2023年01月17日11時00分 / 提供:マイナビニュース
いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、中野の喫茶店「maro cafe」をご紹介。
○ここでしか食べられない、オリジナルのカルボナーラ
中野駅北口のサンモール商店街を直進し、中野ブロードウェイ入口前の白線通りを右折。最初の角を左に曲がると、昭和感満載のエリアが現れます。まるでタイムスリップしたかのようなそこが、「中野新仲見世商店街」。
今回ご紹介する「maro cafe」は、その角のすぐ右側にたたずむ白いレトロなお店。決して目立つ場所ではないのに、いつもお客さんが入っている印象のある昔ながらの喫茶店です。
外観は白で統一されていて、(おそらくは経年変化したと思われる)アイボリーカラーのドア上部にはガラス窓が埋め込まれています。そんなところも含め、雰囲気はいかにも1970年代ですね。前から気になっていたものの、じつはお邪魔するのは今回が初めてだったんですよ。
店内は意外と広く、入ってすぐ左側には厨房と向き合ったカウンター。右側にもカウンター席があり、奥には4人がけのテーブル席が4卓ほど。伺ったのは開店直後でしたが、すでにカウンターとテーブル席にお客さんが数名。僕のあとにはサラリーマンの二人連れが入ってきたりもして、なかなかの盛況です。
全体的に懐かしい雰囲気なので、70年代の中央線沿線によくあった個人経営の喫茶店を思い出してしまうなー。
ちなみに喫煙OKのようでしたが、しっかり換気されているからか、僕はそれほど気にならなかったかな。
ところで、ちょうどお昼だったのでなにか食べようと思ってメニューを開いたところ、「ランチタイムメニュー」の<スパゲッティ>と書かれたところに気になるものを発見したのでした。なにせ名称が、「カルボナーラ(マロ風)」ですぜ。「(マロ風)って語感がかわいいな」とか、どうでもいいことを思いながらさらに見てみると、
ベーコン、野菜といため卵黄をからめたあっさり味
チーズ、クリームは使っていません
との表記。
なるほど、それがマロ風なのね。つまりはここでしか食べられないわけで、だったらこれにするに決まってるじゃないですか。そこで注文したところ、ママさんから「カルボナーラは普通のと全然違いますけど、いいですか? 」とのひとことが。
もちろん、「はい、大丈夫です」と答えましたさ。なにしろマロ風に期待しているのですから、むしろ普通では困っちゃいます。ちなみに食後にはブレンドコーヒーのホットをお願いしました。
印象的だったのは、店内のBGM。ジェリー・ウォレスの"男の世界"(その昔、「マンダム」のCMソングに使われていたアレ)とかジョン・デンバーの"Take Me Home, Country Roads"(中学生のときとかに歌わされたアレ)、アバの"Take A Chance"、ジョニ・ミッチェルの"Help Me"などなど、70年代のポップスやロックがかかっているのです。おそらく有線放送だと思われますが、お店の雰囲気とぴったりマッチしています。
「この曲が終わったら帰ろう……と思ってたら、次はこの曲が始まっちゃったか。これも好きなんだよなー。じゃあ、もう一曲聴いてからにしよう」ってな感じで、結局は長らく喫茶店に居座っていた高校時代の記憶が蘇ってくるなぁ。
などと感慨に浸っていたら、やがてお待ちかねの「カルボナーラ(マロ風)」が運ばれてきました。
具材はベーコン、マッシュルーム、タマネギ、ピーマンで、てっぺんにパプリカパウダーが少しふりかけられています。なるほどシンプルなソテーであり、一般的なカルボナーラとはまったく違いますね。
さて、いただいてみましょう。からめてあるという卵黄の風味はさほど強くなく、パスタもアルデンテで歯ごたえがちょうどいいですね。だから、素材ひとつひとつの味わいがより引き立っているような印象があります。たしかに一般的なカルボナーラとは違いますけれど、こちらはこちらで充分にアリだわ。
とてもおいしく感じたので、いただきながら「今度は、これを食べるためだけにまたお邪魔してもいいかな」なんて思ったりもしました。
そして食後のブレンドコーヒーも、これまた昔ながらの喫茶店仕様。スッキリとしていて飲みやすく、ほのかな苦味が刺激を与えてくれるのでした。
じつをいうとこの近辺は、前からよく自転車で通りかかっていたんですよ。なのに、いままで入らなかったことをちょっと後悔。それくらい、魅力的なお店だったのでした。
●maro cafe
住所: 東京都中野区中野5-55-9
営業時間: 12:30~23:00
定休日: 月曜
印南敦史 作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちPHP研究所より文庫化)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)、『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)、『音楽の記憶 僕をつくったポップ・ミュージックの話』(自由国民社)、『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)ほか著書多数。最新刊は『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)。 この著者の記事一覧はこちら