2022年12月23日11時40分 / 提供:マイナビニュース
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東京大学(東大)は12月22日、1対のヘアピン型DNAが、がんで過剰発現するマイクロRNAを起点にして集合体を形成し、がん細胞が死滅する現象を発見したことを発表した。
同成果は、東大大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻の岡本晃充教授、同・森廣邦彦助教らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する機関学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。
核酸医薬は、作用機序が明確で、特異性や安全性を高められる点が特徴なことから、がんや遺伝性疾患、ウイルス性感染症など、治療が難しい疾患に対して有効な手段として期待されている。また、核酸医薬は化学合成によって容易に製造でき、労力のかかる阻害剤の探索も必要ないことも評価されている。しかし、これまでの核酸医薬は抗がん剤としての効果は小さく、新たな作用機序で働く核酸医薬の開発が求められていたという。
そうした中で注目されているのが、人工核酸だ。人工核酸は、細胞外・細胞内のさまざまな核酸センサーに認識され、自然免疫応答を刺激することが可能である。しかし課題は、がん細胞に対する選択性が低いことだという。全身性の免疫毒性が強いため、人工核酸分子をがん免疫療法に利用することは困難だったとする。そこで研究チームは今回、がん選択的に免疫活性化を実施することにしたという。
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その結果、細胞傷害性を誘導することができるヘアピンDNA集合技術、つまり、さまざまながん細胞で過剰発現している細胞内マイクロRNA-21(miR-21)が引き金となって、設計した「化学合成短鎖ヘアピン核酸対」(oHPs)が、ハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)を引き起こして集合体を作ることが発見された。
がん細胞の中で生じたoHPs集合体産物は、cGAS-STING経路を経由してI型インターフェロンの発現を誘導し、最終的に細胞死へと至らせたという。ヒト子宮頸がん由来細胞(HeLa)、ヒトトリプルネガティブ乳がん由来細胞(MDA-MB-231)、マウス悪性黒色腫(メラノーマ)由来細胞(B16)など、miR-21が過剰発現して、かつSTINGが十分に発現するがん細胞に対してoHPsは有効に作用することが確認された。さらに、B16担持マウスに対してoHPsを局所注射した結果、腫瘍の成長が強く抑制される様子が観察されたとした。
今回見出された短いDNAoHPsによる、miR-21過剰発現条件下での細胞内二本鎖形成は、標的腫瘍退縮に向けた選択的な免疫増幅・増強回路として利用された最初の例だという。既知の核酸医薬とはまったく異なる機序を示す、新分類の核酸医薬候補で、oHPsは、従来の抗がん剤の効き方と異なるため、それらを補完する役割が期待されるとした。
今後は、oHPsの薬剤としての有効性をさまざまながん種で検討して、特定のがんを標的にした効果的な抗がん性核酸医薬の誕生に向けた研究開発が進展することが期待されるとしている。