2022年12月15日15時51分 / 提供:マイナビニュース
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京都大学(京大)は12月14日、「Covalent Organic Framework」(COF)と呼ばれる材料の設計に対して結合様式を制御することで、その電荷輸送特性および水素発生の効率が大きく向上することを見出したと発表した。
同成果は、京大 分子工学専攻の関修平教授、同・筒井祐介助教のほか、独・ベルリン工科大学、独・ポツダム大学の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
太陽光発電などの再生可能エネルギーや、水素エネルギーの利用において、高効率で電荷を輸送できる材料の探索が進められている。数種類の小さな有機分子を“部品”として組み合わせることで巨大な分子を構築するCOFは、電荷を輸送するのに必要なパイ共役電子系を有しているほか、材料中に規則的な空孔を作り込めるため、この多孔性を利用した物質輸送の効率化や電荷の生成効率の向上が期待されている。
しかし、COF材料の探索には組み合わせる有機分子の部品の探索はこれまで数多く行われてきたが、部品同士の接続方法はあまり注目されてこなかったという。そこで研究チームは今回、接続方法に着目して材料設計を行い、電荷輸送特性・水素発生反応の評価を実施することにしたとする。
具体的には、部品となるモノマーとして、ドナー性を有する「トリフェニルアミン骨格(D)」と、アクセプター性を有する「トリフェニルトリアジン骨格(A)」を用いて脱水縮合を行うことで、「イミン結合(-C=N-)」を形成することが可能であり、これらの骨格はアルデヒド基もしくはアミノ基で化学修飾されているが、つなぎ合わせの手法としてこのイミン結合の方向性(-C=N-または-N=C-)を着目し、アルデヒド基とアミノ基を交換したモノマーからCOFを合成。それぞれ結合の順序に応じて「DCNA」、「DNCA」と命名されたという。
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どちらも結合様式を除いて同じ構造をしており、高い結晶性を有していることがX線回折測定から確かめられている。ただし、Brunauer-Emmett-Teller測定による比表面積が測られたところ、DNCAは456m2g-1だったのに対し、DCNAは1066m2g-1と、DCNAの方がDNCAよりも2倍以上高い比表面積値が示されたとする。
また、アミノ基の非共有電子対に注目し、効率的かつ可逆的にアミノ基をプロトン化することが可能なアスコルビン酸を用いた酸処理を実施。水素発生の効率化のためには、(1)光吸収と励起子の形成、(2)電荷分離と電荷輸送、(3)表面反応の3つが鍵となるが、(1)と(2)の過程評価に向け、非接触評価手法である「光励起時間分解マイクロ波電気伝導度測定法」を用いて、これらの材料の光電気伝導度を評価したところ、酸処理を行った後の光電気伝導度は、DNCAでは1.3x10-5cm2V-1s-1、DCNAでは0.6x10-5cm2V-1s-1であり、DCNAの方が光電気伝導度が優れていることが明らかにされた。
研究チームでは、結合の方向性によってまったく異なる光電気特性が与えられるため、最適な材料設計を行うには従来のような部品の選択だけではなく、結合様式も考慮に入れる必要があることがわかったとしている。
さらに、電子状態の変化が光触媒効果に与える影響を調べるため、水を用いた水素発生反応が行われたところ、DNCAでは9.57μmol h-1(1gあたり3.19mmol h-1相当)の速度で水素発生が行われるのに対し、DCNAでは83.66μmol h-1(1gあたり27.89mmol h-1相当)と、DCNAの方がDNCAよりも8倍以上も高い効率で水素発生が進行することが判明したとしている。
このほか理論計算から、酸処理により伝導帯のエネルギーが大きく下がるが、価電子帯のエネルギーはほとんど変化を受けないことが確認された。DCNAにおける高い水素発生は、水素反応を引き起こすのに十分な伝導帯のエネルギー準位と、高い電荷輸送特性が兼ね備わっていることが要因と考えられると研究チームでは説明している。
なお研究チームでは、今回の研究で見られる結合の方向性の重要性は多種多様な結合に関して成り立つものであり、今後の探索に新たな自由度が加わったことで、より優れた特性を有する新規COF材料の展開が期待されるとしている。