2022年12月22日17時30分 / 提供:マイナビニュース
●ポーランド最大のクリスマスマーケット・ヴロツワフ
今年も残りわずか。この季節になると、雪の舞うヨーロッパのロマンティックなクリスマスマーケットを思い出す方も多いことでしょう。今年12月初旬、ポーランドの首都ワルシャワと南西部の都市で4つのクリスマス市を回ってきましたのでご報告します。
2022年2月末、誰も予測しなかった未曽有の戦争が始まり、欧州の旅はどうなるかとご心配された方も多いと思います。しかしこの11月終わりから12月初旬、ポーランドを訪ねてみたら、何の問題もなくコロナ以前と変わらず旅を楽しめました。
ポーランド入国時の隔離措置はなく、ワクチン接種証明やPCR検査陰性証明も不要(ただし、2022年12月現在、日本入国時は3回以上のワクチン接種証明が必要)。
新型コロナウイルス感染症への感染が判明した場合も、特段の隔離措置は設けられていません。
ポーランド各都市のクリスマスマーケットは、始まってまだ10数年ですが、他国に比べて、地元の郷土料理やクリスマス向けの燻製品、チーズ、お菓子などグルメが充実している印象でした。
ポーランド南西部の中心都市ヴロツワフは、一度訪れると、何度も足を運びたくなる実に文化が薫る街でした。古くから欧州の交通の要衝として、また交易・商業都市として栄え、現在は20もの大学を抱える学園都市でもあります。
街は旧市街と新市街に分かれており、世界最大のドーム型コンクリート建築を誇るユネスコ世界文化遺産「百周年記念ホール(1931年築)」をはじめ、ポーランドのバチカンとも呼ばれる聖職者の島「オストルフ・トゥムスキ」、ロシア時代のモダニズム建築などの見どころが満載で最低3泊はしたい街です。
ドイツとチェコ国境に近いヴロツワフは外国人も多く住み、インターナショナルな空気に溢れていることもあって、ポーランドの人々にとっては休暇で訪れたい人気の町だそうです。古くから、スラブ系民族やモンゴル、ボヘミア、ハプスブルク帝国領でもあったヴロツワフには、独自のミックスカルチャーと自由な風が漂っているからかもしれません。
そんなヴロツワフのクリスマスマーケットは、旧市街広場で開かれます。13~16世紀にかけて増築された市庁舎をはじめ、中世が漂う建物に囲まれて、約50のブースが並んでいます。確かに広い! 地元の人はもちろん、観光客も多く見かけました。
クリスマスマーケットの定番ドリンクといえば、寒い体を温めてくれる「ホットワイン」。ホットワインをいただきながら、お店をひとつずつ見て回りました。
個人的な感想を言いますと、今回巡ったポーランドの4つのクリスマス市で、ホットワインが一番おいしかったのがこのヴロツワフ。甘さ控えめで、甘いお酒が苦手な人でも最後までいただけるワインです。
●ヴロツワフのクリスマス市
開催場所: 旧市街広場
住所: Stary Rynek, 60-101 Poznań, Poland
*ヴロツワフへはワルシャワから空路で所要約1時間弱
●ポズナンはバンドも出て華やか
ポズナンはワルシャワの西約270kmに位置するポーランド第5番の大商業都市。人口は約50万人。ポーランド建国の地であり、10世紀頃最初の首都がおかれた古都です。
首都ワルシャワを東京とするなら、ポズナンは大阪。歴史的にいうならば、クラクフ(※)が京都ならポズナンは奈良。ポーランドの深く複雑な歴史を知るために、ぜひとも訪れていただきたい場所のひとつです。
○自由広場
歴史ある古都ポズナンのクリスマス市は、2つの広場で開かれていました。1つは通称、自由広場、旧市街のヴォルノシチ広場のもの。
まだ週末前の木曜日というのに、大勢のポズナンっ子たちで大賑わいだったヴォルノシチ広場。舞台もあってバンドの演奏を聞きながら、温かい飲み物を飲んで友人と集う地元の人々を見ていると、1か月の間いわば縁日が開かれていて、気が向いたらワイワイと出かけて楽しむ感覚なのかもしれません。羨ましい限りです。
○ポズナン見本市会場
もうひとつのクリスマス市は、ポズナン見本市会場で。イルミネーションはこちらの方が凝っていました。マーケット入口には、ポズナンのシンボル「2匹のヤギ」が輝いています。
なぜヤギなのか、といいますと、1551年、市庁舎の大時計を取り付けた記念の宴に供されるはずだったヤギ2頭が台所から逃げてしまい、現在の銅像がある場所まで逃げてきたから、という説が有力だそうです。
こちらのクリスマスツリーは観覧車のイルミネーションともに美しく、絵になります。さまざまなお店が並び、こちらも地元民で賑わっていました。若者が多く目立っていました。
ポズナン国際見本市のクリスマスマーケットは、1月以降は「Zimowisko ポッドスパイク」という名に変わり2月14日まで延長されます。
●ポズナンのクリスマス市(2か所)
開催場所: 自由広場(ヴォルノシチ広場)、ポズナン・インターナショナルフェア広場
住所: 自由広場/Wolności Square, Poznań
ポズナン国際見本市会場/Poznań International Fair, ul. Głogowska 14
*ポズナンへはワルシャワから空路で所要約1時間
●映画の街・ウッチは縁日のような出店がズラリ
ウッチ。ポーランドにしては覚えやすい街の名前です(笑)。実は今回旅した中で、もっともユニークで印象に残る街でした。もとは人口数百人の小さな村でしたが、19世紀に紡績工場が次々に建設され、急速に近代的な工場都市へと発展。欧米諸国から多くの資本家や熟練職人が成功を夢見て集まり、「約束の土地」と呼ばれていたそうです。
ウッチには職人たちの娯楽のための映画館が1,000近く建てられていたこともあり、戦後は映画大学が造られました。ポーランド映画界の巨匠アンジェイ・ワイダ監督をはじめ、ロマン・ポランスキー、『蜜蜂と遠雷/2019年』で日本アカデミー賞優秀作品賞を受賞した石川慶ほか、大勢の映画人を排出しています。これらの豊かな映画文化が評価され、2017年にはユネスコ創造都市に選ばれています。
繊維産業が廃れた後、工場跡は一大アミューズメント施設として再開発が進み、博物館や美術館など見どころも多い文化都市として変貌。近年、「オフ(正式名OFF Piotrkowska)」と呼ばれる旧ラミッシュ工場跡地は、アーティストやデザイナーがアトリエを構えワークショップも開かれています。人気レストランや、バー、クラブ、ライブハウスなどが入り、若者のトレンディスポットになっていました。
ウッチのクリスマスマーケットは、この「OFF」からほど近い、目抜き通り「ピオトルコフスカ通り沿い」で開かれます。ブースは、ツリー用のオーナメントから、温かい料理、燻製肉やハム、チーズ、クリスマスには欠かせないジンジャーブレット、ケーキ、手工芸品など。アツアツのクリスマスドリンクをいただきながら、そぞろ歩いてみましょう。
マヌファクトゥーラ内にもクリスマスグッズや料理を売るブースが並び、賑やか。スケートリンクもありました。
●ウッチのクリスマス市
開催場所: ピオトルコフスカ大通り(郵便局前の約100m)
住所: Piotrkowska 134, 90-054 Łódź(郵便局の住所)
*ウッチへはワルシャワから車で所要約2時間半
●最後はワルシャワ、都会的で映えスポットもたくさん
南西部の都市のほか、小さな町も巡りながら辿り着いた最後の街ワルシャワは、やはり大都会でした! ワルシャワのクリスマス市は、旧市街・王宮広場の北西に伸びる城壁沿い「ミエンゼムジュ・ピョトラ・ビエガンスキエゴ通り(Międzymurzu Piotra Biegańskiego)」で開かれます。
ワルシャワのクリスマス市は、比較的シンプルで、こちらも縁日の夜店の印象。道の両側にブースが並び、オーナメント類やアロマキャンドル、クリスマスに欠かせない食品、毛織物の防寒着、珍しいところでは、自然派化粧品なども売られていました。
珍しかったのは、サンタクロースに扮したおじさんと一緒に写真を撮れるスポットがあることでした。
王宮広場のすぐ側に、ショパンのミニピアノコンサートが聞ける「ショパン・ポイント・ワルシャワ(夜19時~、有料)」があるので、クリスマス市の前後に立ち寄って生演奏を楽しんでみませんか。
●ワルシャワのクリスマス市
開催場所: ミエンゼムジュ・ピョトラ・ビエガンスキエゴ通り
住所: Międzymurzu Piotra Biegańskiego, Warszawa
*成田からワルシャワへはポーランド航空直行便で所要約12~15時間、週2便(スケジュールは変更するので出発前に要確認)
*ショパン・ポイント・ワルシャワ
Krakowskie Przedmieście 87/89, 00-309 Warszawa
●ポーランド人はクリスマスをどう祝う?
この国の約9割はローマカトリック教徒です。ほかにロシア正教会、プロテスタントなどが主流です。
ポーランド人は伝統的なクリスマスを迎えるために、12月25日の4週間前から準備を始めます。教会のミサに頻繁に通うようになり、家の掃除、クリスマスツリーの準備などをして、キリスト生誕日に向けて心身を徐々に清めていきます。
「断食」の習慣もあります。クリスマスイブ12月24日までは肉類は食さずに、池で釣った魚、キノコ類、果物、木の実、野菜類を食べます。12月25日以降は、お肉が解禁となり、シカ肉、牛肉、豚肉など食べることができるそうです。
○クリスマス料理
ピェロギ(水餃子)入りボルチシ、キノコスープ、キャベツとキノコのピェロギ、鯉のフライ、鯉のオーブン焼き、鯉のソテー、ニシン、魚類のパテ、ケシの実のお菓子(クティア)、チーズケーキ(セルニク)、ケシの実ケーキ(マコビィェツ)。後述のコンポートを入れて12種類あり、全部食べると翌年は良いことがある、といわれているそうです。
○ドリンク
ドライフルーツのコンポートは、プラム、リンゴ、ナシを燻製にした後、付け込んだ後、いただく。
○クリスマスツリー
ポーランドでは第二次世界大戦後、欧米風クリスマスツリーが飾られるようになりましたが、それ以前は、ポドワジニチカと呼ばれる神様の木を天井から吊り下げていたそう。または白いウエハース(オプワテク)を丸く輪のように切って、紐でつるしていました。パヨンクというカラフルな布飾りもあって農村で使われていたそうです。
高級レストランなどに行くと、シャンデリアに赤松などを添えているところもあり、かつてのツリーの影響なのかもしれないとが感じることがあります。
○オプワテクの交換
24日にミサへ行ったとき、友人などとオプワテクを割って互いに渡し合って、来年が良い年になるよう祈ります。
12月24日……深夜12時にミサへ行き、聖歌を歌います。飲酒は禁止。
12月25日……ピアノのある場所で聖歌を歌い(ある家族の一例)、プレゼントを交換。
ポーランド人は基本的に、クリスマスは家族全員で集まり共に過ごします。地元の人の話で興味深かったのが、誰かが突然訪ねてきた時のために、必ず一人分、余分に料理を用意しておくこと。キリスト生誕を祝い、テーブルの下に藁を敷くことがあるそうで、おもてなしの気持ちを大切にする伝統的な習慣が根付いていることを感じさせられました。
○二度目のポーランド旅で感じたことのまとめ
今回のポーランドは、2019年7月以来2度目の訪問でした。ウクライナ侵攻のための節電のせいか、以前より少し灯りが減っているような気もしましたが、それは当然と言えば当然。そしてこの街に来て、ポーランド人が語る隣国の同胞ウクライナ人への思いに、切実なものを感じました。
ワルシャワ初日の夕食時に、現地観光局の方から「ワルシャワ蜂起博物館を見なければ本当のポーランドは理解できません」と言われ、翌日にさっそく博物館を訪問。そこで第二次世界大戦中に10万人以上のポーランド人、つまり人口の約3分の1がナチスやソ連に虐殺された事実を初めて知りました。アウシュビッツのユダヤ人殺害だけではなかったのです。そして最終日に訪れた「パルミリ・メモリアルミュージアム」。ここでは、第二次世界大戦中の1939年から1941年、広大な森の21か所で約1,700人の知識人が虐殺されて埋められたことも知らされました。
ヨーロッパから遠く離れた日本で平和に暮らす筆者。現在も戦いが続くウクライナの隣国ポーランドで、知らなかった史実と戦争という魔物の残虐さを学べたことは大変実のあるものだったと感じています。
ポーランド国民は20世紀のみならず、長い歴史の中で私たちには計り知れない苦難に満ちた歴史を歩んできました。にも関わらず、たくましく母国のために立ち向かう勇気を持ち、明るく、人をもてなす心を忘れないポーランドの人たち。まだほんの少し、2度の旅でポーランドの歴史の触りをかじっただけですが、縁あって何度か足を運ばせていただいた同国のことを、少しずつ、実際に旅しながらもっと深く学んでいけたらと思えた旅でした。
取材協力: ポーランド政府観光局