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北大、イカと合成高分子を組み合わせた高耐破壊性の複合ゲルを開発

2023年01月23日16時31分 / 提供:マイナビニュース


北海道大学(北大)は1月20日、生体軟物質であるイカの外套膜に合成高分子を複合化することで、外套膜の筋肉が持つ異方的構造を反映した力学特性による高い耐破壊性を持った複合ゲルを開発することに成功したと発表した。

同成果は、北大大学院 生命科学院の大村将大学院生、同・大学院 先端生命科学研究院・同創成研究機構 化学反応創成研究拠点の中島祐准教授、同・グンチェンピン教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の材料科学全般を扱うオープンアクセスジャーナル「NPG Asia Materials」に掲載された。

長いひも状の高分子による網目構造内に多量の水を閉じ込めたハイドロゲルは、生物の身体に良く似た特徴を持つ。そのため、生体に馴染みやすい次世代医療材料として、軟骨や腱などの代替え用途が検討されている。しかし、ゲルは一般に強度や耐破壊性が低い材料であり、それが実応用に際しての大きな障壁となっていた。

材料を壊れにくくする一般的な手法の1つに、鉄筋コンクリートに代表される、複合構造および異方性の導入がある。要は、ゲルにも複合構造と異方性を導入できれば、丈夫さが得られる可能性があるということとなるわけだが、化学合成によって得られる一般的なゲルは異方性を持たないことから、ゲルを何らかの異方的な柔軟材料と複合化させる必要があった。

そこで研究チームは今回、天然のハイドロゲルともいえる生体軟組織を、合成高分子と複合化することにしたとする。多くの生体軟組織は、筋肉などのように、高次な生命活動を行うために異方性を有している。このような異方的柔軟材料である生体軟組織を合成ゲルと複合させることで、極めて丈夫な複合ゲルが得られることが期待できるという。

今回の研究では、生体軟組織として「ムラサキイカ」の外套膜が選択された。外套膜はイカの表面を覆う円錐状の組織であり、焼きイカなどを食べたときに感じる、リング状の繊維質の部位として知られている。

今回の研究では、外套膜の切り身を高分子の原料である親水性モノマーの水溶液に浸漬させ、モノマーを十分に染み込ませた後に外套膜を加熱。それにより、外套膜内部でモノマーから高分子網目が合成され、複合ゲルが作られた。


合成された複合ゲルについて、電子顕微鏡などを用いて内部構造が調べられたところ、外套膜に存在する筋線維の配向が保たれたまま、合成高分子が導入されていることが判明。これは、合成高分子との複合化において、外套膜の異方的構造はほとんど破壊されなかったことを示すという。

また、複合ゲルが外套膜の環状筋の向きに対し、垂直または平行方向への延伸が行われたところ、環状筋と垂直に延伸した場合は3倍伸ばすと切れてしまったが、環状筋と平行の場合は6倍まで伸ばせることが確認されたという。これは、複合ゲルはイカの異方的構造が反映されており、それによって異方的な力学特性が実現されたと考えられるとしている。

ちなみに、どちらの方向に延伸させた場合でも、複合ゲルの強度はイカ単体もしくは合成高分子ゲル単体のそれを大きく上回っており、複合化による強度の上昇も確認されたとする。

さらに、複合ゲルの丈夫さの調査として、材料に小さな亀裂を入れて力を加えることで、亀裂の進みやすさの程度を示す値「破壊エネルギー」が測定された。筋線維の配向と水平に亀裂を入れた場合、力を加えると亀裂は簡単に進んでしまい、その破壊エネルギーはおよそ600J/m2と低かったとするが、筋線維の配向と垂直の場合は亀裂がなかなか進まず、枝分かれなどの多段階の破壊が示され、その破壊エネルギーはおよそ4000J/m2と高い結果となったとのことで、合成された複合ゲルは環状筋と垂直方向において、優れた耐破壊性を持つ異方的複合材料であることが示されたとする。

なお、研究発表の時点で複合ゲルの優れた耐破壊性の原理は完全には解明されていないが、亀裂を横切るように存在するイカ筋線維が亀裂の拡大を抑制したこと、またイカ筋繊維と合成高分子が強固な分子間力でつながり、材料内部にかかる力を分散させたことが主な要因であることが考えられると研究チームでは説明しているほか、半生体由来であることから、優れた生体適合性も期待できるともしている。

なお、今回はイカの外套膜が用いられたが、世の中には多種多様な構造・性質を有する生体軟組織が存在することから、研究チームでは今後、今回の手法をもとに、使用する生体軟組織や複合化する合成高分子の種類を変えることで複合ゲルの性質を制御し、用途に応じた構造・性質を示す異方性柔軟材料を創製していく考えを示しているほか、合成高分子ではなく天然高分子を複合させることで、100%天然物由来の強靭な柔軟複合材料が得られることも期待されることから、そうした研究も進めていきたいとしている。

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