2023年01月03日06時00分 / 提供:マイナビニュース
●家康に大きな影響を与える義元役「誇りを持てる」 自身との共通点も
1月8日にスタートする大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)で今川義元役を演じる狂言師の野村萬斎にインタビュー。義元としての役作りや主演の松本潤らとの共演の感想、29年ぶりの大河ドラマ出演の感想などを聞いた。
大河ドラマ第62作となる本作は、江戸幕府を開いた徳川家康の生涯を新たな視点で描く物語。主人公・徳川家康を松本潤が演じ、脚本を古沢良太氏が手がける。
萬斎が演じる今川義元は、公家文化にも精通する教養人、政治家で、仁徳による民のための王道政治を掲げる理想主義者。人質として預かった聡明な家康(松本)に幅広い教養を身につけさせ、家康が父のように心から尊敬する人物だ。
萬斎は「諸説あるようですが」と前置きした上で、本作で古沢氏が描く義元について「家康は義元にとって人質ですが、一緒の生活圏にいて、国家というものをどう考えるのか、のちに家康が幕府を開く際に影響を与えた人物と捉えて演じました。彼に身をもって何かを授ける役だと思っています」と解釈。
「キーワードは『王道と説く』」だと言い、「戦乱の世であり、戦いは避けられないけれども、その後の理想的な国づくりを説く。それが王道を説くということで、覇道と王道の違いを語るシーンも出てきます。カリスマでありながら人格者という面で、厳格な人物として演じることを心がけました」と語った。
そんな義元と自身は、境遇や思いにおいて重なる点が多く、共感を持って演じられたという。
「伝統を保持しながらも未来のためにどうしたらいいのか、理念を持って治める政治に長けていた人物だと思います。私もいろんなことをやっているように見えるかもしれませんが、ある種の理想や確信を持って、古きを守りながら、伝統や歴史にこそ発想の種があると思って、そこから学んで理想の形を作ろうとしているので、重なるものは大変多いと思います」
そして、自身も義元から刺激も受けたようで、「義元が説く王道と覇道は、物語の全編にわたって元康(のちの家康)に大きな影響を与えるという意味では素晴らしい理念だなと思いますし、徳川幕府を開く礎になるのはすごいことだなと、誇りを持てる役だと思って演じました」と語った。
また、役作りとして「ある種の父親代わりという大きさを見せることを心がけました」とも語る。
「大きな目で元康と息子の氏真(溝端淳平)を見ている。氏真に対しては、ある種非情な部分もありつつ、国を治めるという責任を考えるとそういう判断もあるかなと。何を大事にするかという取捨選択において、今と違って個人の尊厳以上に国を大事にする。そのときに、ただ単に自分の腕力で治めるのではなく、信念を持って理想的な国をつくっていくという、武力とは違うカリスマ性を見せないといけないと思いました」
●家康の再評価に期待「楽しみ」 29年ぶり大河で技術の革新に驚きも
主人公・家康役の松本については、「才能がある」という点で家康と重なり、義元として演じやすかったという。
「松本くんの演出家としての才能も含めて、尊敬できる方だと思います。義元自身も、自分の息子・氏真には強く当たりつつ、人質の元康のほうに才能を見出す。彼は才能のある方なので、義元が元康の隠れた才能を信じているという意味では非常にやりやすかったです」
そして、古沢氏が描く家康について、「『どうする家康』というタイトルからもわかるように、いろんな場面に遭遇したときに彼は決断をしないといけないのですが、決断していないような気もする。自分の思いで暴走するというよりも周りに助けられて流れに身を任せている」と述べ、「だからこそ周りが活躍する面白いドラマにもなると思います」と期待。
さらに、「主役だけでなく、いろんな人間像を見ることができる。視聴者が自身を投影できるような役がたくさんあって、その頂点に家康がいる。なので、見やすいと思いますよ」と魅力を伝え、「松本くんは『自分なりの家康像を確立するんだ』と話していました」と松本の思いも紹介した。
萬斎の大河ドラマへの出演は、細川勝元役を演じた第33作『花の乱』(1994年)以来、29年ぶり2回目となる。
「その間にもオファーはいただいたのですが、スケジュールが合わなかったりして。大河ドラマは長期のものですからそれなりの覚悟がないとできない。29年前は20代で、三田佳子さん、先代の市川團十郎さん、萬屋錦之介さん、京マチ子さんという、時代劇を背負ってきた銀幕のスターの胸を借りて、その方たちの演技を真剣に食い入るように見て、どうやったら対抗できるか、緊張感をもって臨んだ覚えがあります」
29年ぶりの現場で、技術の進歩なども実感しているという。「いろんなことが変わっています。前のときは全かつらで、衣装も時代考証そのままでしたが、今の衣装は作品のオリジナリティを出すために工夫がなされることがあったり、かつらも地毛を混ぜて作られています。また、スタジオでもロケさながらの映像が撮れるようになっていたり、技術の革新に驚いています」
最先端の技術を用い、新たな解釈で家康を描く本作。萬斎は「激動の時代から安定した時代になるというのは、今、我々が直面している状況にぴったりかなと気もします」と今の世の中と重ねつつ、「価値観が入り乱れている中で大きなリーダーがいるということ。そういう意味で家康の大きさが再評価されるというのはとてもいいことなのではないでしょうか。なだらかに、でもちゃんと中長期的な視点で考えている。このドラマと並行して家康がどう再評価されるのか楽しみです」と反響に期待した。
■野村萬斎
1966年4月5日生まれ、東京都出身。狂言師・野村万作の長男。祖父の故・六世野村万蔵及び父に師事。重要無形文化財総合指定者。東京芸術大学音楽学部卒業。国内外で狂言の普及を目指す一方、現代劇の出演・演出等にも意欲的に取り組む。芸術祭新人賞・優秀賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞、朝日舞台芸術賞、紀伊国屋演劇賞、毎日芸術賞千田是也賞など受賞多数。2021年には観世寿夫記念法政大学能楽賞、松尾芸能賞大賞を受賞した。
(C)NHK