2022年12月21日11時00分 / 提供:マイナビニュース
●「1秒のムダもない」洗練された構成
テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第255回は、18日に放送されたABCテレビ・テレビ朝日系バラエティ特番『M-1グランプリ2022』(18:34~)をピックアップする。
第18代王者を決める戦いに挑んだのは、真空ジェシカ、ダイヤモンド、ヨネダ2000、男性ブランコ、さや香、ウエストランド、キュウ、カベポスター、ロングコートダディに敗者復活枠を合わせた10組。
最終話を迎える『鎌倉殿の13人』(NHK)、大型報道特番『報道の日2022』(TBS系)、映像集特番『ワールドドキドキビデオ!』(日本テレビ系)、音楽バラエティ特番『これが定番!世代別ベストソング ミュージックジェネレーション』(フジテレビ系)と各ジャンルの番組がそろう中、どれだけの視聴率と話題を得られたのか。
○■東京オリンピック風のオープニング
オープニングは、東京オリンピック開会式を彷彿させる幻想的なドローン演出のあと、昨年王者・錦鯉が登場。「自宅からの生中継?」と思わせておきつつ、四方の壁が倒れてテレビ朝日のロビーであることを明かし、トロフィー返還のために会場へ向かう様子が映された。
続いて審査員の紹介が始まり、ここで19時をまたいで「いよいよ始まる…」というムードが高まる。ただ、Twitterなどを見る限り、その構成を知っていて、「18時からBSプレミアムで『鎌倉殿の13人』最終回を見て、19時から『M-1グランプリ2022』を見る」という人も少なくなかったようだ。
ともあれ、新審査員の山田邦子と松本人志の「だいたいね、あなたが私のことを『しんどい先輩』とか言うから」「それは『水曜日のダウンタウン』が……」というやり取りは、この日最初の大笑いであり、期待感をグッと高めた。
続いて、「発表」即「移動」即「漫才」という敗者復活の仕組みをコンパクトに紹介。寒い会場とライブでつなぎ、笑神籤(えみくじ)に入れる流れも含め、その構成は「1秒のムダもないのではないか」と思わせられるほど洗練されている。
CMをはさんで笑神籤で1組目に選ばれたのは「草食系ロジカル」カベポスターで、山田邦子:84点、博多大吉:94点、ナイツ・塙宣之:92点、サンドウィッチマン・富澤たけし:93点、立川志らく:89点、中川家・礼二:92点、ダウンタウン・松本人志:90点で計634点。トップバッターだからか、松本、礼二、志らく、富澤、塙、大吉、邦子と席順で全員がコメントした。
2組目は「アンコントロール」真空ジェシカで、邦子:95点、大吉:92点、塙:92点、富澤:92点、志らく:94点、礼二:94点、松本:88点で計647点。邦子、礼二、志らく、富澤、塙、大吉、松本の順で、またも全員がコメントした。
3組目は敗者復活組でオズワルドが選ばれ、邦子:87点、大吉:93点、塙:90点、富澤:90点、志らく:95点、礼二:92点、松本:92点で計639点。松本、志らく、富澤、塙、大吉、邦子、礼二の順で、やはり全員がコメントした。
○■錦鯉・長谷川は打ってつけの存在
4組目は「ゆるハイブリッド」ロングコートダディで、邦子:94点、大吉:92点、塙:94点、富澤:96点、志らく:96点、礼二:95点、松本:93点で計660点。松本、邦子、礼二、志らく、富澤、塙、大吉の順で全員がコメントした。
5組目は「熱血リベンジ」さや香で、邦子:92点、大吉:96点、塙:95点、富澤:97点、志らく:95点、礼二:97点、松本:95点で計667点。礼二、富澤、松本、邦子、大吉、志らく、塙の順で全員がコメントした。
ここで前回王者・錦鯉、笑神籤を引く那須川天心のコメントがはさまれる。「緊張と緩和」の緩和を担うという意味で長谷川雅紀の存在は大きかったのではないか。一方、天心のコメントは「今年の顔」であるとともに貴重な視聴者目線なのだろう。
6組目は「あぶない地味男」男性ブランコで、邦子:86点、大吉:91点、塙:92点、富澤:95点、志らく:94点、礼二:96点、松本:96点で計650点。松本、礼二、志らく、邦子、大吉、塙、富澤の順で全員がコメントした。
7組目は「クレイジーな輝き」ダイヤモンドで、邦子:86点、大吉:90点、塙:88点、富澤:88点、志らく:88点、礼二:89点、松本:87点で計616点。大吉、塙、富澤、礼二、松本の順でコメントし、志らくと邦子はなし。ここで初めて全員ではなくなったが、松本のコメントできっちりオチたからか、最下位の点だったからか、時間の問題なのか。
CMをはさんで、以降は最終決戦進出者が決まることもあって、ここまでの印象を松本、邦子、錦鯉に尋ねた。熱心なファンはもっと長いコメントを審査員全員に聞きたいかもしれないが、今後の審査基準に関与しかねないだけに難しいところだ。
8組目は「なかよし奇想天外」ヨネダ2000で、邦子:91点、大吉:91点、塙:96点、富澤:91点、志らく:97点、礼二:90点、松本:91点で計647点。志らく、松本、邦子、礼二、大吉、富澤、塙の順で全員がコメントした。ここで、さや香の最終決戦進出が決定。
9組目は「ノーリアル」キュウで、邦子:87点、大吉:90点、塙:88点、富澤:90点、志らく:89点、礼二:90点、松本:86点で計620点。松本、大吉、礼二、邦子、志らく、富澤、塙の順で全員がコメントした。ここでロングコートダディの最終決戦進出が決定。
10組目は「小市民怒涛の叫び」ウエストランドで、邦子:91点、大吉:93点、塙:93点、富澤:94点、志らく:98点、礼二:96点、松本:94点で計659点。松本、志らく、邦子、塙、大吉、礼二、富澤の順で全員がコメントし、ウエストランドは最終決戦進出が決定した。
●お約束の「CMのあとで」の直後に見事な仕事
放送時間残り30分あまりとなったところで最終決戦がスタート。ウエストランド、ロングコートダディ、さや香の順でネタを披露したが、毒舌、コント系、正統派しゃべくりと、見事なまでに色分けされただけに審査の難しさが伝わってきた。
CMをはさんで錦鯉、那須川天心、松本、礼二、志らく、富澤、塙、大吉、邦子の順でコメントを聞き、審査員がファイナルジャッジのボタンを押したところで、「今年もCMのあとです!」のお約束発動。しかし、「またか……」と落胆することなかれ。次の映像に驚かされた。
まず流れてきたのは、3組の初出場と今回をオーバーラップさせた映像。続いて、出場各組がせり上がりから登場するシーンをまとめた映像が流れ、『M-1グランプリ』に懸ける芸人たちの思いがひしひしと伝わってきた。続く空気階段による高須クリニック風の「日清どん兵衛」CMも含め、見事な仕事であり、「ディテールまですべて楽しませてナンボ」という意地を感じさせられる。
結局、大吉が入れたさや香以外は全員がウエストランドを挙げ、ファーストラウンド3位からの逆転で第18代王者に輝いた。
ウエストランド2人がひと言ずつ喜びを語ったあと、松本が「こんな窮屈な時代なんですけど、キャラクターとテクニックさえあればこんな毒舌漫才もまだまだ受け入れられるという夢を感じましたよね。素晴らしかったです」と称賛のコメント。ところが、その後は礼二、邦子、志らく、富澤が急いでひと言コメントしたのにとどまり、塙と大吉にその機会は与えられなかった。
ネット上の声を見る限り、エンディングで視聴者が最も求めているのは審査員たちの声。それだけに事情はあるのかもしれないが、結果発表前の取って付けたようなコメントをカットしてでもこちらを手厚くしたほうが支持は集まるのではないか。
ウエストランド・井口浩之の「自分の人生なんですけど、初めて主役になれた気がしました」というラストコメントが感動を誘いつつ、CMをはさまず次番組の『くりぃむナンタラ』がスタート。「次の審査員は俺だ-1GP2022」が始まり、お笑いフリークがそのまま楽しめるの巧みな編成が今年も見られた。
ちなみに、昨年の「次の審査員は俺だ-1GP2021」トップバッターは今年M-1王者になったウエストランド。『M-1グランプリ』を準々決勝までで敗退していなければ、この番組には出づらいのだが、その意味で今年トップバッターだったインディアンスは来年の王者になれるのか。ちょっと見物かもしれない。
○■今年も「最強番組」であることを立証
今回はTwitterのトレンドランキングを横目に番組を見ていたのだが、その9割型は『M-1グランプリ2022』関連ワードで占められていた。やはり生放送のガチンコバトルは“最強のリアルタイム視聴コンテンツ”であり、今年も「『M-1グランプリ』が現在のナンバーワン番組」であることを立証。もともと漫才は見続けてもらう上でのハードルが高く、専門番組がほとんどないことを踏まえると、ブランディングと演出の勝利と言っていいだろう。
「さや香優勝」がトレンド上位にランクインするなど、彼らが視聴者の評価が最も高かった感があり、今年も審査の是非を問う声は少なくなかった。そんな「審査員が審査されている」という厳しさが他の賞レース以上に高いからこそ、無用な批判を避ける上で「基本的にコメントは全員に聞く」というスタンスが採られていたのではないか。
唯一、最下位・ダイヤモンドへのコメントが7人中5人にとどまったのは、敗者にムチ打ついじめのような図式を避けるためか。それとも、苦言を呈さざるを得ない審査員をフォローするためか。どちらにしても制作サイドの配慮が感じられた。
生放送番組だけに気になる視聴率は、関東が個人12.1%・世帯17.9%、関西が個人21.6%・世帯30.1%(ビデオリサーチ調べ)。ちなみに昨年は、関東が個人12.6%・世帯18.5%、関西が個人20.1%・世帯28.8%だから、「盛り上がりをキープできている」と言ってよさそうだ。
ちなみに、最大のライバルだった『鎌倉殿の13人』最終回は、個人8.9%・世帯14.8%。こちらの脚本・演出も素晴らしく、『M-1グランプリ2022』を相手に健闘したように見える。ただ、同作は序盤からトレンドランキング世界1位とり続けてきたが、さすがに今回はパワーワードを次々に繰り出す『M-1グランプリ2022』に及ばず、こちらのすごさが際立つ形となった。
テレビ業界に求められているのは、お笑い以外の“ガチンコ賞レース”をどれだけ作り、盛り上がりを生み出せるのか。料理、歌、ダンスなどで、そんな試みが見られるが、『M-1グランプリ』に続くブランドにするためにはまだまだ試行錯誤が必要だろう。
○■次の“贔屓”は……初のクリスマス大会で魅力が倍増?『ハモネプ クリスマスSP』
今週後半放送の番組からピックアップする次回の“贔屓”は、24日に放送されるフジテレビ系特番『ハモネプ2022クリスマスSP』(21:15~)。
『青春アカペラ甲子園・全国ハモネプリーグ』は、主に2007年から続くおなじみのコンテンツだが、12月の放送は初めて。しかも24日に「クリスマスSP」という新たな試みが行われる。今回は183組から勝ち上がった12組の学生チームが「今年の話題曲&冬の名曲で日本一をかけて対決する」という。
12月やクリスマスとアカペラは相性がよさそうなだけに、定番化などの可能性をチェックしてきたい。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら