2022年12月09日16時58分 / 提供:マイナビニュース
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奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)は12月8日、次世代の柔軟で丈夫な超フレキシブル回路作製のため、これまで実用レベルの性能が実現されていなかったポリマー半導体のnチャネル型FETを、基板上で溶液を直接塗布せずに転写する「配向フローティング薄膜(UFTM)」という新技術を用いて作製することに成功したと発表した。
同成果は、NAIST 先端科学技術研究科 物質創成科学領域 有機エレクトロニクス研究室のマニッシュ・パンディ助教、同・中村雅一教授らの研究チームによるもの。詳細は、材料科学や電子および磁性材料の工学などを扱う学術誌「Advanced Electronic Materials」に掲載された。
ポリマー半導体は、曲げや引っ張りに強いことから、将来の超フレキシブル電子回路への活用が期待されているが、さまざまな半導体集積回路の基本要素になっているCMOS回路を、ポリマー半導体ですべて置き換えるにはいくつかの課題を解決する必要があるとされている。
CMOS回路は自由電子を持つn型半導体と、電子の抜けた跡である正孔を持つp型半導体が、それぞれ電流が流れるチャネルを形成し、電流を調節するトランジスタ(FET)を組み合わせることで構成される。ポリマー半導体を用いる場合、2種類以上のこうした半導体薄膜を同一基板上に形成する必要があり、従来の溶液による塗布法では、ポリマー薄膜を積み重ねる際に先に形成された薄膜を溶かしてしまうことが課題の1つとなっている。
この課題については、パンディ助教らが開発したUFTMが、基板上で溶液を直接塗布せずに転写する仕組みであることから有効性が予想されていたとする。ナノメートルオーダーの薄膜が、液体の表面に形成される技術であり、さまざまな基板の上に墨流しのように転写することが可能だという。
すでにpチャネル型FETは高い性能のものが報告されているが、それと同じ程度の性能を有するnチャネル型FETは実現できていなかったことから、研究チームでは今回、UFTMを用いて、n型ポリマー半導体分子が一方向に整然と並ぶ形で高度に配向した薄膜を成膜することで、pチャネル型FETと同等性能のnチャネル型FETの作製に挑むことにしたとする。
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具体的には、自己凝集能力が高い傾向にある高性能n型ポリマー半導体材料に対し、UFTMの最適化を実施するのと同時に、電極から電子を注入するときの障壁を下げ、理想的なnチャネル型FET特性を得る方法も開発することで、実用的な性能を持つnチャネル型FETの動作実証に成功したとする。
今回の研究成果により、超フレキシブルCMOS回路を実現するための第一段階の要素技術がそろったことから、研究チームでは次のステップとして、今回開発されたnチャネル型FET作製法と、すでに開発されているpチャネル型FET作製法を組み合わせ、CMOS論理回路の最小構成要素であるCMOSインバータ回路の作製を目指すとしており、併せてシリコンCMOS回路の模倣ではなく、ポリマー半導体とUFTM法ならではの優れた点を活かした新しいデバイス構造と配線接続方法などを開発していくとしている。
また現在、皮膚などの凹凸があり伸縮性がある表面に転写することができる電子タトゥーという電子回路が揺籃期にあることを踏まえ、研究チームでは今回の研究を発展させることで、これまで硬くて厚みのあるシリコンLSIに頼らざるを得なかった高度な演算機能や通信機能を内蔵することができ、より実用的な電子タトゥーが実現されることが期待されるともしている。