2022年12月07日18時10分 / 提供:マイナビニュース
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東北大学(東北大)と科学技術振興機構(JST)の両者は12月6日、核融合プラズマに代表されるプラズマ利用機器において、従来はネガティブな存在と考えられてきたプラズマ不安定性が、「磁気ノズルを用いた無電極プラズマ推進機(ヘリコンスラスタ)」作動の鍵となる「プラズマ流離脱」を促進する重要な役割を果たすことを明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、東北大大学院 工学研究科/東北大 非平衡プラズマ学際研究センター プラズマフロンティア科学部門の高橋和貴准教授(JST創発研究者)、オーストラリア国立大学のChristine Charles 教授、同・Rod W Boswell教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
ヘリコン波放電による高密度プラズマ生成を利用することから「ヘリコンスラスタ」とも呼ばれる磁気ノズルを用いた無電極プラズマ推進機は、宇宙空間における次世代の大電力推進機として期待される方式の1つだ。これは、高周波プラズマ源で電離した燃料ガスが磁気ノズル中の膨張過程で自発的に加速され、宇宙空間へと噴射することで推力を得る仕組みである。
従来の推進機との大きな違いは、プラズマ生成・加速に用いるための金属電極がないため、構造上その損傷の問題がない点だ。つまり、大電力作動においても推進機の長寿命化が期待できるのである。また現時点での最高推進効率が約30%に達していることは、高橋准教授らの研究チームが2022年11月11日に発表済みだ。
ヘリコンスラスタにおいて、プラズマ加速と推力発生に大きく寄与する磁気ノズルは、最重要コンポーネントの1つだ。同ノズルからの磁力線は閉ループ構造を形成し、このループに沿ってプラズマが流れを形成した場合には、放出されたプラズマ流が推進機へ戻ってきてしまい、推力を発生できなくなってしまう。そのため、加速過程の後に磁気ノズルからプラズマ流を離脱させる必要がある。
荷電粒子は磁力線の周りを旋回運動するが、質量の大きな正イオンはこの回転半径(ラーマー半径)が大きいために磁力線の影響を受けにくく、加速されたイオンであれば離脱することがこれまでの研究で観測されてきた。
その一方で電子は、ラーマー半径がプラズマのスケール長よりも小さく、通常は磁力線に沿って運動を続ける。放出されるイオン(正電荷)と電子(負電荷)の量が異なる場合には推進機が帯電してしまい、最終的にはプラズマを噴射することができなくなるため、電子も同様に磁気ノズルから離脱する必要があり、この離脱過程の発現と理解が最重要物理課題とされていた。
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そこで研究チームは今回、推進機下流域におけるイオンの定常的な速度ベクトル、および誘起されるプラズマ不安定性の計測を実施することにしたという。そのイオン速度ベクトルの空間分布計測が行われ、その結果と磁力線の比較が行われた。すると、イオン速度の空間発散角が磁力線の発散角よりも小さく、イオンが磁気ノズルから離脱していることが示された。
電子の離脱に関しては、自発的に誘起されるプラズマ不安定性が駆動する粒子流束の評価が実施された。典型的な密度変動および速度変動の周波数スペクトルが調べられたところ、約40kHz近傍に大振幅の変動が存在していることが観測されたという。
次にその変動成分の空間分布の評価が行われた。すると、磁気ノズル中を膨張するプラズマ流の周辺領域に、不安定性が局在していることが確認されたとする。これらの密度・速度変動の非線形効果に起因する電子流束の評価の結果と、流束の方向によるグラフ化を行ったところ、40kHz帯の不安定性によって内向きの電子輸送が駆動していることが見出された。この結果は、この内向き電子輸送によって離脱したイオンを電気的に中和していることを示唆するものだという。
また定量的な計測がなされた結果、離脱したイオンの数十%程度の流束に相当していることが示された。つまり、今回観測された不安定性は、プラズマ流が磁気ノズルから離脱する過程において、重要な役割を果たしていることがわかったのである。
プラズマ不安定性や乱流現象は、将来のエネルギー源として期待される核融合プラズマにおいて、磁場の閉ループ構造による性能の低下を引き起こすため、その理解と抑制が大きな研究課題となっている。その一方で今回の発表では、ヘリコンスラスタにおいて、プラズマ不安定性が同推進機の宇宙空間作動にポジティブな効果をもたらしうることが示唆された。この研究成果は、プラズマ波動研究の応用開拓と新展開に寄与するものと期待されるとした。