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ロシアの「ソユーズ」宇宙船が引き起こした“ISS史上最大の危機”、その全貌

2023年01月16日19時20分 / 提供:マイナビニュース

●ソユーズMS-22を放棄は放棄、代替の宇宙船を無人で打ち上げへ
2022年12月15日に発生した、ロシアの「ソユーズMS-22」宇宙船の冷却材漏れ事故。その影響で、国際宇宙ステーション(ISS)の運用、なにより宇宙飛行士の安全は大きく脅かされることになった。この危機に対し、米国航空宇宙局(NASA)とロシア国営宇宙企業ロスコスモス、そして米宇宙企業スペースXなどが協力し、事態の打開に向けて動き続けている。

「ISS史上最大の危機のひとつ」ともされる事態は、なぜ起きたのか。そして、技術者たちはどのようにして解決しようとしているのだろうか。

ソユーズMS-22の冷却材漏れ

ソユーズMS-22宇宙船は2022年9月21日(日本時間、以下同)、ロシアのセルゲイ・プロコピエフ宇宙飛行士とドミトリー・ペテリン宇宙飛行士、米国のフランク・ルビオ宇宙飛行士の3人を乗せ、カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から打ち上げられた。

その約3時間後には、ISSにドッキング。現在も係留されており、計画では今年3月28日に、乗ってきた3人の宇宙飛行士を乗せ、地球に帰還することになっていた。

しかし12月15日、機体後部にあるラジエーターから、突如として冷却材が漏れ出すトラブルに見舞われた。

ISSには、プロコピエフ氏をコマンダー(船長)とし、日本の若田光一宇宙飛行士も含め計7人の宇宙飛行士が滞在しているが、差し迫った危険はなかった。また、ISSの外側に向かって漏れ出したため、ISSの太陽電池や外壁、窓、実験機器などへの汚染もなかった。ただ、この影響でプロコピエフ、ペテリン宇宙飛行士が準備していた船外活動は中止となった。

冷却材は何時間にもわたって漏れ続け、最終的に枯渇して漏れは止まった。

NASAとロスコスモスは共同で調査にあたり、ロボットアームで損傷が起きたとみられる場所の写真を撮影するなどして分析を実施。そしてこれまでの調査の結果、外壁部に直径数mmの穴が開いていることが確認されており、冷却材が流れるパイプが損傷し、そこから漏れ出したことがわかっている。

ソユーズMS-22を放棄

こうしたなか、1月11日、米国航空宇宙局(NASA)とロスコスモスは合同で記者会見を開催。そのなかで、冷却材がすべて失われたことで、ラジエーターはもはや機能しないと明らかにした。

そして、その状態で宇宙飛行士が乗り込むと船内温度は最大40℃に、湿度も通常より高くなることから、宇宙飛行士の健康はもとより搭載機器への悪影響も考えられ、安全に運用を行うことは難しい状態だという。

その結果、ソユーズMS-22は有人での運用を放棄。そして代替船として、2月20日に「ソユーズMS-23」宇宙船を無人で打ち上げ、プロコピエフ宇宙飛行士らを乗せて地球に帰還させることが発表された。

ソユーズMS-23はISS到着後、宇宙飛行士の体に合わせてオーダーメイドで製作された座席や、持ち帰るはずだった物資などを、ソユーズMS-22から移動させる作業を実施。帰還日は決まっていないものの、今後のISSの運用や、滞在する宇宙飛行士のローテーションとの兼ね合いなどから、約半年後になるとみられる。

その結果、プロコピエフ宇宙飛行士らは当初の約2倍、約1年間にわたってISSに滞在し続けることになるものの、彼らの健康状態は正常で、ミッションの延長にも耐えられる状態だという。

ソユーズMS-23の打ち上げはもともと今年3月に予定されていたが、製造や試験を早めることで、予定を前倒しして打ち上げることが可能だという。なお、搭乗予定だったロスコスモスの宇宙飛行士オレグ・コノネンコ氏とニコライ・チューブ氏、そしてNASAのロラル・オハラ宇宙飛行士の3人は、今後のミッションなどでISSを訪れることになるだろうとしている。

NASAのISS計画のマネージャーを務めるジョエル・モンタルバーノ氏は「私たちはこれを『救助用ソユーズ(rescue Soyuz)』とは呼ばず、『交換用ソユーズ(replacement Soyuz)』と呼んでいます。あくまで、3月に打ち上げる予定だったものを少し早めて打ち上げるだけなのです」と語る。

モンタルバーノ氏はまた、こうしたロシア側の計画の変更にともない、NASA側も宇宙船の打ち上げスケジュールなどを見直すことを検討しているとした。NASAは2月にも、スペースXの宇宙船「クルー・ドラゴン」運用6号機(Crew-6)の打ち上げを予定していたが、数週間程度遅れる可能性がある。ただし、搭乗する宇宙飛行士に変更はないだろうとした。

一方ソユーズMS-22については、無人の状態であれば運用に問題はないとみられている。そのため、ソユーズMS-23への座席や物資の移動が終わり次第、無人でISSから離脱。カザフスタン共和国の草原地帯にある、あらかじめ設定された着陸地点への着陸を試みるとしている。またこの際、ISSで発生した物資も搭載し、持ち帰る計画だという。

ロスコスモスで有人宇宙計画の責任者を務めるセルゲイ・クリカレフ氏は、「再突入時には搭載機器が高温になるかもしれません。ですが、ソユーズには冗長性が幾重にも確保されており、たとえばコンピューターが故障しても、アナログ機器のみで帰還できるモードがあります。そのため、無事に着陸できるでしょう」と語った。

●宇宙飛行士の緊急脱出の手段は? 穴が開いた原因は? 残る懸念と希望の光
宇宙飛行士の緊急脱出の手段は?

ソユーズMS-22が使用不能になったことで沸き起こったもうひとつの大きな問題が、緊急脱出の方法である。

万が一、ISSを放棄せざるを得ないような重大な事態が発生した場合、滞在している宇宙飛行士は基本的に、乗ってきた宇宙船で緊急脱出することになっている。

クリカレフ氏によると、そのような緊急事態が発生した場合には、引き続きソユーズMS-22を使用する可能性もあるとしている。ISSを放棄せざるを得ないような事態であれば、ソユーズMS-22のほうがまだ安全なのは事実であろう。また、着陸地点を選ばない緊急帰還モードであれば、温度や湿度が上がりすぎる前に地球に着陸することも可能であり、前述の冗長性もあって、緊急脱出用としてであればソユーズMS-22が使えるというのは間違いではないだろう。

また、NASAとロスコスモス1月13日、より安全性の高い脱出方法として、ロシアのプロコピエフ、ペテリン宇宙飛行士はソユーズMS-22に乗せる一方、NASAのルビオ宇宙飛行士はISSにドッキング中のクルー・ドラゴン宇宙船運用5号機(Crew-5)に乗せるという、分乗で解決する計画が発表された。

NASAやロスコスモスは、2人だけ乗せるのであれば熱負荷が軽減でき、温度や湿度が限界値まで上がるまでに余裕が生まれると説明する。

一方クルー・ドラゴンは、基本的に定員4人で運用されているが、本来は最大7人まで搭乗できるように設計されており、空調や空気、水などの余裕はある。懸念となっていたのは座席と船内宇宙服で、現在のクルー・ドラゴンCrew-5にはもともとのクルー4人分の座席と船内宇宙服しかないが、ルビオ宇宙飛行士のソユーズ用座席をクルー・ドラゴンに移設することが可能であるとともに、ソユーズ用の船内宇宙服でも問題なく乗り込めることを確認したとしている。

座席を移設する作業は1月17日から18日にかけて実施するという。

NASAはすでに昨年12月30日から、クルー・ドラゴンを運用するスペースXに対し、緊急時に追加の宇宙飛行士を乗せて地球に帰還させることができるかどうかを問い合わせ、実現の検討を始めたことを明らかにしており、その成果が発揮されたものとみられる。

なお、交換用のソユーズMS-23がISSに到着したあとは、同機を緊急脱出用として使うことになる。そのため、ルビオ宇宙飛行士の座席はクルー・ドラゴンからMS-23へ移され、またロシアの宇宙飛行士2人の座席もソユーズMS-22からソユーズMS-23へ移されることになる。

穴が開いた原因は?

1月11日の記者会見ではまた、ソユーズMS-22のラジエーターに穴が開いた原因の調査状況についても報告された。

クリカレフ氏によると、調査の結果、ラジエーターに開いた穴は、マイクロメテオロイド(微小隕石)が毎秒約7kmで宇宙船に衝突したために引き起こされた可能性が最も高いと結論付けたとしている。地上での試験でその仮説は確認されたという。

なお、事故発生時の前後に極大を迎えていた、ふたご座流星群の発生源である宇宙塵(ダスト)の衝突という可能性は、飛来方向などの観点から除外されている。

また、スペース・デブリ(宇宙ごみ)が衝突した可能性も低いとした。これは、衝突時の速度から、地球を周回するデブリとは考えられず、深宇宙から惑星間軌道で飛来するマイクロメテオロイドと考えるほうが自然だからだという。

さらに、製造時の品質不良である可能性も低いという。クリカレフ氏は「組み立て時の記録などを調査した結果、それ(品質不良)を裏付けるものはなにもありませんでした」としている。

ただ、予防措置としてソユーズMS-23のラジエーターを「ダブルチェック、トリプルチェック」したとし、問題がないことを念入りに確認したという。

NASAのモンタルバーノ氏も、「すべての情報が、マイクロメテオロイドが衝突した可能性を示しています。これまでのところ、ロスコスモスと見解は一致しています」とした。

クリカレフ氏はまた、ソユーズMS-22のラジエーターを船外活動で修理する可能性についても否定した。クリカレフ氏によると、船外活動でソユーズMS-22に近づくことは難しく、またラジエーターの穴を塞いだり、冷却材を再補充したりするのは困難でリスクが高いとし、「新しい宇宙船を打ち上げて交換するほうが、リスクははるかに少ないです」と説明している。

残る懸念と、希望の光

ISS史上最大の危機のひとつとも称された今回の事態は、解決に向けて動き出した。しかし、依然として懸念は残っており、ソユーズMS-23が着陸するそのときまで安心はできない。

懸念のひとつは、ソユーズMS-23の打ち上げを約1か月も前倒しするという点である。製造開始直後ならまだしも、本来の打ち上げ予定日まであと2か月という段階で、1か月も短縮するのは簡単なことではない。作業時間の増加、あるいは試験、検証項目の削減などが行われるようなら無理が生じ、ソユーズMS-23やそれを打ち上げるロケットでトラブルが発生する可能性が高まる。

また、ソユーズMS-23を無人でISSにドッキングさせるのにもリスクがともなう。ソユーズとISSとのドッキングには「クールスNA」と呼ばれる自動ランデブー・ドッキング・システムを使用するが、信頼性が低く、たびたびシステムがシャットダウンしたり誤作動したりする事態に見舞われている。その場合には、中に乗っている宇宙飛行士が手動で操縦してドッキングさせるが、無人のソユーズMS-23ではそれができない。

こうした場合に備え、ソユーズには「TORU」と呼ばれる、ISSから宇宙飛行士が遠隔操縦してドッキングさせるシステムが装備されているが、あくまでクールスNAのバックアップと位置づけられており、また操縦時の遅延が大きいこともあって、あまり使用は好まれていない。

そして最大の懸念は、ソユーズMS-23の到着までの脱出手段である。たとえばルビオ宇宙飛行士の座席をクルー・ドラゴンCrew-5に移設する前に、ISSに深刻な事態が起きた場合には、3人の宇宙飛行士はソユーズMS-22で脱出することになる。たとえ2人だけ乗ることになったとしても、手負いのソユーズMS-22で本当に無事に脱出し、地球に帰還できるのか、不安の種は尽きない。

現時点で、宇宙飛行士の命に危機が迫っているわけではないのは、まさに不幸中の幸いであるが、今回の事態は有人宇宙活動のリスクの高さを、あらためて知らしめることになった。

一方、この事態に対し、NASAとロスコスモスが密接に協力していることは明るい側面といえよう。

ロシアのウクライナ侵攻以来、米国はロシアに経済制裁を加え、ロスコスモスはISSからの撤退を匂わせるなど、宇宙分野でも両国の関係は悪化した。それでもISSの運用は続き、今回の事故においてもお互いが協力し、原因の調査や脱出方法の立案が進められた。

とくに、ソユーズの座席をクルー・ドラゴンに移設するにあたっては、両者が設計図などを持ち寄り、協力して検討を重ね、安全性などの評価が行われたはずであり、ここ最近の両国の宇宙分野での関係性を考えると、これは驚くべきことである。まさに国際協力の価値、意義が発揮された好例であり、そして協力すればどんな困難も乗り越えられるのだということを示す、小さくも明るい希望の光となった。

まずはソユーズMS-23が、プロコピエフ宇宙飛行士らを乗せて無事に帰還することが大前提だが、その先に、災い転じて福となす未来が訪れることを願いたい。

○参考文献

・[VK Roskosmos(https://vk.com/wall-30315369_566423)]
・VK Roskosmos
・International Space Station Operations, Soyuz Status Update - Space Station
・Spacewalk Preps Continue as Soyuz Seat Move Planned as Precaution - Space Station
・Media Briefing: NASA Media Update on Space Station Plans, Soyuz Status - YouTube

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