2022年12月07日06時04分 / 提供:マイナビニュース
元国税職員さんきゅう倉田です。好きな事件は「弁護士顧問料事件」です。
「なあ、さんきゅうの周りで、アルバイトを探している芸人おらんかな?」
13年も芸人をやっていると、そのような相談を受けることがある。アルバイトの時給は安い。正社員を雇うより企業にとってメリットがあるのだろう。学生アルバイトだと経験が足りないから育てるのに時間がかかるし、学業との両立を考慮しなければらならない。
その点、売れていない芸人であれば、フルタイムで働くことも可能だし、見込みがあれば芸人を辞めるように説得して、就職させることもできる。
人を紹介するのは、多大なリスクとコストが伴う。依頼者側から業務内容・待遇などの条件面を聞き出してから、何人かの芸人に現在のアルバイトを辞める予定がないか尋ねる。
「アルバイトを探している芸人」などほとんどいない。みんな、すでにアルバイトをしているからだ。だから、「アルバイトを増やそうかな」「そろそろアルバイトを変えようかな」と考えている芸人に当たるまで聞き続けなくてはならない。
運よく見つかって紹介しても、雇用環境が悪かったり、芸人が逃げたりすると責任を問われる。紹介したからといってお金がもらえるわけではないから、善意であいだを取り持つが、不具合があれば紹介者の評価が下がってしまう。これが一番恐ろしい。
彼氏欲しいからあんたの彼氏の友達紹介してよ、みたいに気軽に頼まないでいただきたいが、紹介を頼んでくるのは先輩なので従うしかない。
「居酒屋なんやけど、人が足りないんよ。芸人じゃなくてもええんやけど、芸人で居酒屋の経験があるやつがええなあ。酒を作れるか、料理ができるか、接客に向いてるやつ、テキパキ動けるやつがええなあ、あと週5で働けて、家が遠くなくて、チャリ持ってるやつ。店長経験者とかいたら、なお良いんやけど」
宮沢賢治より注文が多い。そのような逸材がその辺をぶらぶらしているわけがない。しかし、ここで「そんな都合のいい人物はいませんよ」などと言うわけにはいかない。
「先輩、居酒屋どころか飲食店の経験もなくて、性格もとことん暗くて、数々のアルバイトをクビになったオオトモという男がいるんですが、こいつを雇ってみるのはどうでしょうか」
「そんなやつしかないのかよ。いくら芸人だって、もっとマシなやつがいるだろう」
「まあまあ、オオトモを雇うとしたら、時給いくら出せますか?」
「まあ、最低賃金までだな。1,080円くらい。本当は、300円くらいで雇いたいところだけど」
従業員に感謝しないタイプの経営者だ。ぼくは身体中を虫唾がダッシュするのを感じた。
「よし、それなら、2,500円で雇いましょう。2,500円なら、オオトモも今のアルバイトを辞めて、来てくれると思います」
「なに言うてんねん。なんで、そんなやつにそんな払わなあかんねん」
先輩は不快感を露わにした。
「自分の知り合いに焼き肉屋の店長がいるんですが、店を始めたとき、肉を仕入れるルートがなくて、とても困ったそうです。ご存知の通り、焼き肉屋は良い仕入れ先を持っていることが重要です。でも、新参者はツテがないから、困るんです。その店長は、あまり良い肉を持っていない卸売業者と付き合うしかありませんでした。この店長のすごいところは、そのろくでもない死んだ牛の肉を1.5倍の値段で仕入れたんです。値切るんじゃなくて、高く仕入れたんですよ。しばらくしてから、肉屋の間で噂が広まって、たくさんの肉屋が取り引きを持ちかけてきました。あんな質の悪い肉を高値で仕入れるんだから、うちの良い肉はもっと高く買ってくれるだろうってことで。それで、店長は良い仕入れ先を得ることができたんです」
「だからなんやねん」
「先輩の店にアルバイトがやってこないのは、労働環境がよく分からないからではないでしょうか。未経験者で居酒屋に向いていないオオトモを時給2,500円で雇えば、自分ならもっと厚遇で迎えられると考えて、希望者が来るかもしれません」
「わかった。そない言うんやったら、オオトモを2,500円で雇ったる」
こうして、オオトモは居酒屋に採用され、若干名の応募もあったという。
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さんきゅう倉田 さんきゅうくらた 芸人、ファイナンシャルプランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。法人の税務調査を行ったのち、吉本興業に。 この著者の記事一覧はこちら