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衛星画像を情報に変え地図で表現。さくらインターネットのセミナーで学ぼう

2022年12月20日12時20分 / 提供:マイナビニュース

●衛星データの活用を実践的に学ぶセミナーが開催
2022年12月、さくらインターネットは日本発の衛星データプラットフォーム「Tellus」とGISソフト「QGIS」を用いた衛星画像の解析セミナーを開催した。宇宙から来たデータを活用したビジネスの創出が注目される中で、実践的に衛星データの解析を学べる無料セミナーとあって、1回20名、2回の枠は告知の当日に埋まったという。光学衛星からSARまで幅広くリアルな衛星画像を取り扱う「Tellusの衛星データを使ったQGIS解析ハンズオン~衛星データの基礎から解析のイロハを学ぼう~」の模様をお届けする。

使ってみたいものの手が出にくかった、これまでの衛星データ事情

リモートセンシングとは、離れた場所から電波や光を使って対象物の状態を調査する手法。衛星に限らずドローンや航空機による地表の調査もリモートセンシングの一種だ。衛星であれば宇宙から広域を一度に調査でき、人の搭乗や操作が不要で、災害や悪天候などの危険な場所、陸地から遠い海上でも安全に観測できるといったメリットがある。1月のトンガの海底火山噴火では、気象衛星ひまわり8号が高度約3万6000kmの静止軌道にいたからこそ、成層圏まで達する巨大な噴煙をほぼリアルタイムに観測できたことは記憶に新しい。

ただし衛星データはまだまだ総量が不足している上に、扱うことができる人も限られている。地球観測衛星のデータはアメリカの「ランドサット」以来50年の蓄積があるものの、これまでは各国の宇宙機関を通じて政府系のユーザーや研究者に配布されるものだった。またその用途は研究開発が中心で、扱えるコンピューティング環境を用意するのも大変だった。

米国では2010年代に入ってようやく、分解能30cmという超高解像度の商用衛星画像が入手可能になり、2015年以降は超小型衛星のコンステレーションによる地球観測網のおかげで量的にも充実してきた。ただし、商用画像は安くはない。高解像度のものでは1シーン数万円から10万円を超えるものも多く、ビジネスで扱いたいと思っても気軽には手が出しにくかった。

そんな中、各国で衛星データプラットフォームが次々と整備される。USGSのEarth Explorer、欧州のSentinel Hub、そして日本のTellusなどだ。これまでバラバラに存在していた衛星データがプラットフォームに統合され、日付やセンサの種類で検索して画像を入手できるようになった。この分野のトップランナーといえるSentinel Hubは、なんと2014年に打ち上げたSAR衛星の画像を無償で公開している。レーダーで昼夜を問わず観測できるSAR衛星の画像は、元はといえば軍事技術だ。それが定期的に、無料で、世界中から利用できる。

Sentinel Hubの運用元である欧州は衛星データの配布を始めたものの、当初のユーザーは専門家に限られ、ビジネスへの活用はなかなか進まなかったという。そこで2017年から始まったのがRUS(Research and User Support)という教育事業だ。SAR衛星のSentinel-1、光学衛星のSentinel-2を中心に、データを無償で公開するだけでなく無償・オープンソフトの衛星画像解析ツール「SNAP」、重い衛星画像を扱いやすくする仮想マシン環境などを整備した。それに加えて定期的にオンラインセミナーも開催し、実践的に衛星画像を解析する手法を教えた。

RUSの新規受講者登録は2021年末で終了しているが、オンラインセミナーのテキストと映像は広く公開されていて現在でも学ぶことができる。SAR衛星を使った浸水被害の抽出や、光学画像を使った農作物の分類など、よく練られたテキストとやってみたいと思わせる実例とあいまって、衛星画像に関心を持つ人が専門家に背中を押してもらえるような感覚で独習できる。

ただしRUSの教材には、英語の壁がある。慣れない衛星画像処理の用語を英語で学ぶのはよほど情熱がないとハードルが高い上に、仮想マシンの環境は現在は使用できないため、相当重いデータであってもユーザー自身がローカルの環境で扱わなくてはならない。「日本でも同じようなものがあれば……」というところでタイムリーに始まったのが、さくらインターネット主催の「Tellus ハンズオンセミナー」だった。

●さまざまな衛星のデータから「植生指数」を地図に反映する方法とは
衛星/センサ/データの違い

第1回のハンズオンセミナーは、午前11時から午後4時30分まで、たっぷり時間を使って開催された。前半はさくらインターネット事業開発本部 クロスデータ事業部の菅谷智洋さんによる「Tellus(テルース)の概要」。Tellusで取り扱っている衛星センサの種類や、処理した目的別のデータの種類、解析ツールなどについての紹介から、太陽光の反射で地上を観測する光学衛星(受動型センサ)と、マイクロ波で観測するSAR衛星(能動型センサ)の違いなどの紹介があった。

ここで注意したいのが、衛星・センサ・目的別データの使い分けだ。参考図はTellusで取り扱っているデータの一覧で、上段の「光学データ」の項目では左から4番目以降の「ASNARO-1」「GRUS」「CE-SAT-IIB」「Maxar衛星」が衛星の名称となる。左端の「AVNIR-2」「SHIROP」「HISUI」はセンサの名称で、残る「ALOS-3相当データ」はこれから打ち上げられるJAXAの「だいち3号」を模擬したデータだ。

下段の「SARデータ」の中央に「PALSAR」というセンサ名が表示されている。実は、上段の「AVNIR-2」と「PALSAR」はどちらもJAXAの地球観測衛星「だいち(ALOS)」に搭載されていたもの。ある衛星が複数の観測機器(センサ)を搭載していることは珍しくない。Tellusに限らず衛星データプラットフォームではメニューがセンサ名を元に分類されていることが多く、「これは何の衛星のデータなのか?」と悩んでしまうことが実は多く、慣れれば「PALSARは『だいち』のSARセンサ」「AVNIR-2も『だいち』搭載でこちらは光学センサ」「AW3D30は、『だいち』の観測画像を元に作られたデジタル3D地図データ」と区別できるようになるが、「衛星のタイプには光学とSARがあり……」というように衛星名を手がかりに覚えてしまうと、センサ名での表示に戸惑いやすい。
実践こそ最高の教育。衛星画像を情報に変えてみよう

衛星名とセンサ名の使い分けは覚えるしかないところだが、対応表を作って暗記するのではまるで受験勉強になってしまい、「これから衛星画像を使いこなそう」というユーザーの意欲をそいでしまう。自然に覚えるには、実例を元に実践していくことが大切だ。

Tellusセミナーの後半では、実際の衛星画像とオープンソースの地理空間情報ソフト「QGIS」を使って、いくつかの衛星データ解析を実際にやってみることができる。講師はMIERUNEのGISエンジニア、久納敏矢さんだ。

地理空間情報ソフトとは、地図をベースにデータを重ね合わせて視覚化、分析するためのソフトウェアだ。同様のソフトには無償の「Google Earth」、高性能な専用ソフト「Arc GIS」などがあるが、Google Earthは機能が限られ、Arc GISはライセンス料が高額という制約がある。QGISは多機能ながら無償のオープンソースソフトとして公開されており、日本では農林水産省などの官公庁やJAXAなどの研究機関、また自治体などでも利用されている。

セミナーでは、Tellusのプラットフォーム上でQGISを利用してデータの解析を行う。GISソフトと呼ぶと馴染みにくいが、ベースとなる画像(地図)の上に、レイヤーを作ってデータを重ね合わせていくのが操作の基本で、操作感はPhotoshopなどの画像処理ソフトを使用したことがあるとイメージしやすい。GISデータは位置情報(緯度経度)という手がかりを持っていて、レイヤーを作って衛星画像を読み込むと地図とぴったり重なる。知っている場所の衛星画像を表示すると、地図という情報と衛星画像というある日時のスナップショットが一致するというちょっとした感動を味わえる。

まずは、Tellusの衛星画像販売メニュー「Tellus Traveler」で配布されているサンプル画像をQGISに読み込んで解析を始める。Tellusは、QGISのプラグインとしてTravelerなどの各機能を実行できる連携機能を持っている。つまり、QGISから必要な画像を検索し読み込んですぐに使えるのだ。たとえば、衛星画像と行政区域データを読み込んで地図上で重ねれば、エリア別の分析を行うことができる。

最初の実習は、地球観測衛星「だいち」の光学センサ「AVNIR-2」の波長別データを使って「植生指数」というインデックスを作る実習だ。植生指数とは、観測データに含まれる赤から近赤外の波長の値を計算して、地表の植物の状態(地表が植物にどの程度覆われているか、植物はどの程度育っているか)を数値化したもの。「正規化植生指数(NDVI)」という指標がよく使われ、農業や土地被覆(地表の状態の分類)の把握などの基本となっている。

QGIS上で衛星画像は「ラスター」形式という画像データの一種として扱われる。このデータには波長ごと(バンド別)の光の強さの情報が含まれ、これを「ラスター計算機」機能を使って計算する。NDVIは「近赤外-赤」の値を「近赤外+赤」の値で割ったものとして表される。ラスター計算機は、波長別の値をひとつひとつ取り出さなくてもバンド別の番号を入力すればよく、計算式とバンド番号さえわかっていればよいので扱いやすい。

計算結果は、QGIS上で新たな「NDVIレイヤー」として表示される。マップをわかりやすくするため、表示色を調整してみよう。植物の活性度が高い(よく茂っている)ところは緑に、植物のないむき出しの地面や人工物、水面などは赤く表示するようにレイヤーのプロパティから表示色を調整する。すると衛星画像が、植物活性度マップという意味を持った情報に変わる。この手法で時系列的な変化を見れば、ある場所で「植物が育った/枯れた」または「植物で覆われた/なくなった」という状況を知ることができる。農地に応用すれば作物がよく育ったのか生育不良なのかを把握できる。

●4時間以上にわたる充実した衛星データセミナー
災害時に活躍。浸水被害エリアを発見する

セミナー後半では、QGISの機能を使って台風による豪雨災害の発生前と発生後のSAR画像を重ね合わせ、低い土地で浸水が起きた場所を発見するという実践的な実習が行われた。この実習では、地球観測衛星「だいち2号」のデータを使い、2019年に発生した台風19号の発生前、発生後の画像を比較する。

SAR衛星は、マイクロ波を発して地表で反射して帰ってきた電波を受信し、画像化する。水面では電波が衛星と反対方向に反射してしまいアンテナに戻ってこなくなるため、画像化すると暗い(電波の強度が低い)部分ができる。大雨後に、川や湖などもともと水面だった場所以外が暗く映っていれば、そこは浸水して新たに水面ができた場所だと推定できる。これがSARによる浸水域推定の原理だ。

さらにこれを応用した「RGBカラー合成」という手法がある。災害前の画像(A)を赤色に、災害後の画像(B)を青と緑に色付けして重ね合わせると、Bの画像の浸水して暗くなったエリアは表示されない(画像に青や緑の成分が少ない)ため、赤く示される。こうして2つの画像から浸水域を強調して地図に表示するというものだ。

QGISでは、ラスターの機能を使って2つの画像を重ねた「仮想ラスター」を作成。浸水前と浸水後の画像の表示色をそれぞれ赤・青・緑に設定する。実習では、長野市内にある新幹線車両基地の災害前後画像のRGB画像を合成し、エリアの一部に浸水したと推定される場所があることを確認した。浸水域の推定はSARの応用として広く使われており、これに標高データを追加すると浸水した深さも推定できる。災害時の保険金の迅速な支払いにつながるなど、社会の中で活躍している手法だ。

1月以降もセミナー追加開催決定

このほか、Tellus上で配布されている公式ツールを使った街の変化や駐車場の候補地の抽出などの実習も行い、正味4時間半のセミナーは充実した内容の濃いものだった。さくらインターネットが用意する仮想環境で解析を行うため、重い衛星画像をダウンロードする時間といった初心者に厳しい手間がかからず、安心して実習の内容に入っていける。衛星データのライセンスの都合上、Tellus環境からデータを外部に書き出すといったことはできないが、2023年以降も希望者には有償で実習環境を継続して提供することを検討しているという。

あっという間に枠が埋まった人気のセミナーは、1月以降に追加回の開催も決定している。衛星データの活用をしてみたい、データを使って実践的に学んでみたいという人は、宙畑の告知をチェックして次回の開催を待とう。

秋山文野 あきやまあやの フリーランスライター/翻訳者(宇宙開発) 1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経て宇宙開発中心のフリーランスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。 この著者の記事一覧はこちら

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