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近未来テクノロジー見聞録 第292回 機械学習で脳の活動をモデル化し「怒り」のメカニズムのパターン化に成功

2023年01月19日08時03分 / 提供:マイナビニュース

2023年1月5日、カリフォルニア工科大学は、マウス実験において得られた実験データに機械学習を適用して分析することで、脳の隠れた活動パターンを明らかにしたと報じている。では、この活動パターンとはどのようなものだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

脳の活動をモデル化し「怒り」のメカニズムに迫る

カリフォルニア工科大学の研究チームは、マウス実験で得られたデータを機械学習モデルに適用し、いわゆる「人工マウス脳」を作成した。研究対象としたのは、脳の視床下部。脳のほぼ中央部に位置するこの器官は、自律神経の中枢として「本能」と呼ばれる各機能の調節や中継を担っている重要な部分。具体的には、体温調節・血圧・心拍数・睡眠・摂食などの本能行動や、怒りや不安などの衝動行動の調節を行っている。そして今回の研究では、この中から怒りにフォーカスした実験が行われた。

視床下部から得られたデータに適応した機械学習モデルを詳細に分析したところ、「ラインアトラクタ」という複雑な神経系から表れる脳内での活動パターンが明らかになった。それが以下の図だ。V字のような形状になっており、この構造を彼らはトラフとも呼んでいる。ただし、このラインアトラクタは脳内に物理的に存在するのではなく、あくまで数学的なモデルであると理解してほしい。

このモデルでは"increasing aggressiveness"が怒りの度合いとして方向付けされており、例えば怒りの度合いが増すと、ラインアトラクタ内のエネルギーが矢印の方向へと向かっていく。それはつまり、攻撃性が増すことを意味する。そしてこの攻撃性(怒り)を調整する際には、このラインアトラクタの形状が変わり、攻撃性のエネルギーが増加しにくいものとなるという。

研究チームによると、このラインアトラクタの形状は人によって異なるという。「怒りっぽい」「感情をコントロールできる」といった特徴は、このラインアトラクタの形状によって決定されているといっても良い。

これまで、脳内のその他の器官(大脳皮質や海馬)においてはアトラクタという存在は発見されていて、運動や記憶においての制御を実施していることがわかっていたのだが、今回視床下部という脳の深部においてこのラインアトラクタを発見し、怒りの制御に影響している点を発見できたのは、とても大きな意義であるという。

ちなみにこの研究成果は、2023年1月5日の『Cell』に掲載されている。

いかがだっただろうか。人間というのはとても複雑な生物であるが、このようにパターン化すると、構造が容易なものと感じることができる。怒りはその人が持つ特徴ではあるが、視床下部の特性によってその性質が大きく左右されていることがわかって、とても不思議だ。

怒りによって人に暴言や危害を与えてしまう人、怒りが原因で犯罪を犯してしまう人についても、実はその人の性格よりも、人間を構成する特定の器官である視床下部に起因していると考えると、なんとも言えない気持ちになる。研究チームはこの成果を踏まえて、情緒治療薬の開発などに役立てていくという。

齊田興哉 さいだともや 2004年東北大学大学院工学研究科を修了、工学博士。同年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に入社し、2機の人工衛星プロジェクトチームに配属。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。 現在は、コンサルティングと情報発信に注力。書籍に「宇宙ビジネス第三の波」、「図解入門業界研究 最新宇宙ビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本」など。テレビ、新聞、Webサイト、セミナー・講演も多数。 この著者の記事一覧はこちら

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