2022年12月19日16時42分 / 提供:マイナビニュース
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北海道大学(北大)、京都大学(京大)、東京工業大学(東工大)、東京大学(東大)などで構成される研究チームは、小惑星探査機「はやぶさ2」がC型小惑星「リュウグウ」から採取したサンプルの中に、初期太陽系の高温環境で形成した鉱物を多数発見。解析の結果、リュウグウは、通常の炭素質隕石の母天体よりも太陽から遠い、彗星により近い領域で形成されたことが判明したと発表した。
同性かは、北大 大学院理学研究院の川﨑教行 准教授および圦本尚義 教授、京大 白眉センターの松本徹 特定助教、東工大 理学院地球惑星科学系の横山哲也 教授、東大 大学院理学系研究科の橘省吾 教授らの研究チームによるもの。詳細は「Science Advances」(オンライン版)に掲載された。
はやぶさ2が持ち帰った小惑星リュウグウのサンプルの分析から、リュウグウはイヴナ型炭素質隕石に類似した物質であり、主に約40℃ほどの低温の水溶液から析出した鉱物で構成されることが分かっていた。
こうした鉱物は、リュウグウの母天体において氷の融解より発生した水溶液がリュウグウに元々あった鉱物を変質させることでできたもので、そうした変質作用が起きたのは、太陽系誕生から約500万年後であったことも判明していたが、逆に言えば、それ以前の初期太陽系の情報を得ることはできていなかったことを意味するという。
そこで研究チームは今回、リュウグウおよびイヴナ型炭素質隕石の中から、太陽系誕生から約500万年後に起きていた低温の水溶液の変質作用を生き残った初生鉱物(氷が存在していた時代にリュウグウおよびイヴナ型炭素質隕石母天体に含まれていた鉱物)の探索を行い、その起源の決定に挑んだという。
具体的には、北大の走査電子顕微鏡で形状観察、化学組成分析を行い、水溶液の変質作用を生き残った初生鉱物の探索を実施したほか、鉱物の起源特定に向け、北大の同位体顕微鏡(二次イオン質量分析計)を用いて、酸素の同位体組成の測定を行ったという。
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その結果、リュウグウおよびイヴナ型炭素質隕石から、かんらん石、輝石、スピネルといった、水溶液の変質作用を生き残った初生鉱物を数十粒子発見することに成功したとする。
これらの鉱物はまれな存在で、大きさも数十μm以下と小さいものであったが、計40粒子について酸素の同位体組成を測定したところ、はっきりと2つに分かれることを確認。
このうち、惑星型の酸素同位体組成を示す鉱物は、原始太陽系円盤における内側太陽系にて、高温のメルトから固化したとされるコンドリュールと呼ばれる物質を起源としていること、もう一方の太陽型の酸素同位体組成を示す鉱物は、約46億年前に原始太陽の近傍で高温ガスから凝縮した難揮発性包有物を起源とするものであることが判明したという。
それぞれの鉱物は、ともに原始太陽系星雲の1000℃以上の高温環境で形成したもので、そうした高温鉱物が高温環境で形成された後、冷たい外側太陽系領域まで輸送され、リュウグウおよびイヴナ型炭素質隕石の母天体に集積したことも判明したとするほか、リュウグウとイヴナ型炭素質隕石とで、高温鉱物の種類や産状は同一であり、リュウグウとイヴナ型炭素質隕石の類似性がより明らかになったと研究チームでは説明している。
また、太陽型と惑星型の2種の酸素同位体組成をもつ高温鉱物の存在比率については、通常の(イヴナ型以外の)炭素質隕石のものとまったく異なっていることも判明。
通常の(イヴナ型以外の)炭素質隕石においては、こういった高温鉱物のうち、太陽型のものは約2%ながら、今回の研究で判明したリュウグウおよびイヴナ型炭素質隕石は太陽型が約32%を占めており、太陽型と惑星型の2種の酸素同位体組成をもつ高温鉱物の存在比率が異なっていることも判明。リュウグウおよびイヴナ型炭素質隕石の母天体が形成した領域は、通常の炭素質隕石とは異なっていることが示されたという。
米国航空宇宙局(NASA)が2004年にスターダストミッションでヴィルド第2彗星から採取したサンプルは、太陽型の割合が約29%であることが知られており、この値はリュウグウおよびイヴナ型炭素質隕石と似通っていることから、研究チームでは、リュウグウおよびイヴナ型炭素質隕石の母天体は、彗星により近い領域で形成されたと結論づけられ、通常の炭素質隕石の母天体よりもさらに太陽から遠い場所であったと考えられるとしている。また、川﨑准教授と圦本教授は、NASAが2023年に持ち帰るB型小惑星「Bennu」の初期分析チームのメンバーでもあることから、今回の研究手法のBennuサンプルへの応用も期待されるとしている。