ph2GeH2が再生することが見出されたほか、ほかの反応経路として、(GePh2)5に対し「PhICl2」を作用させPh2GeCl2へと変換した後、「LiAlH4」と反応させることでもPh2GeH2の再生が可能であることも確認されたという。
加えて、[Fe(mesityl)2]2と各種反応剤との反応が詳細に検討されたところ、Ph2GeH2からの触媒的な水素発生が進行していることが判明。同反応では、[Fe(mesityl)2]2が4当量のiPrIMMeと反応し、単核鉄錯体「trans-(iPrIMMe)2Fe(mesityl)2」(鉄錯体)を与え、その後、Ph2GeH2との段階的な反応が進行し、3種類の鉄錯体を中間生成物として経由しながら水素発生反応が進行するという流れであることが確認されたとする。
なお、研究チームでは、ゲルマニウム化合物やケイ素化合物の多くは、生体および環境に対して低毒性であることから、安全性も高い手法だとしており、今後は、より多量の水素を発生・貯蔵可能な水素キャリアの開発や、より低コストな水素キャリアの開発を行う予定としている。