2022年12月13日13時47分 / 提供:マイナビニュース
2022年11月29日、スイス連邦材料試験研究所(Swiss Federal Laboratories for Materials Science and Technology、以下Empa)は、人工内耳のインプラントを行う際に活用できるスマートドリルを開発したと発表した。では、このスマートドリルとはどのようなものだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。
人工内耳インプラント用のスマートドリルとは
聴覚神経がまだ無傷である聴覚障害者は、人工内耳をインプラントすることで、聴覚を取り戻すことができる。一般的に人工内耳は、内耳に挿入するインプラントと体外装置であるスピーチプロセッサの2つで構成されている。インプラントでは、耳の後方を切開し、頭蓋骨に穴をあけ、細い電極本体を蝸牛(かぎゅう)というカタツムリのようなかたちをした器官に電極を埋め込むのだ。その頭蓋骨に開ける穴は、わずか3mmしか離れていない味覚神経と顔面神経の間を正確に通り抜けなければならず、もし失敗すれば、顔面神経が損傷を受ける可能性があるのだ。
そこでEmpaは、顔面神経を電気的に刺激するドリル、つまり患者の頭蓋内の位置を示すドリルを開発した。このドリルは、導電性の先端を持ち、窒化チタン(TiN)および窒化ケイ素(Si3N4)により、導電性および絶縁性の硬質コーティングが施されている。このドリルを使うことで、神経に近づくと自動的に停止するスマート化が実現されているのだ。
いかがだっただろうか。このスマートドリルは、まだ医療用としての認可は下りていないという。しかし、このドリルが持つ機能からすれば、たとえば脊椎手術など精密な手術にも使用できるという。Empaは、法的要件に従ってスマートドリルを製造できる産業パートナーを探しているとのこと。このような機器がさらに発展し、そして普及していくことで多くの人が助かってほしい、そう感じるすばらしい研究成果だ。
齊田興哉 さいだともや 2004年東北大学大学院工学研究科を修了、工学博士。同年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に入社し、2機の人工衛星プロジェクトチームに配属。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。 現在は、コンサルティングと情報発信に注力。書籍に「宇宙ビジネス第三の波」、「図解入門業界研究 最新宇宙ビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本」など。テレビ、新聞、Webサイト、セミナー・講演も多数。 この著者の記事一覧はこちら