2023年01月16日17時29分 / 提供:マイナビニュース
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東京医科歯科大学(TMDU)は1月13日、元ハンマー投げ日本代表として知られる同大学の室伏広治特命教授が考案した、特別な道具を使わず誰でも手軽に行うことができる、筋骨格系の運動機能に対するセルフ・スクリーニングテスト「KOJI AWARENESS」を、世界的に普及しているfunctional movement screen(FMS)と比較し、同等のスクリーニング能力があることを確認したと発表した。
同成果は、TMDU スポーツサイエンス機構の室伏広治特命教授、同・柳下和慶教授、獨協医科大学の片桐洋樹講師、早稲田大学 スポーツ科学学術院の金岡恒治教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米オンライン科学誌「PLOS ONE」に掲載された。
トレーニングを実施するにあたって、自分自身の筋骨格系の状態や問題点を把握し、それをフィードバックすることは、トレーニングの効率向上に加え、ケガを防止する上でもとても重要だ。しかし、すべての人がトレーナーや理学療法士といった専門家にいつでも相談できるわけではない。そのため、スポーツや運動を安全・安心に行うためには、その現場において自分の身体を自ら確認できることが必要となる。
そこで室伏特命教授は、自身が現役時代に取り組んできたセルフ・コンディショニングの知見を結集し、特別な道具を使用せずに、簡易的に誰でも筋骨格系の状態をスクリーニングする方法として、KOJI AWARENESSを発案した。なお過去の研究では、KOJI AWARENESS総合得点と、トレーニング中の痛みの間に負の相関関係があることが確認されているとする。
しかし、道具を使用せずに簡易的に評価するKOJI AWARENESSについて、有資格者による道具を用いたスクリーニングテストと検討した妥当性は明らかにできていなかったという。そこで今回の研究では、KOJI AWARENESSの総合点と、道具を用いて第三者が評価する代表的なスクリーニング方法であるFMSの総合点との関連を分析し、KOJI AWARENESSの総合点の基準関連妥当性を明らかにすることを目的とした実験を行うことにしたという。
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実験には健常成人57名(女性29名、男性28名)が参加し、KOJI AWARENESSの総合点(50点満点)と、FMSの総合点(21点満点)との関連を分析し、KOJI AWARENESSのスクリーニング・テストとしての妥当性の検証が行われた。FMS評価では、施行資格を有するNATAアスレティックトレーナーが測定し、KOJI AWARENESSの測定では、前述のトレーナーがモニタリングする中、被験者が自らチェックし採点が実施された。
その結果、KOJI AWARENESSは、FMSとの間で有意に正の相関が示されたという。さらに、性別・年齢・BMI・スポーツのレベルを考慮しても有意な正相関関係にあることが判明。これらの結果から、KOJI AWARENESSがFMSと同等にスクリーニング・テストとして妥当であることが明らかにされた。
KOJI AWARENESSは、スクリーニング・テストとして特別な道具を必要としないことから、スポーツの現場におけるケガを予防する観点からも、安心安全なスポーツ実施に結びつく可能性があるという。昨今は子供の体力低下が懸念されている中、KOJI AWARENESSの11項目から運動機能の問題点を抽出し、個別に運動機能を改善・強化することは、成長期の安心・安全なスポーツ実施に重要な役割を果たす可能性もあるとする。また、子供たちのスポーツ活動においては、強豪校とそうでない学校とで選手のサポート体制に格差も見られる中、KOJI AWARENESSの普及により、そのような格差を埋める可能性があるとした。
それに加え、成人においてもKOJI AWARENESSは有効だという。その1つに、健康診断などで異常なしの診断を受けたとしても、運動器障害に関連する要因は検知されないことがあり、それを確かめるのに使用できるとする。
さらに、高齢者のサルコペニアやロコモティブシンドロームなどの運動器障害に対しても有効な可能性があるという。現在、これらの運動器障害において、身体状態を個別の部位ごとに測定できる方法がまだ確立されていないことから、腰痛や肩こり、違和感といった運動機能の低下を的確かつ簡便に評価できるツールとしてKOJI AWARENESSは有用であり、対象者に運動機能低下の気づきを与える可能性を有しているとする。研究チームは以上のことから、KOJI AWARENESSを活用することは、運動機能の問題を抽出し、将来的な医療・介護費の軽減の一助となる可能性があるとした。