2022年12月23日14時30分 / 提供:マイナビニュース
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東京大学(東大)は12月22日、銀河団に属する、成長をやめた(星の成長をやめた)銀河は、銀河団の中心にある巨大楕円銀河の長軸の向きにより集まって分布しており、しかもこの偏った分布は約70億年前までの宇宙において見られる普遍的なものであることを明らかにしたと発表した。
同成果は、東大大学院 理学系研究科 天文学専攻の安藤誠大学院生、同・嶋作一大准教授、同・伊藤慧日本学術振興会特別研究員らの研究チームによるもの。詳細は、英国王立天文学会が刊行する天文学術誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に掲載された。
数百から数千の銀河からなる大規模集団である「銀河団」に着目したこれまでの研究の多くでは、銀河団に属する銀河の性質は等方的、つまり銀河団中心から見てどの方向を調べても銀河の性質は同じであるという仮定の下で行われてきた。ところが近年の研究で、星の新たな形成(銀河の成長)をやめた銀河の分布が、銀河団内の特定の方向に偏っている可能性が指摘されているという。
銀河団の中心には、巨大な楕円銀河(中心銀河)が1つあることが多い。成長をやめた銀河は、その中心銀河の長軸方向(楕円の伸びた方向)に、より高い頻度で存在していることがわかってきた。これは銀河団内に銀河の星形成を止める作用が、中心銀河の長軸とそろった方向では強く、それに垂直な方向では弱く働くためだと解釈されている。
ただし、そのような示唆は現在の宇宙に限られた研究や、少数の銀河団サンプルの観測から得られたものだったとする。つまり、この偏りが宇宙の幅広い年代で普遍的なものなのか、またどの銀河団でも見られる一般的な傾向なのかについては不明だったという。
そこで研究チームは今回、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム)」による大規模観測によって撮像された5000個を超える大量の銀河団を対象に、星の形成をやめた銀河の割合が、中心銀河の向きに対してどのように変化するのかを調べることにしたとする。
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その結果、中心銀河の長軸にそろった方向では、星形成をやめた銀河の割合が高く、それと垂直な方向では低くなっていることが判明。さらに、この偏りがおよそ70億年前までの銀河団において検出されたことから、時代によらず普遍的なものであることも確認された。なお今回検出された偏りは、数パーセント程度の小さなものだという。
また、この偏りがどのようにして生じたのかの考察を実施。一般的に、「重い銀河」や「密な場所にある銀河」には、成長をやめたものが多いことが知られている。そこで、(1)重い銀河が中心銀河の長軸方向により多く存在している、(2)中心銀河の長軸方向では銀河がより密に集まっている、という2点の可能性が考えられた。さらに(3)として、銀河団の外で成長をやめた銀河が、中心銀河の長軸方向に沿った運動で銀河団内部へ移動してきている可能性も考慮された。
そして今回検出された銀河の偏りがさまざまな角度から検証された結果、(1)や(2)では検出された偏りの大きさを説明できないことが明らかにされた。また、銀河団の外では成長をやめた銀河の分布に大きな偏りがなく、(3)の可能性も低いことがわかったとする。
それでは、うまく説明できる説がないのかというと、シミュレーションを用いた先行研究で提案されているという。それは、宇宙のほぼすべての銀河中心に存在すると考えられている大質量ブラックホールが関係している。大質量ブラックホールは、銀河団内のガスを吹き飛ばすほどのエネルギーを放出する。その際、中心銀河の長軸に垂直な方向のガスを集中的に吹き飛ばすため、その方向にある銀河団ガスが銀河に及ぼす風圧は相対的に弱くなる。その結果として、中心銀河の向きに応じて銀河の成長の止まりやすさが変わってくるとするという。今回の研究成果は、基本的にこの仮説と整合するとしている。
また、このことは銀河団における銀河の成長を考える上で、中心銀河の大質量ブラックホールの活動性や、銀河と銀河団ガスとの相互作用がいつの時代も極めて重要であることを示唆していると研究チームでは説明する。
なお、今回の研究により、銀河団内で銀河の成長を止めるメカニズムの新たな一面とその普遍性が明らかにされたこととなるが、その直接的な証拠となるブラックホールの活動性や、銀河団ガスの偏在を検出したわけではなく、それらは今後のX線や電波による観測によって、明らかにされる可能性があるとしているほか、今回検出された、成長をやめた銀河の分布に偏りがあることの原因を追究することで、銀河団における銀河の成長史に迫ることができるともしている。