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近未来テクノロジー見聞録 第267回 個々のがん細胞まで識別できる顕微鏡技術「NB-PAM」とは?

2022年12月22日17時30分 / 提供:マイナビニュース

2022年12月1日、カリフォルニア工科大学は、脳内血流の変化の画像化・がん組織の検出・個々のがん細胞の識別が可能なPAM(光音響顕微鏡)技術を開発したというプレスリリースを発表した。では、この新技術は、どのような点がすごいのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。
針状ビーム光音響顕微鏡(NB-PAM)のすごさとは?

カリフォルニア工科大学のLihong Wang教授らの研究チームは、脳内血流の変化の画像化・がん組織の検出・個々のがん細胞の識別が可能なPAM技術の開発を発表した。この技術は、"Needle-shaped beam photoacoustic microscopy"といい、略称は「NB-PAM」。日本語に直訳すると、針状ビーム光音響顕微鏡となるだろうか。

では、このNB-PAMとはどのような技術なのか。ではその前に、PAMについておさらいしたい。PAM(光音響顕微鏡)での観察では、まず光源から光を周期的に明滅して、試料に照射する。すると、光エネルギーを吸収した試料の分子は熱を放出する。そして、その熱による体積膨張によって発生する音響波を受けて、組織を画像化するのだ。PAMは主に、生体組織や材料など内部構造の観察に用いられる。

そしてNB-PAMは、回折光学素子(DOE)を使う点が特徴だ。DOEは小さなガラス板のようなものだが、表面に正確なパターンが刻まれた溶融石英だ。このDOEに刻まれたパターンは光ビームを長くて狭い形状に変更するため、より広範囲の深度にある対象物を鮮明に画像化することが可能なのだ。

この新技術は、どのような点がすごいのだろうか。以下の定性的な理解に役立つ概要図をご覧いただきたい。従来のPAM(Traditional PAM)では、レーザの焦点に近いオブジェクトのみが鮮明に画像化される。一方のNB-PAMはビームが長くて狭いため、より広範な深度にある対象物を鮮明に画像化することが可能だ。これにより、1つの皮膚細胞の長さ程度(約30μm)にまで焦点を合わせることができるという。

なお、同じ研究成果は2022年12月1日に国際学術誌「Nature Photonics」にオンライン掲載されている。

いかがだっただろうか。研究チームによると、このNB-PAMは、がん細胞を完全に除去し、正常な細胞を最大限に保存することを可能にするという。がんの摘出手術において、部分切除によって正常な細胞を切り取らずに済むのだ。とても素晴らしい技術だ。

齊田興哉 さいだともや 2004年東北大学大学院工学研究科を修了、工学博士。同年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に入社し、2機の人工衛星プロジェクトチームに配属。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。 現在は、コンサルティングと情報発信に注力。書籍に「宇宙ビジネス第三の波」、「図解入門業界研究 最新宇宙ビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本」など。テレビ、新聞、Webサイト、セミナー・講演も多数。 この著者の記事一覧はこちら

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