2023年01月08日21時00分 / 提供:マイナビニュース
●舞のシーンは「野村萬斎の底力だと思っていただきたい」
嵐の松本潤が主人公・徳川家康を演じる大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の第1回「どうする桶狭間」が8日に放送された。サブタイトル通り、今川軍と織田軍による「桶狭間の戦い」が描かれ、野村萬斎演じる今川義元が討ち死にした。初回にして最期を迎えることになり、萬斎自身も脚本を読んだときに驚いたという。萬斎にインタビューし、率直な心境や渾身の舞のシーンに込めた思いなど話を聞いた。
大河ドラマ第62作となる本作は、江戸幕府を開いた徳川家康の生涯を新たな視点で描く物語。主人公・徳川家康を松本潤が演じ、脚本を古沢良太氏が手がける。
萬斎が演じる今川義元は、公家文化にも精通する教養人、政治家で、仁徳による民のための王道政治を掲げる理想主義者。人質として預かった聡明な家康(松本)に幅広い教養を身につけさせ、家康が父のように心から尊敬する人物だ。
萬斎は、義元について「家康の幕府開設に影響を与えた人物と捉えて演じました。彼に身をもって何かを授ける役だと思っています」と述べ、「キーワードは『王道と説く』。覇道と王道の違いを語るシーンも1話に出てきます。カリスマでもありながら、人格者という面で、尊敬を持たれねばいかんと、厳格な人物として演じることを心がけました」と語った。
第1回「どうする桶狭間」は、家康の10代前半から描かれた。尊敬する義元のもとで人質ながらも楽しい生活を送っていた元康(のちの家康)は、瀬名(有村架純)と出会い、結婚して子供にも恵まれて幸せな日々を過ごしていたが、「桶狭間の戦い」が勃発。元康も重要なミッションを任され、命からがら任務を果たすも、義元が討ち死にしたという知らせが飛び込みパニックに。最後には、力強い表情で馬を走らせる織田信長(岡田准一)も登場し、短いシーンながらも圧倒的な強さを感じさせた。
萬斎は「義元があっという間にいなくなり、私もひっくり返りそうになりました。『これでおしまい!?』って」と笑い、「見終わった人たちも『えっもう死んだ!? もう退場!? 早い!』とおっしゃる気がしています」と視聴者の反応を予想した。
討ち死にするシーンは描かれず、元康らに訃報が届けられるという形で死が明らかに。「今までの大河の今川義元は、(中村)勘三郎さんの死に際がすごかったですが、今回は想像力にお任せするという、みんなが『ウソだろ!?』と信じなかったり、どれだけショックが大きいのかというところで見せていく描き方で、納得しています」
出陣の場面では、義元が舞うシーンが登場。圧巻の存在感を放ったが、「野村萬斎の底力だと思っていただきたい」と、自身にとっても思い入れの強いシーンとなった。
「舞のシーンは、能楽に引き寄せた謡と舞にしました。みんなの士気を高めることでもあるし、我々には神のようなバックボーンがついているんだという、一つの理想郷を感じるシーンになっているといいなと。結局それがどういう影響を与えるかということから逆算して、みんなの士気が上がるような大きさとスケール感を出すことを試みましたし、私ならではの、野村萬斎でないとできないジャンルかなと思います」
●家康に影響を与えた人物として「印象に残るといいなと」
早すぎる死となったが、訃報を聞いたときの元康の混乱ぶりからもわかるように、元康にとって義元がいかに大きな存在なのか、この1回でしっかりと伝わった。
「間違ったことを間違ったままにするのではなく正す」。義元の考えに萬斎は多いに共感したという。
「正しいことは何なのか、我が子にとっては不利であろうともそれを説くというのは共感できる。剣の試合で不正をするなと、相手にとってそれが最大の非礼であることを説くという厳しさも含めて、間違ったことがまかり通っていけば曲がった道になるということを言っているのだろうなと思いますし、人格者としての厳しさがすごくかっこよく書かれていると思いました」
溝端淳平演じる息子・氏真に厳しい態度をとる場面も。萬斎は「父子関係よりも師弟関係に重きがあるのかなと。そうでないと我が子にあそこまで厳しくできないと思います。それだけ自分が目指す道がはっきりしている。国を治める人間としてどうするのか。自分の嫡男である氏真に継がせたい、そしてそれを元康に支えてほしいという思いもあるようですが、残念ながら歴史的にはそうはならなかったようです」と語った。
義元が家康に金色の甲冑を授ける場面も描かれたが、あのシーンが萬斎にとって最初の撮影に。「最初のシーンでいきなり松重(豊)さんや皆さんがいて、余裕もなかったですが、面白いシーンになったかなと。みんなのリアクションがよかったと思います」と振り返る。
そして、「元康を取り囲む人たちが非常に魅力的だなと思いました」と述べ、「家臣の人たちはセリフがあってもなくてもずっと一緒にいる。撮影としては大変だと思いますが、その分、団結力をすごく感じましたし、松本くんをはじめ、みんなで仲良くやっている感じがして、期待が持てるなと感じました」と、家康を支える家臣団の魅力を語った。
さらに、今川義元の早すぎる退場に驚いた視聴者に向けて、「彼の死に様よりも、義元が理想として掲げていた王道と覇道の違いに焦点が当たっていましたが、家康に理念を説くという役回りが今回の今川義元。戦を描く以上に、平和な国家にどう推移していくかに重きがあるのかと思います。期待していただきたい」とメッセージ。「家康が幕府をつくっていくというプロセスにスポットを当てるときに、今川義元のおかげだったんだと印象に残ってもらえるといいなと思います」と期待した。
■野村萬斎
1966年4月5日生まれ、東京都出身。狂言師・野村万作の長男。祖父の故・六世野村万蔵及び父に師事。重要無形文化財総合指定者。東京芸術大学音楽学部卒業。国内外で狂言の普及を目指す一方、現代劇の出演・演出等にも意欲的に取り組む。芸術祭新人賞・優秀賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞、朝日舞台芸術賞、紀伊国屋演劇賞、毎日芸術賞千田是也賞など受賞多数。2021年には観世寿夫記念法政大学能楽賞、松尾芸能賞大賞を受賞した。
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