2022年12月28日11時00分 / 提供:マイナビニュース
●季節と相性が良さそうなアカペラコンテンツ
テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第256回は、24日に放送されたフジテレビ系特番『ハモネプ2022クリスマスSP』(21:20~)をピックアップする。
『青春アカペラ甲子園・全国ハモネプリーグ』は、主に2007年から続くおなじみの特番だが、12月の放送は初めて。しかも24日に「クリスマスSP」という新たな試みだった。12月やクリスマスとアカペラの相性は良さそうなだけに、定番化などの可能性をチェックしてきたい。
○■クリスマスソングメドレーで開幕
6月のエントリー開始から183組もの応募があり、ネット投票に40組、全国1回戦に18組が挑み、勝ち抜いた12組が、この日放送される決戦に挑んだ。
大会形式は、3組×4ブロックの各1組+敗者復活1組の計5組がファイナルステージに進出。お笑い賞レースに照らし合わせると、その大会形式は『女芸人No.1決定戦 THE W』(日本テレビ系)に似ているのかもしれない。
Aブロック1組目は、メドレー専門の岡山「めどれみ」がクリスマスソングメドレーを披露。竹内まりや「すてきなホリデイ」、広瀬香美「ゲレンデがとけるほど恋したい」、松任谷由実「恋人がサンタクロース」、桑田佳祐「白い恋人達」、BoA「メリクリ」、back number「クリスマスソング」と各年代のヒット曲を網羅する構成で、季節性も大衆性もトップバッターにピッタリだった。
歌唱直後、「めどれみ」のメンバーを着席させてトークタイムに突入。ゲストからの絶賛が相次ぐ中、最注目は「全25大会見た」という“ハモネプマニア”の山田裕貴か。愛情たっぷりのコメントだけでなく、プロ目線のような口調で笑いを誘い、さらに次期フジ系ドラマの番宣をするハイブリッドさも見せた。
続いて、「アカペラに詳しい25人が、ハーモニー、ボーカル、アレンジ、テクニック、リズムの各項目100点満点で採点する(計500点満点)」という審査内容を紹介。「めどれみ」はハーモニー77点、ボーカル83点、アレンジ81点、テクニック82点、リズム84点の計407点で、発表後にゴスペラーズ・北山陽一がプロ目線からコメントした。
2組目は、シティポップを好む大阪「シャンディタウン」で、曲は山下達郎「クリスマス・イブ」。ハーモニー85点、ボーカル85点、アレンジ86点、テクニック89点、リズム90点の計435点で、暫定1位の「めどれみ」を上回った。暫定1位と全項目を真横に並べて見せる演出は「どこがどれくらい上回っていたか」が分かりやすく、エンタメ性も高い。
3組目は、史上初“3人ボイパ”の東京「ビート・ビート・ビート」で、曲はAdo「新時代」。ハーモニー79点、ボーカル80点、アレンジ82点、テクニック89点、リズム86点で計416点だった。
クリスマスと今年のヒットがミックスされたAブロックの選曲に、制作サイドの狙いがハッキリ。技術だけでなく、グループのカラーや選曲も選考のポイントだったのではないか。
○■“レベチ”の最年少グループが登場
Bブロック1組目は、大学4年間“尾崎豊ひと筋”の愛知「太陽の破片」で、曲は尾崎豊「卒業」。ハーモニー78点、ボーカル83点、アレンジ83点、テクニック83点、リズム87点の計414点だった。
2組目は、演歌にハマったマレーシア留学生を擁する新潟「すばる」で、曲は石川さゆり「津軽海峡・冬景色」。ハーモニー80点、ボーカル84点、アレンジ87点、テクニック83点、リズム82点の計416点だった。
3組目は、“仏教の東大”龍谷大メンバーで構成されるボイパなしの京都・滋賀「ささめき」で、曲はワム!「Last Christmas」。ハーモニー86点、ボーカル84点、アレンジ86点、テクニック90点、リズム86点の計432点だった。
Bブロックの選曲は、明らかに中高年向け。「それを大学生たちが歌うことで、名曲の魅力が違った形で引き出される」という王道だが視聴者に寄り添うような流れが感じられた。
Cブロック1組目は、バブル時代のパフォーマンスを盛り込む関西「ジュリアナイト」で、曲は荻野目洋子「ダンシング・ヒーロー」。ハーモニー80点、ボーカル85点、アレンジ90点、テクニック86点、リズム84点で計425点だった。
2組目は、5年越しの出場をつかんだ京都・愛知「しっくすなっつ」で、曲はOfficial髭男dism「ミックスナッツ」。ハーモニー79点、ボーカル80点、アレンジ88点、テクニック86点、リズム88点で計421点だった。
3組目は、平均年齢14歳の東京・神奈川「チョコミン党」で、曲はマライア・キャリー「恋人たちのクリスマス」。ハーモニー89点、ボーカル92点、アレンジ91点、テクニック91点、リズム90点で計453点だった。
このグループは「カラオケ大会の最強メンバーで結成された」というが、すでにテレビ出演の豊富なメンバーが多く、誰もが歌唱力の“レベチ”を感じるプロ予備軍。そのパフォーマンスは圧巻だっただけに、アレンジやコーチの存在なども含め、他の大学生たちと比べていいのか……という感もあった。
●優勝チーム見せた歓喜の涙に感動
Dブロック1組目は、メンバーを全国からTwitterでスカウトした「ラボラトリア」で、曲はSaucy Dog「シンデレラボーイ」。ハーモニー82点、ボーカル85点、アレンジ84点、テクニック89点、リズム85点で計425点だった。
2組目は、東大生グループの東京「ジュークボックス」で、曲はOriginal Love「接吻 -kiss-」を英語で披露。ハーモニー87点、ボーカル88点、アレンジ93点、テクニック88点、リズム92点で計448点だった。
3組目は、優勝2回の名門校・立命館大の滋賀「バリバリ」で、曲はAimer「残響散歌」。ハーモニー86点、ボーカル90点、アレンジ92点、テクニック91点、リズム95点で計454点だった。
敗者復活の「ジュークボックス」を加えた5組がファイナルステージへ進出。ここでは審査員25人に加えてスタジオゲストも採点し、5組のパフォーマンス終了後にすべての結果が発表されるという。
1組目のシャンディタウンは、大滝詠一「君は天然色」。2組目のささめきは、MISIA「Everything」。3組目のチョコミン党は、SPEED「White Love」。4組目のバリバリは、広瀬香美「ロマンスの神様」。5組目のジュークボックスは、SMAP「夜空ノムコウ」を披露。ここでの選曲も冬らしい新旧の名曲ぞろいで、ファイナルにふさわしいムードを感じさせた。
それぞれ審査員・ゲストの点数は、シャンディタウン:453点・50点、ささめき:443点・50点、チョコミン党:458点・53点、バリバリ:467点・58点、ジュークボックス:467点・53点で、バリバリの優勝が決定した。
その瞬間、ほとんどのメンバーが涙を流すなど、番組はエンディングらしい感動モードに突入。さらに、バックステージで準優勝のジュークボックスが違う意味の涙を流し、3位のチョコミン党は「銅メダル! イエーイ!」と陽気に振る舞う姿を見せ、最後はバリバリのパフォーマンスを再び映して終了した。
○■立体的な展開でファンサービス
ブロック突破が決まって「夢かも」「人生で一番うれしい」と喜ぶ姿や、敗退が決まって「楽しすぎたから落ちた実感がない」「リベンジしたいな…」と落ち込む姿を筆頭に、舞台裏を映すドキュメントタッチの編集も、この特番の魅力。
彼らがどれだけアカペラに青春を捧げ、猛練習をこなし、だからこそ緊張するが、全力で挑み、結果に明暗が分かれる……そんな人間ドラマが丁寧に描かれ、パフォーマンスに負けないレベルの魅力があるからこそ、この特番は続いているのだろう。
唯一気になったのは、「どちらが勝つのか?」を盛り上げようとして、同じ映像を繰り返す演出。分かりやすくテンポもいいが、真剣勝負ならではの“間”が消えてせっかくの緊迫感を損ねているように見えてしまった。「コンテスト」「決戦」というより「フェスティバル」「祭典」というイメージが残ったのは、狙い通りなのかもしれないが、もったいないようにも見える。
もちろん「フェスティバル」でも「祭典」でもいいし、テレビ放送としてはそのほうが無難かもしれないが、出演者たちの情熱を見ていると、「ガチンコ感が高く、目指す頂が高いほうが、彼らも視聴者も全力で楽しめるのではないか」と感じたのも確かだ。
それでも、YouTubeチャンネル「ハモネプチューブ」の動画、dボタン・スマホで参加できる採点企画、さらに年明けに決勝グループを集めたリアルイベントも開催されるほか、コンピレーションアルバムや「フジメロ」の配信など、立体的な番組展開は素晴らしい。ファンサービスという点も含め、「他番組もこうあってほしい」と思わされる。
ともあれ、初のクリスマス特番は思っていた通り、番組のコンセプトにフィットしていた。クリスマスだけでなく冬の名曲はまだまだ多いだけに、『土曜プレミアム』という枠に縛られすぎず、毎年クリスマスイブで定番化してもいいのではないか。
同じフジの『明石家サンタの史上最大のクリスマスプレゼントショー』は今年も健在だったものの、テレビ局全体では「クリスマス当日の風物詩」と言える特番が少ないだけに、チャンスかもしれない。
○■次の“贔屓”は――終了報道も…新年第1弾は? 『炎の体育会TV 新春SP』
これから放送の番組からピックアップする次回の“贔屓”は、1月7日に放送されるTBS系スポーツバラエティ番組『炎の体育会TV 新春3時間SP』(19:00~)。
2023年3月で約11年半の歴史に幕を下ろすと複数メディアに報じられているが、新年第1弾はどんな内容なのか。チェックしておきたい。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら