旬のトピック、最新ニュースのマピオンニュース。地図の確認も。

米テック産業の行く年来る年 - 本物が問われる2023年「Fediverse」「生成AI」「メタバース」の行方は?

2023年01月03日16時45分 / 提供:マイナビニュース

●景気後退期に起こる「破壊」と「創造」
景気の悪化が危ぶまれる2023年。過去を振り返ると、MicrosoftやAppleの創業、GoogleやAmazonの躍進、iPhoneの台頭など、米テック産業では景気後退が歴史的な変化の変わり目になってきました。では、今回の停滞はどのような変化をもたらすのか? 今年の米テック産業を展望します。

浅い後退でとどまるか、それとも大不況入りか。インフレはまだ天井ではないという声がある一方で、警戒すべきはデフレという声もある混乱した2023年。次の米大統領選挙が意識され始める今年後半に米経済は回復し始めるという見方(期待?)が強いものの、それも前半の成り行き次第です。FRB(米連邦準備制度理事会)が舵取りを誤れば一気に暗転してしまいます。

どちらのシナリオに進むかでテック産業の展開も変わります。だから、金融危機が起こる可能性も含めて悪いシナリオへの備えを怠れないのが現状です。

そこで質問です。以下の2つは正しいでしょうか?

景気が悪化すると企業が冒険をしなくなって大型買収は起こらない
研究開発が抑制され、消費者が財布の紐を締める不況時に革新的な製品は出てこない

答えはどちらも誤りです。

景気が悪化するとM&Aの動きは全体的に鈍くなるものの、経済減速期には好況時に上昇した価格水準が一旦リセットされて買いやすくなり、回復期の新たな成長を見すえた効果的な買収がまとまりやすい側面があります。例えば、昨年12月に米バイオ医薬品大手Amgenが希少疾患治療薬を手掛けるHorizon Therapeuticsを278億ドルで買収することで合意しました。

今は資金に余裕がある企業にとって、自分達が本当に必要としている企業を買収するチャンスといえます。でも、今のGAFAMはその例ではありません。Amgenが買収合意を発表した昨年12月のGAFAMのM&A関連のニュースというと、米Microsoftによる米ゲーム大手Activision Blizzardの買収について米連邦取引委員会(FTC)が差し止めを求める訴訟を起こしたというものでした。

巨大ハイテク企業への力の集中をFTCが警戒する中、GAFAMは買収で新市場に参入する拡大戦略を採りづらい状況にあります。大型買収に限らず、FacebookがInstagram買収(2012年)やWhatsApp買収(2014年)を通じて独占的な競争力を強めたことなどからスタートアップの買収についてもFTCは警戒感を強めています。

それはスタートアップやベンチャーにとって大きな出口戦略の喪失です。しかし、巨大ハイテク大手による新興企業の買収には、将来の脅威の可能性の芽を摘みとっている一面があります。FTCによる巨大ハイテク企業の買収への監視の強化は、かつてのSnap(Facebookによる買収を拒否)のように独力で台頭し始めた新興企業を巨大ハイテク大手の影響から護り、市場の代謝を促進する狙いがあります。

昨年、「Midjourney」「DALL・E2」「Stable Diffusion」など、画像、文章、音声、プログラムコード、構造化データなど様々なコンテンツを生成する生成AI(Generative AI)が大きな話題になりました。同分野で最も注目を集めている企業の1つであるOpenAIには、Microsoftが2019年に10億ドルを出資しており、さらに再出資を交渉中であると昨年10月にThe Informationが報じています。設立から7年のスタートアップの価値を200億ドル弱と評価しており、傘下のGithubが「Copilot」(AIを用いたコードのオートコンプリート機能)にOpenAIのCodexを採用しているそうです。

ドットコム・バブル崩壊時には、GoogleやAmazon、eBayといった一握りのWeb企業が景気後退期を生き抜いてその後の大きな成功をつかみました。GAFAMが成長戦略を「買収」から「出資とパートナーシップ」に変化せざるを得なくなったことで、市場にインパクトをもたらせる本物のスタートアップやベンチャーが今の厳しい経済環境を生き残りやすくなっています。

2つめのイノベーションについては、過去を振り返ると、米国がインフレに苦しんだ1970年代中期にMicrosoftやAppleが誕生し、ドットコム・バブル崩壊の焼け野原からGoogleやAmazonが芽吹き、リーマンショック後の不況の中からiPhoneが成長、そして配車サービスのUberや民泊仲介のAribnbといったモバイル時代を切り開く新サービスが成長しました。景気後退期を経て現れた革新の例は枚挙にいとまなく、時にディスラプション(創造的破壊)が起こる変わり目になってきました。

景気が悪い時は低価格競争が起こりやすくなりますが、一方で消費者が必要なものを見極めるようになり、本当に価値のある製品やサービスが受け入れられやすくもあります。京セラの稲森和夫氏は「不況は成長のチャンス」の中で、「不況のときには、忙しさにまぎれて着手できなかった製品や、お客様のニーズを十分に聞けていなかった製品を、積極的に開発しなくてはなりません」と述べています。

では、今どのようなニーズが見いだされようとしているのでしょうか?

●Twitter崩壊に備えて「Fediverse」へ脱出するジャーナリスト
例えば、脱Twitterのソリューションとなる「Fediverse」です。Twitterのデイリーアクティブユーザーは約2億6,000万人。Facebookの19億人に遠く及ばず、米国ではソーシャルツールとしてマイナーな存在です。そんなTwitterがイーロン・マスク氏に買収されたことがなぜこんな大騒動になっているかというと、英語圏のメディア、テクノロジー、金融において価値のある言論を広げるユニークなソーシャルグラフを持っているからです。

メディアを例にすると、ジャーナリストやライター、アナリストが互いにフォローし、自分達が関係している媒体の垣根を超えて発信したり、意見を述べ合うプロフェッショナルのつながり(コミュニティ)が形成されています。ソーシャルメディアとしてTwitterから直接ニュースを得る一般のネットユーザーはそれほど多くはないものの、メディア関係者の間で密度の濃い情報が交換され、文化的影響力が大きい言論が広がる場になっています。そこがTwitterと他のSNSの大きな違いです。

ただ、Twitterはそうした強みを収益につなげることができず、継続して黒字を出すことができないサービスになっており、不安定な経営を脱するために「イーロン・マスク氏による買収」という劇薬を飲み込みました。

マスク氏の舵取りによって事業の黒字化の可能性が高まったものの、Twitterの運営に同氏の意向が強く反映され、TwitterをTwitterたらしめてきた独自性が失われる可能性が出てきました。一般ユーザーの多くにとっては大きな変化ではありませんが、ジャーナリストなどにとってそれはTwitterの崩壊を意味します。だから、ユーザーの活動がサービス運営にコントロールされる中央集権型のSNS(Twitterなど)を脱し、Mastodonなど分散型のソーシャルネットワークへのジャーナリストなどの移動が始まっています。そうした独立性を持った小さなプラットフォームがつながる環境が「Fediverse」です。

ただ、自身でMastodonなどのサーバー(インスタンス)を立ててサービスを運用するのは容易な作業ではありません。知識もコストも必要です。誰かのインスタンスを利用するならそのサーバーのルールがSNSの活動に適用されます。過去に何度かMastodonが話題になった時に大きな動きにならなかったのは、現状では厳しい困難が伴うからです。しかし、今回はTwitterを離れる決心をしてFediverseという新天地に進み始めた人達がいて、分散型のソーシャルネットワークの課題の解決を求める確かなニーズが存在しています。

●AIの創造性を「楽しむ」から「恐れる」に
昨年は画像生成AIが話題になった1年でしたが、OpenAIの「ChatGPT」の進化によって英語圏では「ちょっと待て」な状態になっています。

12月上旬、The Atlanticの編集者が選出するその週のおすすめ記事に高校で英語を12年間教えてきたダニエル・ハーマンさんが書いた「高校英語の終わり」が選ばれました。ChatGPTは高校レベルならエッセイの課題の代筆をこなせる能力を備えています。どんなに検索が便利になっても、教育において「書くこと」だけは盗作をしない限り、自分で考え、構成して表現するしかありませんでした。それが電卓を叩いて計算問題の答えを出すように、オリジナルエッセイの課題を作れてしまう。イラスト生成やコード生成が話題になった時は、それらに関わっている人達を除くと一般的には「そんなにできるんだ」という驚きにとどまっていました。しかし、誰もが学生時代に苦労し、米国では教育で非常に重視されるライティングのAI生成によって多くが危機感を抱き始めています。

AIの創造性に関して2023年には人々の警戒心が膨らみ、例えばAI生成のコンテンツにブロックチェーンの透かしを義務付ける仕組みの提案など、推進派は破壊と構築の観点からアプローチを見直す必要に迫られそうです。ChatGPTと教育の議論では、すでに存在しているのだから正しく受け入れることを考えるべきという声があります。インターネット上の人間によるコンテンツは全てが正しいわけではなく、生成AIが必ずしも正しい情報で文章を書き、適切な表現をするとは限りません。AIの書くことを鵜呑みにしていたら、今日のフェイク情報のような問題が形を変えて起こり得ます。生成AIはしばしば間違った答えを書いてくることを前提に、リサーチやエッセイの課題に生成AIの使用を認め、指定した生成AIが作った文章を検証させる。言い直しではなく、学生に検証者と編集者になる方法を学ばせる……生成AIが私達の暮らしに浸透していく将来に向けて、そうしたスキルを身に付けることが重要になるというわけです。

●「メタバース」の生みの親が考える真のメタバースとは?
「メタバースって何?」という議論は今年も続きそうです。場合によっては、そこからWeb3の要素を包含するWeb 3.0と呼べるような新たなニーズが広がるかもしれません。そこで昨年話題になった2つの記事を紹介します。

1つは、Fast Companyの「マーク・ザッカバーグはすでに彼のメタバースを破滅させたかもしれないが、ニール・スティーヴンスンのビジョンは生き生きとしている」です。

「メタバース」という言葉は、SF作家ニール・スティーヴンスン氏の「スノウ・クラッシュ」に登場するネット上の仮想空間をルーツとしています。そのスティーヴンスン氏にインタビューした内容を伝える記事ですが、その中でスティーヴンスン氏は同氏のビジョンとしてのメタバースはすでに進展しているとしています。原初的な形のメタバースは何十年も前に実現しており、「World of Warcraft」「Red Dead Redemption」「Fortnite」など様々に洗練され、経済を構築しながらその忠実度を高めてきました。ただし、それらはまだ切り離されていて、私たちがデジタルの自分自身や資産をプラットフォーム間で維持する方法がないことが今後の課題だとしています。

今メタバースについて一般的にはVRゴーグルのようなデバイスを使ってアクセスするものというイメージが定着していますが、そうしたデバイスは必ずしも必要ではないと述べています。30年前は人々が3DCGの世界を体験するためにそうしたデバイスと複雑なインターフェイスが必要だと思ったものの、今は逆に「ほとんどの人がそれらを使わずにアクセスする」と考えているそうです。今のVRヘッドセットはエンスージアスト(熱狂的な支持者)の関心を集めても、一般の人達にとってゴーグルをかぶるのは不自然であり、「何十億の人が受け入るのを拒む障壁になるでしょう」と指摘。ゲーム機やスマートフォンのような人々が受け入れられやすい体験にニーズがあるとしています。私達をメタバースに引き込むのは「物理的な没入感」より「ストーリー」であるとも指摘しており、「テレビがクールかどうか議論している人は見かけません。クールな番組があればクールなのです」と述べています。

もう1つの記事は、20年前にWeb 2.0という言葉を広めたティム・オライリー氏が昨年8月に公開した「メタバースは場所ではない」です。メタバースを相互に接続された仮想の場所の集合ではなく、コミュニケーション・メディアと見なすべきだとしています。ネットワーク化されたメディアを横断するある種の共有スペースと共有体験を含み、ビデオ会議システム「mmhmm」の体験などを例に、「(メタバースは)VRで何かをすることに限られないし、メタバースはVRを必要とすらしていません」としています。

さらに、MetaやAppleといったビッグプロバイダーによる勝者総取りの争いの末にバルカン化したメタバースが構築されるのには長い時間がかかると指摘。コミュニケーション・メディアだからこそ相互運用性が重要であり、「壁に囲まれた庭を置き換える試みではなく、インターネットの延長(ネットワークのネットワーク)にある方がはるかに望ましいことです」と述べています。

景気の悪化によって誰もが回復と成長を意識するようになる2023年は、チャンスを多くに広げる分散型(非中心)の議論が広がりそうです。5Gや新世代のWi-Fiの普及も着々と進行しており、インターネットはモバイルWeb以来の変化の時期を迎えているといえます。

ただ、過去を振り返ると、インターネット1.0を支えた理想とは異なり、Web 2.0からモバイルとSNSの時代になって、インターネットは経済力を分散させるのではなくむしろ集中させることが明らかになりました。研究者やWeb推進論者、技術者が分散型を推進しても、一般ユーザーに普及させる段階で快適に使えないなどユーザーの必要性を満たせないことが多く、その過程で中央集権的なサービスが受け入れられてきました。とすると、Fediverse、生成AI、メタバースや空間コンピューティングでも同様の歴史が繰り返される可能性は否めません。

続きを読む ]

このエントリーをはてなブックマークに追加

ネタ・コラムカテゴリのその他の記事

地図を探す

今すぐ地図を見る

地図サービス

コンテンツ

電話帳

マピオンニュース ページ上部へ戻る