2022年12月20日07時05分 / 提供:マイナビニュース
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2022年12月14~16日に東京ビッグサイトで「未来を変える。未来が変わる」を統一テーマに開催された「SEMICON Japan 2022」。その開会式には岸田文雄首相が出席し、「半導体はデジタル化、脱炭素、経済安全保障の確保を支えるキーテクノロジーである。持続可能な経済社会の実現を目指す、新しい資本主義を支える最重要物資である。社会を支える半導体について攻めの国内投資拡大を支援して、経済の強靭化を進める。半導体の国内投資を全国に展開し、次世代半導体の開発を進める。先日成立した補正予算では1.3兆円を措置。これにより、半導体投資を全国に展開するとともに、次世代半導体開発を進める。半導体のサプライチェーンを一国だけでまかなうことは難しいので、国が支援する開発プロジェクトにおいてもグローバルな連携を強化する。AIや量子といった高度な計算システムや、自動走行、次世代ロボットなど、今後グローバルに大きく進化していくデジタル経済を支える最先端の半導体を日本からも供給していきたいと思っている」と述べた。
日本の首相がSEMICONで出席し、あいさつを行ったというのはSEMICON Japanが開催されてきた46年の歴史で初めてのことである。なお、昨年は、ビデオメッセージを寄せている。
日本で先端ロジック製造を実現する意義を甘利氏が説明
これに引き続いて開催された、オープニングキーノートパネル討論では、自民党半導体推進議員連盟会長(衆議院議員)の甘利明氏、Rapidus取締役会長の東哲郎氏、理化学研究所 理事長(元東大総長)の五神真氏、IBM R&D担当シニアバイスプレジデントのDarío Gil氏、Rapidus代表取締役社長の小池淳義氏の5人がパネリストとして登壇し、日本の半導体復権に向けた施策や国際連携などについて議論した。
半導体戦略を推進する立場にある甘利氏は、「21世紀は半導体があらゆる分野に広がるわけだが、日本に一番欠けているのが先端ロジックの製造拠点がないということである。ハイエンドの生産拠点が核となって周辺産業が育つわけだが、なければ他国の拠点に吸い取られてしまう。私が危機に感じているのはこの点である」と、日本の現在の課題を指摘。「かつての失敗は、日の丸半導体を自前でやろうとしたことだ。日本だけで自前で行おうとしていた過去の半導体戦略は失敗だった。これからは、互いの強みを出し合い、連携していくことが重要だ。今後は技術を持っているところが協力して相互補完していくことが大切だ。ただし、価値観を共有できる日米欧の同盟国や同志国・地域がそれぞれの強みを生かして連携することが必要になる」と、過去の日本の半導体政策の反省点と、同じ失敗を避けるためには国際連携が重要であることを強調した。
また、「なぜ、それが今必要なのか。あってはならないことだが、台湾有事が起こり台湾海峡が封鎖されたら、先端ロジック半導体の7~8割の供給が止まってしまう。しかも、半導体ICではチップレットや3次元実装に競争のフェーズが移行している。つまり、競争のスタートラインが引き直されるということだ。このタイミングを絶対に逃してはならない。自動運転の本格化や量子コンピューティングなどの社会実装が2030年前後に始まる。その時に、これらの社会実装を支える先端半導体を日本で製造できるかが重要になる」と、今後の見通しを踏まえ、日本で先端半導体製造能力が必要な意義を説明。「これまでは技術からビジネスへのシームレスな連携ができていなかった。これまでも国からは研究に対しては補助金を出していた。だがTSMCへの資金援助は製造工場が対象であり、これは今までになかったことだ。今後は、大学で生まれたシーズを拾い上げ、スタートアップにつなげていくような工程をシームレスに行う方向に転換していく。技術で勝って、ビジネスでも勝つような流れにしていく」と、産業としても成長させていくことを目指すとし、「明日は今日よりよい日本にしたい。データを制する者が世界を制する。すなわち、半導体を制する者が世界を制する。ASEAN諸国からからLook Eastと言われる日本にしたい」と話を結んだ。
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なぜRapidusは日本で先端ロジックの製造を目指すのか?
また、東氏は「日本は半導体のシェアのみならず、最先端ロジック半導体の技術さえも失ってしまった。かつて日本が持っていたリーダーシップも失い、今は孤立している状況である。世界が要求する性能、コスト、スピードにもついていけていない。こうした中で、半導体の先端ロジックを取り戻し経済成長の基盤を構築するというのが、我々が目指しているものだ。国レベル、民間レベルでの競争力増加を狙っている」と、日本の半導体産業に対する現状認識を説明。「こうした中で、半導体の先端ロジックを取り戻し経済成長の基盤を構築することを目指している。今回、短TATを特徴としてRapiodusを設立した。すべての国立機関がRapidusをサポートするためにLSTCを設立した」とRapidus設立の背景も説明した。
また、「未来社会の産業についてビジョンを持ち、その実現のために、米国や台湾、韓国が『beyond 2nm』の技術開発にしのぎを削っている。『2nmプロセスノードのチップを使う場がないのではないか』との声も日本にはあるが、未来の産業を形成していくには長い時間がかかる。産業と技術の関わり合い方を変えていきながら、進めていく必要がある」と、2nmに取り組む意義を説明する一方、「(甘利議員の前では言いにくいが)以前は、半導体産業に政府の支援が必要だった時に助けてもらえなかった。今回は政府からのはっきりとした支援があるのが励みだ」と、政府からの支援に対する謝辞も述べている。
同じくRapidusの小池氏は、「Rapidusはスピードが大切。サイクルタイムの短縮。コラボレーションが大切でIBMと戦略的提携。“日の丸半導体の復活”といわれるが、何でも自前で行える時代は終わった」と強調したほか、「先端ロジックは10-20年遅れた。IBMからGAA技術のオファーがあったのが幸いだった」と述べ、IBMとの連携の重要性も強調した。
研究領域でも重要となる国際連携
IBMのGil氏は「社会課題の解決のためにはテクノロジーが必要であり、そのテクノロジーの限界を突破するためには国際協業が必要になる。日本には半導体装置や材料などの強みがある。連携においてもこうした“資産”を十分に活用すべきだ」と指摘した。
また、五神氏は「研究と人材の点で、アカデミアを代表して協力する。さまざまな世界的課題解決には、DXとGXを同時に進めていく。これらを支える最先端半導体を育てることが大切である」と、教育という観点からも半導体の重要性を強調。「2019年における東京大学とTSMCのアライアンス締結や、それに伴う『d.lab』の設立が速やかに進んだのは、日本の技術者や研究者たちが、世界の半導体業界関係者と築いてきた信頼関係があったからである。さらに、日米欧でも長年にわたり強固な連携を行ってきたので、そこで築いた相互の信頼関係を活用していけるだろう」と研究領域でも国際協調が進むことが期待されると述べた。