2022年12月06日18時10分 / 提供:マイナビニュース
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東京工業大学(東工大)と核融合研究所(核融合研)は12月5日、腐食性の高い高温により液体金属スズ(Sn)と、核融合炉の候補構造材である低放射化フェライト鋼との化学的共存性を明らかにし、将来の核融合炉への採用が検討されている先進的な受熱機器「液体金属スズダイバータ」の開発に見通しが得られたことを共同で発表した。
同成果は、東工大 科学技術創成研究院ゼロカーボンエネルギー研究所の近藤正聡准教授、同大学 工学院機械系の宮川幸大大学院生(研究当時)、同大学 環境・社会理工学院融合理工学系の北村嘉規大学院生、同大学 物質理工学院材料系のオ・ミンホ助教、核融合研 ヘリカル研究部の田中照也准教授らの共同研究チームによるもの。なお詳細は、酸化を含む腐食の発生と制御に関連する幅広い分野を扱う学術誌「Corrosion Science」に掲載された。
ダイバータは、核融合炉でプラズマの純度を維持するため、その中の不純物をガス化して排気用ポンプへと導くという、核融合炉における最重要機器の1つだ。その構造材表面には荷電粒子(プラズマ)が衝突するため、大気圏に再突入した際の宇宙機と同等の極めて高い熱負荷にさらされるという。これまでは、タングステンのような耐熱性の高い金属ブロックをプラズマと接触する部分に配置して、高温高圧水で冷却する「固体ダイバータ」の研究開発が進められてきた。実際、国際核融合実験炉「ITER」や、日本国内の将来計画の「核融合原型炉」でもこの方式が採用される予定だ。
それに対して液体金属ダイバータは、優れた冷却性能を有する液体金属でダイバータの構造材料を覆うことでプラズマから保護するという、革新的な方式だ。液体金属の候補としては、融点が232℃と比較的低く、高温時の蒸気圧がほかの液体金属に比べて低いなどの理由から、スズが検討されている。さらに液体金属スズなら、プラズマにより高温に加熱されても蒸発しづらく、さらに蒸発した金属がプラズマへ混ざりにくいという長所も有する。しかし、液体金属スズは構造材を腐食しやすいことや、高温条件では反応性が高いことなど、実用化に向けた大きな課題も抱えていた。
そこで研究チームは今回、液体金属スズを対象とし、核融合炉構造材の腐食メカニズムの解明と、耐食性を示す材料の発見に取り組むことにしたという。
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まずは、核融合炉の候補構造材である低放射化フェライト鋼を液体金属スズに浸漬させ、腐食の進行状況が調べられた。その結果、低放射化フェライト鋼がスズと接した場合、腐食し始めるまでのインキュベーションピリオド(腐食が生じない期間)は非常に短く、鋼に含まれる鉄(Fe)成分と高温のスズが反応して、金属間化合物(FeSn2など)をスズ側に向かって急速に成長させながら材料を腐食することが解明された。
金属間化合物が形成される腐食速度は、500℃では10日間で約155μm程。この腐食は、1年間ならミリメートルオーダーに達する可能性があり、とても大きな腐食率であることがわかった。さらに600℃では、腐食に伴う減肉がさらに激しくなることも判明。また、このとき、スズが鋼の微細組織に内方拡散して腐食が進行することも確認されたという。
この腐食は、鉄鋼材の主成分の鉄がスズと反応するためであることは上述した通りだ。このことから研究チームは、あらかじめ鉄を酸素と結びつけて酸化鉄としておけば、スズと反応しなくなるのではないかと考察した。
そこで、鉄の酸化物(Fe2O3)とクロムの酸化物(Cr2O3)の焼結体を使用して、500℃のスズとの共存性試験が実施された。鉄の酸化物の焼結材を浸漬した結果では、焼き固める際にできた空孔にスズが部分的に侵入してしまったものの、表面に生じたスズとの反応組織の厚さは約1μmと非常に薄く、低放射フェライト鋼に比べて100分の1以下だったとした。また、クロムの酸化物の焼結材でも、表面のスズとの反応組織が非常に薄いことが確認された。
このように、反応しやすい鉄のような金属でもあらかじめ酸化物としておけば、腐食反応を大きく抑制できることが初めて明らかとなり、液体金属スズと構造材との共存の見通しが立ったとする。共存が可能であれば、核融合炉に限らず、太陽熱発電所や海水淡水化プラントなどでの液体金属スズ利用の促進が期待されるという。
また、核融合炉での液体金属スズダイバータの利用は、同液体金属による腐食と、核融合により生じる中性子(放射線)の照射が重畳する、学術的に新しい物理化学状態になるとする。液体金属スズによる鋼の腐食反応ダイナミクスに対して放射線が与える影響については、日米科学技術協力事業「FRONTIER計画」のTASK3で実施中の、原子炉環境を利用した共存性研究において調査が進められているとした。