2022年12月11日15時00分 / 提供:マイナビニュース
●1,000万を超える爆発的再生数も
まもなく放送開始53年を迎える日本テレビ系ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント』(毎週日曜24:55~)が、『Nドキュポケット』と題して過去の名作の短尺版を制作し、今年3月からYouTubeで配信をスタートした。12月10日現在で117本を公開し、1,000万再生を超える動画も出てくるなど、人気コンテンツとなっている。
一方、放送27年を数えるフジテレビ『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)でも、これまでの話題作をダイジェストにし、11月30日からYouTubeで10タイトルの配信を開始。日本語ナレーション版と英語ナレーション版を制作し、多言語字幕を付けて世界配信を意識している。
市井の人々が主役となるドキュメンタリー番組の場合、ドラマやバラエティに比べて、YouTube配信の権利処理がしやすいという背景もあるが、長寿ドキュメンタリー番組の二大巨頭はどのような狙いでYouTubeに進出したのか。両番組の担当者に、それぞれ話を聞いた――。
○■高い完走率と若い世代へのリーチ
“ポケットの中に入るNNNドキュメント”という意味を込めて名付けられた『Nドキュポケット』は、YouTubeの『日テレNEWS』公式チャンネルで配信され、再生回数の稼ぎ頭だ。中でも、生まれながらに高IgD症候群という難病と闘う男性の20年を追った『拝啓 連也様 ~マスク越しの闘病20年~』(福井放送制作)は、最多の1,120万再生にのぼり、3,300件以上のコメントが書き込まれている(※12月10日現在)。
動画を最後まで視聴する“完走率”も非常に高いそうで、日本テレビの今村忠プロデューサー(以下同)は「ネットの動画というのは、いわゆる衝撃映像みたいなものがウケると思っていたのですが、ドキュメンタリーがこれだけ見られるというのは驚きました。しかも、F1(女性20~34歳)・M1(男性20~34歳)という若い世代にも刺さっているので、これはかなり自信になりました」と手応えを語る。
○■放送53年も危機感「いつ終わってもおかしくない」
こうした新たな取り組みを進める背景には、老舗番組でありながらも抱く、時代の変化に伴う番組終了への危機感があった。
「『キユーピー3分クッキング』『笑点』に次ぐ日本テレビで3番目の長寿番組なのですが、テレビ報道のスタイルがどんどん変わって、インターネットが普及していく中で、1本のドキュメンタリーを長期間かけて作るというのは、費用対効果を考えると、あまり効率は良くないんです。社内でも『Nドキュって、いつ終わってもおかしくないよね』という話を聞くことがあって、このままではいつかその時が来ると思っています」
だが、「『NNNドキュメント』の放送をきっかけに、これまで一部の人しか知られてなかった問題が全国的に知られるようになり、それが大きな社会問題として日本中で考えられるようになって、国や行政などが動き、解決の道に進んでいく……そんなケースがいくつもあります。取材を受けた難病患者の家族の方は『池に投げた小石くらいの小さな波紋も、みんなの力が加われば大きな波となって山をも動かす力を持つんですね』と話してくれたことがあります」と明かし、「テレビには社会を変える力がまだまだあるので、この番組を終わらせてはいけないんです」と力説。
そのためにも、『Nドキュポケット』で爆発的な再生回数が続出するパワーを持つコンテンツであることを社内にも示し、短尺版の視聴をきっかけに、『NNNドキュメント』本編の放送を見るという流れを作ることを目指している。
そして、これまで放送された2,600本を超えるアーカイブは、その時代の社会や風景を記録した資料的価値も大きいため、「権利関係でクリアできるものがあれば、アーカイブも順次配信していければと思っています」と構想を明かしてくれた。
●どん底の地下アイドル・きららさんが好調な出足
『ザ・ノンフィクション』は、1,000以上のアーカイブの中から名作・話題作の10タイトルを選出し、約3分×3本で構成される日本語ナレーション版『ザ・ノンフィクション 3mn』(語り:斉藤舞子アナウンサー)と、3本を一本化した英語ナレーション版『THE NONFICTION 10mn』(語り:グローバル事業部・秋元優里氏)が、新たに開設した『FUJITV GLOBAL CHANNEL』で配信されている。
そのラインナップは、熱血和尚と傷ついた子どもたちの魂の11年の記録『おじさん、ありがとう~ショウとタクマと熱血和尚~』(2019年6月2日放送)、京都の花街で憧れの舞妓になりたい少女を追った『泣き虫舞妓物語 2022~夢と希望と涙の行方~』(2022年7月10日、7月17日放送)など。作品の選定について、フジテレビの西村陽次郎チーフプロデューサー(以下同)は「海外の方に見てもらうというのが最終的な目標なので、国籍や人種を問わず見てもらえるようなテーマや、京都の舞妓、地下アイドルといった日本独自の文化というのも意識して、まずは10本を選びました」と明かす。
その中でも、借金450万円を抱える人生どん底の地下アイドル・きららさんの人生を追った『しっくりくる生き方』(2017年2月12日放送)が好調な出足を見せており、新設チャンネルながら配信12日目で100万再生を突破。「要因はまだ詳しく分析できていないのですが、やはり力のあるコンテンツだなと思いました」と驚きを語った。
○■別プラットフォームでも配信へ「“ドキュメンタリー新時代”を」
今回の世界配信は、『ザ・ノンフィクション』の作品が、毎年のように海外の映像賞を受賞していることも後押しになっているが、海外で評価される理由については、「国や人種によって文化や価値観の違いは当然あると思いますが、『ザ・ノンフィクション』が描いてきた家族や人間関係といったものは、人類に共通して普遍的なものだと思うんです。その海外の人にも通じる芯の部分と、『ザ・ノンフィクション』という番組が持つ魅力が重なって、共感していただいているのではないかと思います」と分析。
それだけに、「この1週間ではまだ日本国内のユーザーが多いのですが、やはり海外に向けて発信したいという思いがあって多言語にこだわっているので、この先どこかでブレイクスルーしたいですね」と力を込めた。
第2弾の配信については、「まずは第1弾の反応を見てというところになりますが、権利処理をすればすぐにでもできるので、個人的にはやりたいと思っています」と意欲。今後、別のプラットフォームでも配信展開を計画しており、「サッカー日本代表の森保監督が『新時代を見せてくれた』と言っていましたが、『ザ・ノンフィクション』に限らず、日本発のドキュメンタリーも“ドキュメンタリー新時代”をつくるべく仕掛けていければ」と展望を語っている。