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前澤友作氏、月旅行計画「dearMoon」のクルー8人を発表 - 2023年打ち上げ予定

2022年12月09日19時12分 / 提供:マイナビニュース

●あの宇宙系YouTuberでおなじみティム・ドッド氏も! 選ばれた8人のクルー
実業家の前澤友作氏は2022年12月9日、月旅行プロジェクト「dearMoon」に参加するクルー8人を選定したと発表した。

前澤氏と8人のクルーは、早ければ2023年にも、米スペースXの巨大宇宙船「スターシップ」に乗り込み、月の裏側を回って帰ってくる約1週間のミッションに旅立つ。

前澤氏は「この旅を通していろんなことを得て、それを地球に還元して欲しい」と語る。

dearMoonプロジェクトとは?

dearMoon(ディアムーン)は、前澤友作氏が主催する、公募で選んだ8人のクルーとともに月旅行を目指す壮大なプロジェクトである。

前澤氏は1975年生まれの現在47歳。ZOZOの創業者として知られ、CEOを務めたのち、退任後は自社事業を含む13の事業を始動。また、継続的な多方面への寄付活動のほか、ベーシックインカム社会実験を実施するなど、社会課題解決に取り組んでいる。2021年12月には、日本の民間人として初めてロシアの「ソユーズ」宇宙船に乗り込み、国際宇宙ステーション(ISS)に渡航。約12日間滞在した。

dearMoonの打ち上げは2023年の予定で、イーロン・マスク氏率いる宇宙企業スペースXが開発中の巨大ロケット「スーパー・ヘヴィ(Super Heavy)」と、それによって打ち上げられる巨大宇宙船「スターシップ(Starship)」を使う。

dearMoonが発表されたのは2018年のことで、前澤氏がスペースXから、スターシップを使った月旅行計画の全席の権利を取得したことにより始動。当初は前澤氏が選んだアーティストとともに旅立つとされたが、2021年3月に「宇宙へ行くチャンスをより多くの、より多様な人に開きたい」とし、世界中から公募。249の国と地域から約100万人の志願者が集まった。

そして書類選考、課題選考、面談、そして最終面談・メディカルチェックを経て、実際に前澤氏と一緒に月へ旅立つ8人のクルーが選抜された。発表された今日9日は、前澤氏がISSへ飛び立ってからちょうど1周年の記念日にあたる。

選ばれたのは、YouTubeチャンネル「Everyday Astronaut」で知られる宇宙系YouTuberのティム・ドッド(Tim Dodd)氏をはじめ、世界的に注目されるDJ、ミュージシャン、写真家やオリンピック金メダリストなど。また、このうち誰かがなんらかの事情で参加できなくなった場合に備え、2人のバックアップ・クルーもあわせて選抜された。
○dreaMoonのクルー(左から、生年月日、国籍、肩書。敬称略)

リアノン・アダム(Rhiannon Adam)……1985年4月19日生まれ(37歳)、アイルランド、写真家
スティーヴ・アオキ(Steve Aoki)…… 1977年11月30日生まれ(45歳)、米国、DJ / プロデューサー
イェミ・A・D(Yemi A.D.)……1981年11月4日生まれ(41歳)、チェコ、振付師
ティム・ドッド(Tim Dodd)……1985年2月27日生まれ(37歳)、米国、YouTuber
ブレンダン・ホール(Brendan Hall)……1994年5月1日生まれ(28歳)、米国、映像作家
カリム・イリヤ(Karim Iliya)……1990年4月20日生まれ(32歳)、英国、写真家
トップ / チェ・スンヒョン(TOP / Choi Seung Hyun)……1987年11月4日生まれ(35歳)、韓国、ミュージシャン
デヴ・ジョシー(Dev D. Joshi)……2000年11月28日生まれ(22歳)、インド、俳優

○バックアップクルー

ケイトリン・ファリントン(Kaitlyn Farrington)……1989年12月18日生まれ(32歳)、米国、スノーボーダー
ミユ(Miyu)……1997年12月3日生まれ(25歳)、日本、ダンサー

クルーに選ばれた一人であるドッド氏は、「月のまわりを旅できるなんて想像もしていなかったけど、みんなと一緒に行けることがすごく楽しみだよ!」と喜びを語る。

「dearMoonに応募したのは、アーティストやクリエイターを月に送るという素晴らしいビジョンを前澤友作さんが世界に向けて発表したとき、その場に実際にいて、すごいと思ったからです。応募しない手はないと決心しました。そして今、ここにいます」

そして、「(YouTuberとしての活動は)宇宙を一般の人々にとって『身近』なものにすることを目標にしています。一般の人々に経験を共有したり説明したりするのに役立つと思われる、これまで見たことはないが、ぜひやってみたいビデオがたくさんあります」と抱負を語った。

月へ旅立つことについては、「もちろん、正直にいうと、月に行くのは怖いです。これまで4隻の宇宙船プロトタイプの爆発を経験しましたから、リスクについてはよく知っており、むろん何度も頭をよぎりました。ですが、このミッションが実現するまでに、スペースXはこれまで不可能だった方法で信頼性の高い設計を繰り返し、改善するだろうと確信しています」と語る。

10人の選抜を終えた前澤氏は、「(候補者に対しては)幼少期からどういう人生を過ごしてきたのか、そしてなぜ宇宙にロマンを感じ、どういったチャレンジをされたいか、その月に行った体験というのを地球に持ち帰って今後の人生にそれをどう生かせるか。お一人お一人とかなり突っ込んだ話をさせていただいた」と語る。

そして、「(彼らに対して)絶対こうしてほしい!っていうのはないけれど、それなりに責任感を持って地球から出て、月まで行って帰ってくるっていうこの旅を通していろんなことを得て、それを地球に還元して欲しいなっていうのは共通して思います」と期待を述べた。

●前澤氏らはどうやって月へ飛ぶ? スターシップの飛行計画と開発状況
前澤氏らを乗せたスターシップはどう飛ぶ?

前澤氏らが乗り込むスターシップは、スペースXが開発中の巨大宇宙船である。

その全長は50m、直径は9mもあり、これまでに開発されたどんな宇宙船よりも大きい。さらに、このスターシップを宇宙へ打ち上げる「スーパー・ヘヴィ」と呼ばれるブースターと組み合わせると、全長は120m、直径は9mもの巨体となる。

スターシップには最大100人の乗員乗客、もしくは100t以上の衛星や物資を搭載し、地球を回る軌道へ飛行できるほか、軌道上で推進剤の補給を受けることで、そのまま月や火星へ飛んでいくこともできるなど、従来のロケットをはるかに超える打ち上げ能力をもつ。

くわえて、スターシップもスーパー・ヘヴィも機体を完全に再使用でき、何回も飛行することで、従来のロケットより桁違いに安いコストで打ち上げることを目指している。マスク氏の発言では、「最も安い想定では、1回あたりの打ち上げコストは約100万ドル」とされている。

dearMoon計画では、前澤氏らを乗せたスターシップは打ち上げ後、「自由帰還軌道(free return trajectory)」と呼ばれる軌道に乗り、月へ向かって飛行。そして月の裏側を回って地球へ帰還する。打ち上げから帰還までは約1週間の旅となる。

月を周回する軌道に入ることはなく、月面に着陸もできないものの、自由帰還軌道に乗ると基本的にエンジンを噴射する必要がなく、なにもしなくてもかならず月でUターンし、地球へ戻ってくることができる。つまり、月へ向かう軌道に乗ったあとに万が一トラブルが起きても、漂流する心配がない、安全性が高い軌道なのである。

また、最接近時には月の地表から約200kmほどにまで近づくことができ、条件によっては月の裏側を通り抜ける際に地平線から昇る地球を見ることもできるため、月旅行としての魅力も失われない。

今回のdearMoonのクルー発表に際し、スペースXの顧客統括部 責任者を務めるジェシカ・ジェンセン(Jessica Jensen)氏は、「弊社は、このような素晴らしい人たちがdearMoonプロジェクトに参加してくれることを大変嬉しく思っています。彼らの飛行に先立ち、我々は迅速に再利用可能な惑星間輸送システムであるスターシップの開発を大きく前進させ続けています。dearMoonに参加するクルー達が、月面の上空200km以内を移動し、月周回を終えて安全に地球に帰還することを楽しみにしています」とコメントしている。

スターシップの開発状況は?

スターシップは現在、スペースXがテキサス州ボカ・チカにもっている施設で開発中の段階にある。これまでに、スターシップの試作機を使い、高度約10kmまでの飛行、着陸試験を経験しており、スーパー・ヘヴィも地上での試験が続いている。両者を組み合わせ、地球を回る軌道へ打ち上げられたことはまだ一度もない。

スターシップをめぐっては、以前は2021年中にも軌道への試験飛行を行うとされたが、米国連邦航空局(FAA)によるボカ・チカの環境への影響評価の遅れなどにより、まだ実現していない。FAAによる環境への影響評価は今年6月に完了したが、スペースXに対し、数十の環境負荷軽減策を取ることを求めている。

一方、スターシップは夏から現在にかけ、地上でのロケットエンジンの燃焼試験を行ったり、そのエンジンの改良を行ったりといった取り組みを続けている。

またスーパー・ヘヴィも、試験機である「B7」がエンジンを11基装備した状態で地上燃焼試験を実施。さらに次の試験機「B9」の試験の準備も進んでいる。

現時点では、スターシップがいつ初飛行するかはまだ明らかになっていないが、来年はじめごろにも行われる可能性がある。

また、前澤氏以外にも、スターシップによる打ち上げを契約している企業もある。日本のスカパーJSATは今年8月、自社の通信衛星の打ち上げでスターシップを使う契約を締結。さらに一部報道では、スマートフォンと衛星間の直接通信を目指す米国のASTスペースモバイル(AST SpaceMobile)が、複数の打ち上げを契約した際、スターシップを使うオプションが含まれていたとされる。

さらに、米国航空宇宙局(NASA)などが進める国際有人月探査計画「アルテミス」では、スターシップを改造した月着陸船を使うことが計画されており、2025年に予定されているアポロ計画以来となる有人月探査ミッション「アルテミスIII」でもさっそく使用されることになっている。

その巨大さ、複雑さから、スターシップはまだ海の物とも山の物ともつかないというのが実際のところだろう。しかし、少しずつではあるが飛行に向け前進していることは間違いない。

発表に先立ち、前澤氏はマスク氏とミーティングを行ったことを明らかにしており、スターシップの開発状況についても話を受けたものとみられる。それを受けた今回の発表でもなお、2023年に出発すると明言したからには、楽観視できる前向きな内容だったことが伺える。

おりしも現在、アルテミス計画の最初のミッションとなる「アルテミスI」の宇宙船が、月から地球へ向けて帰路の途中にある。さまざまな人々が、さまざまな宇宙船で月へ飛び立とうとしているいま、ふと月を見上げれば、その距離が少しばかり縮まったように感じられるかもしれない。

○参考文献

・dearMoonクルー決定
・SpaceX - Updates
・SpaceX - Starship

鳥嶋真也 とりしましんや

著者プロフィール 宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。 宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 この著者の記事一覧はこちら

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